第9話 フィンランド・ラーヤヴォリ

※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。 


 全13戦のWRCも後半にはいってきた。残り5戦、ともえは最終戦の日本戦にむけて試練の日々をすごしている。

 ここフィンランドはT社のヨーロッパにおける本拠地であり、T社のメンバーは走り込みをしている。そして地元フィンランド出身のドライバーであるコルホネンがWRC2デビューをすることになった。ともえとしては、先輩として負けられないという意識が強かった。

 ひとつ大きなニュースがここフィンランドでもたらされた。今までWRC2で走っていたバジルがWRC1カーに乗ったのである。T社のワークスチームではなく、サテライトチームからの参戦だが、WRC2のランキング2位につけていたのが認められ、昇格したのだ。フィンランド人なので、地元の利を活かそうという作戦なのかもしれない。スポット参戦になるか否かは、今回の結果次第だということだ。

 ともえは、ここまでWRC2のランキング5位につけている。ここまでの戦績を振り返ってみると

 第1戦 モンテカルロ 総合14位 WRC2 7位

 第2戦 スウェーデン 総合 7位 WRC2 2位

 第3戦 サファリ   総合12位 WRC2 4位

 第4戦 クロアチア  総合10位 WRC2 3位

 第5戦 ポルトガル  総合 8位 WRC2 2位

 第6戦 イタリア   総合 6位 WRC2 1位

 第7戦 ポーランド  総合16位 WRC2 8位

 第8戦 ラトビア   総合16位 WRC2 8位

 という結果になっている。年間ランキングは上位6戦のポイントが換算される。4戦でトップ3に入っているので、あと2つ頑張ればトップ争いができる。だが、他のマシンが脱落すると順位があがるという感じだった。ここ2戦は高速グラベルということで、ともえはスピードが伸びず、下位に低迷している。

 今回のフィンランドには手ごたえを感じていた。ともえの出身である北海道の道に似ているからである。高速グラベルに変わりはないのだが、砂利道というよりは泥んこ道に近い。こういう道は北海道で走り慣れている。ともえはレッキの段階でうきうきしていた。

 レースは大荒れとなった。優勝候補が続々と脱落していった。まずは、H社のヤナック。カーブでコースアウトして転倒。全損状態でリタイヤ。彼は以前にも派手なクラッシュをしたことがある。スピード狂なので、その分リスクも大きい。

 次に餌食になったのは、T社の勝山。カーブでリヤがながれてマシン後部を大破。デイリタイヤに追い込まれた。

 H社のラップ、F社のマンチェスターもデイリタイヤに見舞われた。

 大きかったのは、T社の2台である。最終日、SS19でエブンスとロバンペロの2人が森の悪魔の餌食になった。コース脇にある大きな石にヒットしてマシンを大破させてしまったのだ。エブンスはスタートしてすぐのカーブ、ロバンペロにいたってはあと数100mでフィニッシュという地点であった。そこまでトップを走っていたので、T社のチームは声がでないくらい落ち込んでしまっていた。

 救いはバジルである。地元の利ということもあり、総合4位の走りをしている。それにスペシャル参戦のオージーがトップに立っている。2位はランキングトップのH社のヌーベルである。T社とH社の激突であることには変わりはない。


 さて、ともえの走りであるが、各ステージで堅実な走りと果敢なジャンプを見せて

「Flying Kaji !」の歓声を浴びていた。

 土曜日の最終SS16は33kmのロングステージである。有名なオーエンポウヤのコースである。ここはハイスピードと数々のジャンプスポットがあり、危険だと言われて、しばらく使われなかった。だが、今回おもしろい試みがされ、ステージとして復帰したのである。

 おもしろい試みというのはシケインの設置である。通常は牧草を丸めた白い袋を置いてシケインを形成するのだが、ここSS16ではヴァーチャルシケインが設置された。ゲートとゲートの中間地に設定されており、その地点で60kmまで減速しなければならない。これに違反すると2分間のタイム加算となる。ともえは無事にシケインを通過することができ、最高速を落とすためにはいい試みだと思った。

 最終SS20(8.7km)はスキー場と林道の組み合わせのコースを2周走る。まさに北海道のコースを思い起こさせる。午前中のSS18でも走っているので、コースは熟知に近い。タイムは5分32秒。WRC2トップのオルベルグに次ぐ2番手のタイムでフィニッシュできた。総合でも6位に入った。WRC1のマシンが5台も脱落してしまったので、棚からぼた餅の入賞となった。ともえとしては、新人のコルホネンに勝つことができて、ホッと一安心というところである。だが、T社はトータルポイントで20Pの差をつけられた。一時はトップ3を独占していたが、日曜日にその内の2台が脱落し、ノーポイントになってしまったので、チーム全体の雰囲気は落ち込んでいる。優勝はオージーであったが、トータルポイントではH社に差をつけられてしまったのだ。

 ともえはレースを終えて、チーム監督の田中から祝福を受けた。

「ともえ、よくやったな。ともえのいいところがよくでたラリーだと思うぞ。堅実に走るところと攻めるところとの切り替えがよかったな」

「ありがとうございます。今回は道が北海道みたいで私の感覚に合っていたし、マシンの調子もよかったからね。なんか最高速が伸びた感じがしたんだけど・・」

「やはり感じていたか、今回スピードリミッターは外しておいたからな」

「エー、そうだったの。てっきりリミッターはついたままだと思っていたわ」

「わざと黙っていたんだ。その方がアクセルを思いっきり踏めると思ったからな」

「それで、ジャンプスポットであれだけ飛べたのね」

「やればできる。だよ」

 と監督の田中の作戦にまんまとはめられたともえであったが、ある意味自信をもつことができた。

 次戦は9月のギリシャ・アクロポリスである。天空の戦いである。細かい砂利道が続く悪路のコースである。ともえにとっては、未知のコースであるが、これも試練である。秘めたる闘志を抱いていた。

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