第8話 ラトビア・リーガ&リエパーヤ

※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。 


 ともえはバルト3国の一番北の国ラトビアに来ていた。ラトビアでのWRC開催は初めてである。以前ヨーロッパラリーで開催されており、それが昇格してWRC初開催となったのだ。

 事情通の話だと高速グラベルラリーだという。どちらかというとフィンランドやポーランドに似ているという。隣国エストニア出身のヤナックに言わせると、土の感覚が似ているという。どうやら北欧出身のドライバーに有利なステージのようだ。

 2度のレッキで、滑りやすい土だということがわかった。これは要注意だ。それに直線が長い。さすが高速グラベルラリーと言われるゆえんだ。

 木曜日のシェイクダウンで監督の田中がともえに意外なことを言いだした。

「ともえ、今回秘密兵器をマシンにのせるぞ」

「秘密兵器?」

 ともえは意外な顔をして聞き返した。レギュレーションで馬力の出る部品は制限されている。軽量化はやれるだけやっている。これ以上減らしたら剛性がなくなってしまう。

「実は、スピードリミッターをつけた」

「スピードリミッター?」

「そうだ180km以上でないようにセッティングしてある」

「なぜ、そんなことを?」

「ともえにフルスロットルで走ってほしいからさ」

「えー、今までもフルスロットルで走っていますよ」

「少しはな」

 と言って、田中はタブレットであるデータを見せてきた。

「これは同じマシンに乗っているバジルとともえのスロットルデータだ。見ればわかると思うが、バジルの方がフルスロットルの時間が長い。ともえはフルに踏んでも、すぐにアクセルコントロールをしてしまう。気持ちがあっても体が無意識にアクセルをゆるめてしまうんだ。日本ではこんな直線のグラベルはないからな」

「それでスピードリミッターなの?」

「そうだ。これがあれば直線でフルスロットル状態でいられる。今はその感覚を体で覚えてほしいんだ」

「でも180kmまでしかでないんだったら勝てないんじゃないの」

「ともえ、ここで勝とうとは思っていない。JAPANで勝つために今はマシンを自分のものにするんだ。そのためにフルスロットルの感覚を身につけるんだよ」

「JAPANで勝つためにね」

 ということで、ともえは田中の秘密兵器を受け入れた。

 木曜日のSS1。首都リガにある11.3kmのショートステージ。このステージは市街地にあるサーキットと公道を使ったターマックコースだ。グラベルタイヤでターマックコースを走るのは結構つらい。何かフワフワする。でも、他のマシンも同様なので、ともえはWRC2で3番目のタイムをだした。アクセルを思いっきり踏めるのでハンドル操作に集中できる。

 金曜日。この日が山場だ。ロングコースがあったり、広い道と狭い道が入り組んだステージがあったりと今までにないステージだ。でも、ともえは好調でWRC2でクラス3位を保っている。総合では13位だ。今回WRC1には10台参戦している。F社とH社が3台ずつ、T社は4台体制だ。どのマシンも大きなトラブルはなく、WRC2が食い込む余地を与えていない。特筆すべきなのはF社のサスケスだ。地元ラトビア出身のドライバーで現在3位にいる。今回からWRC1のハイブリッド仕様に乗ることができた驚異の新人である。出自をたどるとサスケスの家庭はラリー一家で、父親はラトビアのラリー開催に尽力したということだ。まさにラトビアの申し子だ。

 土曜日。SS12。ここでアクシデントが起きた。直線にあるシケインでともえはハンドリングミスをおかした。立ち木に激突してしまったのである。スピードは落としてあったので、損傷は少ないと思われたが、再スタートするとともえの顔が鬼の形相に変わった。パワーステアリングがきかなくなったのだ。おそらくオイルもれだ。

それからの5kmほどはパワステなしでともえは走ることになった。なんとかステージをフィニッシュしてサービスを受けることができ、トラブルは解消できたが、順位は最下位に落ちてしまった。

 日曜日。2つのステージを2回ずつ走る。ともえはダントツの最下位なので、一番最初にパワーステージを走る。13.34kmのショートステージだ。それでもジャンプ台あり、鋭角コーナーあり、高速コースありと変化にとんだステージだ。

 ともえは順位を気にすることなく、アクセルを思いっきり踏んだ。これでもかというほどアクセル全開だ。ジャンプ台では驚くべき距離をだした。周りの観客は

「 Flying Kaji !」

 と絶賛していた。タイムは7分40秒9。WRC2の中では2位のタイムをたたきだした。次のラリーにつながる走りができた。

 優勝は常にトップを守っていたロバンペロ。前回のポーランドに続いての2連勝だ。注目のサスケスは最終パワーステージ早々に右側をヒットし、タイムロス。総合7位まで順位を落としてしまった。

 次戦は8月1週のフィンランド。またもや高速グラベルコースが待っている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る