第7話 ポーランド・ミコワイキ
※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
6月末、ともえはポーランドにきていた。高速グラベルコースである。レッキの段階で、ともえは苦労していた。まるで高速サーキットのような直線路が続くのである。今まではコーナーの続くラリーコースが多かったが、ここは初めてづくしのコースとなっていた。レッキでは、スピードは出せないが、猛スピードで走ってきて、90度のコーナーが待っているというのが予想された。コ・ドライバーのトムも頭を悩ませている。どうやったらともえの良さを引き出せるかを考えているようだ。
ともえにとっては、日本国内のラリーの経験が財産としてある。日本国内のレースで、これだけの高速グラベルコースはない。サファリラリーも高速グラベルコースだが、ある意味耐久レースの様相があった。今回のポーランドは高速サーキットと言った方がいいかもしれない。
木曜日、スペシャルステージのデュアルステージで始まる。2.5kmの短いステージだが、2台が並走して走るところもある。昨年のジャパンラリーでトヨタスタジアムでもデュアルステージがあったが、そこはターマックだった。ポーランドはグラベルである。それが厄介なものだった。
H社のリーと同じ組で走ることになった。同時にスタート。リーがインコースだ。左コーナーで砂利がとんでくる。見ている観客はラリークロスを見ているみたいで、大いに盛り上がっている。だが、ともえのマシンはダメージを負った。フロントガラスにひびが入ってしまったのだ。
タイムは1分51秒8。WRC2のトップはオルベルグの1分51秒3。オルベルグはかつてWRCを走ったこともある実力者だ。今年はリタイヤが多く、年間ランク4位にいるが、マシンさえ調子よければ上位に入る力をもっている。他のマシンも距離が短いので1分51秒5程度で走っており、ともえはWRC2で8位につけている。
金曜日、SS2の29kmのコースでアクシデント発生。ジャンプしたとたん、フロントガラスが割れてしまったのである。幸いに飛び散ることはなかったが、フロントガラス全体にひびが入ってしまい、そのままでは走行困難となってしまった。ともえはデイリタイヤを覚悟したが、トムはあきらめない。足でフロントガラスを蹴とばし、まるでバギーカーのような様相になった。そして、ともえにゴーグルを渡したのである。万が一のためにストックしていたとのこと。
その日一日、ともえはゴーグルをつけて走ることになった。SS8のデュアルステージはインコースだったので、砂利がとんでくることはなかったが、ほこりがひどく視界は最悪だった。この日もWRC2で最下位となっていた。
土曜日、フロントガラスは修復された。チームに在庫はなかったが、WRCのチームに予備のフロントガラスがあり、それを流用することができた。ファクトリーのメカが交換作業に携わってくれた。チームだけでは修復できなかった。
だが、今度は別なアクシデントが起きた。左リアタイヤのバーストである。何とか走ることはできたが、タイムはまったく伸びなかった。最下位ほぼ決定である。
日曜日、パワーステージではともえがスターターとなった。サービスパークの近くのコースのミコワイキ周辺の11.2kmのコースである。午前中に逆コースを走っているので、ある程度のコースの様子はわかっている。スターターで砂利清掃の役を担うことになるが、午前中に一度走っているので、それほど砂利は多くない。むしろわだちが少なくて走りやすいとともえは感じていた。
途中、ターマックのコースが含まれている。スピード調整のためにシケインが設置されているが、このステージはともえのお気に入りだった。おもいっきりアクセルが踏める。最後はサーキットに入る。ここはもう何度も走ったところだ。1台で走るので砂利はとんでこない。ドリフトしながらコーナーを抜ける。パワーステージはオルベルグにつぐタイムをだせた。もっともWRC2優勝のバジルは余裕の走りだったので、本気で走っていたわけではない。でも、ともえにすればずっと最下位を走っていたので、このステージでクラス2位に入れたことは収穫であった。ポイントはとれず、年間ランキングも3位から5位に落ちてしまった。前回はクラス優勝だったので、天国から地獄に落ちたという感じだった。
WRCはT社のロバンペロが優勝した。本来は参戦の予定がなかったが、レッキでオージーが交通事故を起こしてしまい、参加不可能になり、急遽バカンス先から呼び出されたのである。気もちの切り替えが難しいのにもかかわらず、優勝できるのはさすが昨年のチャンピオンである。ロバンペロはこの後、日本に向かいドリフトの大会に出るということだ。前回のドリフトの大会では準優勝ということで、今はラリーよりもそっちの方に気持ちがいっているらしい。
次戦は7月中旬のラトビアである。ここも高速グラベルである。監督の田中は、ともえが苦手としている高速グラベルコースに際して、ひとつの対策をたてなければならないと考えていた。あと2週間、日本からその部品が届くことを願うしかなかった。
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