WRC2に女性ドライバー登場パート2

飛鳥竜二

第6話 イタリア・サルディーニャ

※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。

 

 ともえは、イタリアの保養地サルディーニャ島にやってきていた。バカンスの場としては最高の地だと思うが、ラリーのことを思うとのんびりしているわけにはいかない。レッキ(下見)でも、その道の状態を確かめるだけで精一杯。景色を見る余裕はなかった。白い砂利道が続くのだが、そこに転がっている石ころが並みの大きさではない。有名な三段ジャンプでまともに走ったら、一発でマシンを壊してしまう。加えてWRC2の参加台数は40台に増えた。スポット参戦が増えたからだ。地元で走り慣れているドライバーはあなどれない。

 ホテルで頭を悩ましていると、監督の田中が近寄ってきて、

「ともえ、すごいコースだろ。アクロポリスと同等の悪路のグラベルだ。まともに走ったらマシンを壊しかねない。でも、ともえには武器がある」

「えっ! 私の武器?」

「そうだよ。自分でわかっていないんだろうな」

「わかっていません。反省ばかりで・・」

「だろうな。この前、データを整理していたらノーパンク率はともえがチャンピオンだというのがわかったんだよ」

「そんなデータがあるんですか?」

「公式にはない。マネージャーのアンナが調べてくれたんだよ。ともえが気落ちしているみたいだから、元気になる材料をさがしていたんだってさ。感謝しとけよ」

「忙しい中、アンナはそこまでやってくれていたのね。うれしいけれど、パンクが少ないということは、それだけ攻めた走りができていないということじゃないですか?」

「そうかな? パンクをよくするドライバーとしないドライバー、どっちが速い?」

「それはしないドライバーですけど」

「なら、それはともえのいいところだろ。走りでは目立たないけれど、堅実に走るというのはラリーでは大事なことだ。攻めて走ってもリタイアしたら何も残らない」

「私に堅実な走りをしろと・・」

「いや、今回は攻めの走りをさせる。明日はおそらく全車ハードタイヤでくると思う。でも、ともえにはソフトタイヤをはかせる。ともえがパンクをさせない運転をすればソフトでいいタイムがでるとは思わんか?」

「たしかに上位にはいくと思いますが・・」

「よし決まった。明日はソフトでいく」


 金曜日、SS4で例の三段ジャンプにやってきた。ともえはスピードコントロールをして、無難に抜ける。ここまででWRC2の2番手につけている。他のマシンはパンクや石へのヒットでマシンにダメージをおっているが、ともえはノートラブルでやってきた。監督の田中が寄ってきて、

「よくやっているじゃないか」

「堅実な走りをしていますから」

 と、ともえが応える。

「いいんだよ。それがラリーだ。明日は半分ハードでいく。ライバルもソフトを使ってくるし、本数もかぎられているからな。それで前と後ろ、どっちにつける?」

「監督はもう決めているんでしょ。監督の指示に従いますよ」

「まあな。路面状況を考えると前につけたいところだが、他のマシンを見ると後ろのパンク率が高い。となると、後ろハードかな? どうだ?」

「前、ソフトの方がコントロールしやすいですからね。それでいいと思いますよ」

 ということで、二日目は後ろハードで走ることになった。

 昼にタイヤサービスを受けることができた。メカニック2人だけがサポートしてくれる。本来はフルサービスを受けたいところだが、このラリーはコンパクトラリーなのでサポートが限られている。この日の午後、上位陣のリタイアが相次いだ。まず、F社のフルマーがマシントラブルで離脱。T社の勝山もギアトラブルで離脱。そしてポイントリーダーのH社ヌーベルがコースアウトしてデイリタイア。彼らしくないミスだった。3台が脱落したので、ともえは7位にあがった。

 3日目、監督の田中が

「今日は、ハードでいく。他のマシンはタイムを稼ぐためにソフトタイヤを選びそうだ。そこで、他のチームとは別の作戦でいく。正直言うと、ソフトタイヤを昨日で使い切ってしまったんだけどな」

 と言う。そこでともえが

「作戦でもなんでもないじゃない。台所事情ね。でも、いいわよ。パンクをしない走りを見せるから」

「頼もしいね。頼むぜ」

 というやりとりで最終日アタックとなった。

 最終日のコースは最悪となった。白い道は細かい砂が多く、マシンが走るたびに多量の砂ぼこりが舞い上がる。後続車が走りにくいくらいだ。それと路面のわだちがすごい。同じラインがとりにくい。わだちにはまってしまうとコントロールがきかない。だからと言って、わだちをはずしたラインだと滑りやすい。ともえは、わだちのラインをうまく使ってはしる。派手さはないが、パンクのしにくい走りに徹している。サスペンションは最大にしてある。通常の長さでは底をすってしまうのだ。

 パワーステージに入る前、WRC2のトップはライバルのT社バジル。今年デビューで同じマシンを使っているので、最大のライバルだ。

 ともえが先に走る。細かいジャンプスポットも無難に抜け、最後の急カーブもいいラインで抜けた。トータルタイム3時間17分35秒03で終えることができた。

 トップのバジルがスタート。ともえとは5秒差。7kmのステージで5秒差は安全マージンだ。バジルは無理な走りはしていない。途中のタイム計測地点でも、ともえとの差はほとんど変わらなかった。だが、あと2kmという地点で、スピードがガクッと落ちた。モニターを見ていた田中が叫ぶ。

「ともえ、バジルがパンクだ!」

 それを聞いたともえが田中とともにモニターに見入る。左のリアがあきらかにおかしい。最後の急カーブではみだしかねないほど大回りしている。コントロールがきかないようだ。バジルがフィニッシュ。トータルタイム3時間17分35秒54。0.5秒差でともえが勝った。ともえは、コ・ドライバーのトムと抱き合って喜んだ。キスまでされそうになったが、それは「No thank you」と断った。それ以上に喜んでいたのは監督の田中である。こちらはマネージャーのアンナと抱き合っていた。参戦1年目でトップになれるとは夢にも思っていなかったが、パンクをしない走りで優勝できたのは、いわばチーム戦略の勝利である。総合でも6位に入り6ポイントを獲得した。WRC2選手権でも3位に入ることができた。ともえにとってもチームにとっても大きな価値のある1勝となった。

 次戦は6月末のポーランド。フィンランドと同等の高速グラベルラリーだ。ヨーロッパ勢が得意としているコースなので苦戦は必死。でも、やるっきゃない。ともえはラリーストとしてチャレンジしかないと思っていた。

 

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