最終話 幸せの結末
自分でも何が起こったのか理解できていなかった。
3年前のあの事故が過失ではなく故意でしかも安井が依頼した殺人だったとヤツの口から聞かされた時からの記憶が無い…。
ふと気がついた時にはオレは警察病院にいた。
あの時…。
オレは手に持ったナイフを安井に刺したのか…?
それでオレはヤツを?
ははは…形的には復讐劇になったという訳か…。
いや、待て待て…違う!
幸太郎〜〜〜〜!!!
「安井〜…お前は…お前だけは!」
ダメ〜〜〜〜!!!
グサッ!!
・
・
・
違う…刺されたのはオレだった…。
美羽の叫び声で一瞬躊躇した時に
安井が隠し持っていたナイフで腹部を刺されたんだ…。
そして、オレは持っていたナイフを安井の首に振り下ろした時に…。
『よせ!!やめるんだ!!』
振り下ろす腕を駆けつけた警官に掴まれとりおさえられたんだっけ…。
オレは負傷し意識を失い病院へ搬送された。
周りの証言もありオレは正当防衛という事で病室での事情聴取を受けた。
・
・
「それでは、ご協力ありがとうございます。また聞きに来るかも知れませんが、その時は宜しく。」
「あ、そうそう…怪我をさせられたのは災難だったが彼女に感謝しなさい。」
「では、お大事に…。」
「はい…。」
美羽の声が聞こえなかったらオレは安井を殺していただろう…。
というか今でも…殺してやりたい!
「幸太郎?入っていい?」
美羽…。
「ああ…いいよ。」
美羽は泣き腫らした顔だった。
そりゃそうだよな…。
3日間意識が戻らなかったらしい…。
「バカ!バカバカバカ!!」
「イテテ…。」
「何回死にそうになったら気が済むの!」
「何回私を悲しませたら…。」
わぁぁぁぁ〜…。
「ごめん…。」
オレはヒーローでも勇者でもないタダの普通の人間だ…刺されれば死ぬかも知れない悪者に立ち向かうなんてガラじゃない…でも愛する家族は守るくらいのチカラは欲しい。
「もう無茶しないで…。」
「わかった…。」
ぎゅっと美羽を強く抱きしめた…。
「そうだ…スマイルは?どうした?」
「……。」
「まさか…。」
スマイルは安井から受けた傷が深く助からなかった…。
「あいつには何もしてやれなかった。」
ごめんスマイル…。
まだ仔犬だったのに…くそ…。
『コタロー、ボクは後悔してないよ?』
え?スマイル?おまえなのか!?
『ご主人を守れたんだから…。』
『褒めて欲しいな。』
そうか…そうだよな…。
小さい体でよくやったよオマエ!
ありがとうな…。
・
・
【あの子の魂は私が連れて行くよ…。】
白いカラスの声が聞こえた…。
『それじゃねコタロー、美羽と…。』
『幸せになってね…!』
ああ…オマエも次こそは幸せになってくれ…。
『ボクは幸せだったよ?』
・
・
幸せに形はない…。
大きさも無いとオレは思う…。
美味しい物を食べてるとき…。
欲しい物を手に入れたとき…。
愛する人と過ごしてるとき。
まだまだ人は色々な時に幸せだと感じるだろう…。
幸せの結末って最初から決まってないものだと思う。
人生が終わるときに幸せだったなと思えたらそれが最高の結末だろう。
少なくともオレはそう思う。
数日の後…。
オレは退院した。
安井の公判には美羽は傍聴席で聞いていた。
オレは原告側にいた。
やつは終始ニヤニヤしてオレを見ていた…。
オレを殺すように依頼した罪は重く
死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役に処されるのが妥当だと弁護士から聞いていたが…。
当然のように被害者に謝罪の言葉も反省する様子もなかった。
即日結審した…。
『主文被告人…安井実を無期懲役に処す。』
・
・
・
裁判は結審したんだ1日も早く忘れたかったが傷を見るたびに思い出す。
事件から数年のうちにオレは美羽との間に子供を2人授かった。
当たり前の生活が過ごせる幸せな日々だった。
数十年が過ぎた…。
振り返るとオレの人生は所謂波乱万丈の人生だったのかも知れない。
だが、愛する妻の美羽や子供たちに看取られて旅立てるのは…さみしくもあり…幸せだったと…。
もし今あの白いカラスに『キミは幸せだったか?』と問われたら…。
オレは胸を張って言えるだろう。
幸せな結末をありがとう…と。
橘 幸太郎…享年75歳。
幸せの結末? 完
ご愛読、応援して頂きまして本当にありがとうございました。
幸せな結末? 涼宮 真代 @masiro_suzumiya
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