第11話 元気だったか?

令和9年春…オレは退院した。

しばらくは検査もあるから通院をしなければならないが…。

「お世話になりました。」

「おう、もう戻ってくるなよ!」

「おい…刑務所からの出所かよ?」

「あはは…。」


まさか元気に退院して行く日が来るとはな…。

そうですね…。


「コタロー!」

「お?美羽来てくれたのか…。」

「仕事は?」

「えへ…休んじゃった。」

「サボりかよ…。」

「じゃあ、お母さんは先に帰るわね」

「ああ…。」

「美羽ちゃん宜しくね」

「はい!」


わざわざ仕事休んでまで来てくれるとは思わなかったから嬉しかった。

正直、駅から歩くのはまだキツイ。

美羽の運転は怖いけど…。


「ねぇコタロー?」

「おい…オレは…。」

「幸太郎でしょ?」


なんか前にもこんなやり取りした気もするな…。

「美羽、ちょっと寄りた所あるんだけど」

「うん、いいよ…私も行きたい所あるんだけどいいかな?」

「あぁ…。」

なにげに窓を見ていた

ドッグラン…か。

「美羽止めてくれ…。」 

「え?」

キィー…。

「どうしたの?」


ガチャ…バタン…。

「ちょっと幸太郎?」


ワンワン…。

(ちょっと!)

ウゥゥ…。

(なんだよ!やんのか?)


「おまえら、やめろよケンカすんな」

クンクン…。

一匹の犬が寄って来てオレの匂いを嗅ぎはじめた…。

「元気だったか?ショコラティエ」

頭を撫でた…。

ワンワン!

『誰がショコラティエよ!』

「あぁ…すまんショコラだったな」

『あんた…まさかコタロー?』


「ちょっと幸太郎なにして…。」


犬たちが幸太郎の周りに集まっていた。

その中にはアイリスもいた。

もしかして、幸太郎は犬たちの言葉が理解できるのかも知れない…。


「アイリス…ただいま。」

アイリスが飛びついて来た。

「あはは…重いぞアイリス…。」

『おかえりなさい…。』

『相変わらずレディに対する言葉がなってないわね!』

「すまんな…ショコラティエ」

ガブッ!

勿論、アマ噛みだ。

「いて…っ」

「あ〜ら、ショコラちゃんダメでしょう」

「また遊びに来るな!」


ワンワンワンワン!


やっぱり謝らないな、あのおばさん。

「ねぇ幸太郎もしかしてだけど…。」

「あぁ…なんか理解できる気がしたから…。」

「そうなんだ。」

「美羽の行きたい所あるんだろ?」

「あ、うん」

ちょっと走るけど…大丈夫?

走るって車でだろ?

うん、30分くらいかな。

そっか、着いたら起こしてくれ…。


うん。


少し山間やまあいの道を抜けたところに美羽の目的地があった。

「幸太郎着いたよ〜。」

「おう…ん~~…。」

「見晴らし良い場所だな。」

「うん。」


動物霊園…なるほど。

アイツの墓参りか…。

不思議なものだな自分の墓参りをする気分だ…。

「幸太郎こっちだよ。」

「おう。」

オレ代わりに向こうの世界に行ったんだよな…すまなかった…ありがとうな。

「コタローのやつオレを恨んでないかな?」

「え?どうしてそう思うの?」

「いや、なんとなく…かな。」

「そんな事ないよ。」

むしろ恨まれるなら私の方かも知れないから…。


キャンキャン…。

(救けて…。)

「ん?何か聞こえないか?」

「いや、聞こえるだろ?」

「ううん、何も?」


キャンキャン

(ここから出して・・・。)

「やっぱり聞こえるぞ…こっちだ。」

「え、ちょっと…。」

墓地のゴミ置き場から聞こえている…。

まさか…ゴミの中に!?


キュン…。

(だれか・・・。)


ガサガサ…。


汚れた段ボール箱…。

思いきって開けてみた…。


「ちょっと…ひどい…。」


箱の中には仔犬が3匹入っていたが既に2匹は息絶えていた。

残りの子も弱っていた…。

誰かに救けて欲しくてずっと吠えていたのだろう。


他の2匹は弔ってやり残った衰弱してる子を連れて帰ることにした。

とりあえずはあの病院に連れていくか。

あの人をだましやがったジジィ・・・いるかな?

先に電話しておくか・・・。

プルルル・・・プル・・・ガチャ。

『はい、◯△動物病院です。』

「あの、すいません急患お願いしたんですけど・・・。」

『わかりました。』

「すぐに伺います宜しくお願いします。」

         ・

         ・

         ・

「美羽、まだか?」

「もう少しだよ・・・。」

「ヤバそうだ急いでくれ・・・。」

美羽にはこの道は精一杯だろうが…いまは美羽に任せるしかない。

オレは運転はできない…。


キィー・・・。

ついたか・・・まだ大丈夫だな・・・。

「すいません先ほどお電話した・・・えっと・・・。」

「佐伯です!!」

「この子診てもらえますか?」

「どうしたんですか!?酷い衰弱してるじゃないですか!!」

「お墓のゴミ捨て場に・・・。」

「なんて酷い・・・。」


すぐに処置してもらえたが・・・暫くは入院だそうだ。

保護犬として預かるって話もあったが出会えたのは偶然に思えなくて

美羽が引き取ることにした。


「でも本当によかったのか?」

「だって幸太郎のところじゃ飼えないでしょ?」

「まあ…母さん動物苦手だしな・・・。」

「うちはコタローが居た時のままにしてるから。」

「オレの寝床か…?」

「ドッグケージの中で良かったらどうぞ?」

そりゃないだろ…。

「あの子引き取る時一緒に行って良いか?」

「もちろん!」


でもいくら捨てるにしてもゴミ置き場って普通じゃないよな。

下手したら生きたまま焼かれるじゃないか・・・。

考えただけでも恐ろしいな・・・。

待てよ?オレもヤブ医者にあたってたら

生きたまま焼かれてたかも。


数日後、動物病院から連絡がきた。

どうやら回復に向かってるらしい・・・。

良かった、1つでも命を救えたみたいだな。

今日はドッグカフェで軽めのランチをとシャレこんでた。

カラン!

こんな昔の喫茶店みたいなドアベルなんかあったか?

「あ、美羽それに橘くんいらっしゃい」

「やっほー来ちゃった。」

「ども…。」 

「あれ?今日はワンちゃんいないの?」

「いないとダメ〜?」

「そんな事無いよ!ご注文は?」

あはは…。

元ワンちゃんならいるぞ?

「この前食べそこねたパンケーキと…幸太郎は?なににする?」

「……。」 

「幸太郎?」

「あ、ゴメン…オレはミルクでいいや」

「え?」

「幸太郎ミルク飲めたっけ?」

「あれ…?」

なんか変だな…。

この前仔犬を見つけた時も美羽には聞こえなかった犬の鳴き声がオレには聞こえていた…。 

       ・

       ・

「ねえ幸太郎?」

「ん?」

「そろそろ、あの話し進めない?」

「あの話しってなんだっけ?」

「あー・・・3年前の約束だから忘れた?」

「いやいや、そうじゃ・・・。」

3年前の約束・・・覚えているさ結婚の事だろうな…。

でも、今のオレに美羽を支えられるだろうか・・・。

まともな仕事にも就けないだろうな。

それに美羽には言ってないが右半身が重い・・・。

事故の後遺症なのかな・・・でもいまさら?

気になる事はある検査に行くか…。


「ねえ私の話し聞いてる?」

「ねえ・・・てば…。」

「あぁ・・・聞いてる・・・よ」


ガシャン!!! ドサッ


「ちょ…幸太郎!?」


オレはそのまま気を失った・・・。

「幸太郎!!しっかりして!!」

「救急車をお願い!」


(キミじゃ美羽は幸せにできない。)

なんだ…おまえは…。

(美羽はボクが居れば他にいらないって)

それは、オレに美羽が言った…。

(違うよ?キミにじゃない…ボクにだ)

おまえは…誰だ!

(ボクはコタローだよ?忘れたの?)

バカ言うな…コタローはオレだ…!


(本当に?)

(なぜそう言えるの?)

(キミはボクの魂の容れ物なのに…。)


「バカな事を言うな!!」


再び目を覚ましたら病院のベッドだった。

「幸太郎…?大丈夫?」

はぁ…はぁ…。

「汗びっしょりだよ?」

さわるな!!

バシィッ…! 

「痛っ!!」

勢いあまって美羽の頬まで叩いてしまった…。

「こ、幸太郎…どうしたの…?」

「放っておいてくれ!オレに構うな!」

「出て行ってくれ!」

「どうしちゃったのよ…。」 

「うるさい!!」

「……!」

オレが…聞きたいよ…!

オレの中に…なにかがいる…?


(フフフ…。)



第12話につづく…。
























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