第10話 さよならだ・・・。

イヤな予感はしていた・・・。

コタローの突然の旅立ち

幸太郎の病状悪化・・・。

きっと私から何もかも奪っていくんだ・・・。

でも、これは私が悪いから仕方ないね。

自分の都合のいいお願いばかりしていたから。

願いを叶えたんだから何か頂戴・・・そんな神様にすがった

自分の愚かさを呪った。


「あの子が・・・幸太郎が・・・。」

「え…!?」

「目を開けたの・・・そして天井をずっと見つめたまま。」

「そして目をつむった途端に」

心臓と脳の波形が乱れたから慌てて・・・。

いまは、その処置中だという・・・。


やっぱり…きっと幸太郎の魂は連れていかれるんだ・・・。

私の最後の願いは叶うことなく。

私は自暴自棄になりかけていた。


ガラガラ・・・。


「ご家族の方お入りください・・・。」

「美羽ちゃんも・・・。」

「いえ・・・お母さん私はここで・・・。」


ガラガラ・・・。


どのくらいだったのだろう・・・すごく長い時間に感じた

ふたたびドアが開いた。

お母さんは泣いていた・・・。

やっぱりだ・・・。

「美羽ちゃん・・・今までありがとう。」

お母さんが私に抱き着いてきた。

「え・・・。」

「あの子に会ってあげて・・・。」

私はそう言われ恐るおそる病室に入った。

そして、目を疑った・・・。

「み・・・美羽・・・。」

「え…嘘…うそ・・・なんで?」

幸太郎が目覚めていた・・・。


私は涙で幸太郎の顔がはっきり見ることができなかった。

入り口で泣きじゃくっていた私に先生が言ってくれた。

きっとあなたの声が彼に届いたんでしょう・・・。

よかったですね。

「美羽ちゃん・・・本当にありがとうね。」

「い、いえ…わ、私はなにも・・・。」

コタローの命の灯が突然消えたのはこういうことだったのだ。

元々ひとつだった魂が分離しコタローに転生・・・残った半分の魂で

幸太郎自身の命を繋いでいた・・・。

いわゆる分身を作らせたのだろう・・・。

脳は一種の電磁パルス信号で体を動かす

コタローと幸太郎の脳がリンクしていて人語を話したり理解したり

していたのだと憶測する・・・。


幸太郎が美羽に問いかけた。

「美羽・・・オレはずっと美羽の傍に居たのかな?」

「うん…ずっと居てくれたよ?」

「でも、最後は私の所為で失ってしまったけど…。」

「キミの所為じゃないよ・・・オレを・・・起こすのに必要だったんだろ・・・?」

「彼・・・には・・・可哀想な思い・・・をさせてしまったけど・・・。」

「うん…幸太郎すこし休んで・・・。」

「ああ・・・そうさせてもらうよ・・・。」


美羽はそれ以降、献身的に幸太郎を支えリハビリにも協力していた。

そして半年が過ぎた頃・・・。

「なあ…あの犬たちは元気かな?」

「え?」

「ドッグランで一緒に遊んでた・・・。」

「やだ・・・犬の頃の記憶もあるんだ?」

「そりゃあるだろ・・・オレの一部だったんだから。」

「そっか・・・じゃあ一緒にお風呂入ったのも覚えてるんだ?」

「・・・・・・!」

幸太郎は顔を赤くしていた・・・。

「ま、まだ退院できないのかな?」

あー話しそらしたなぁ・・・。

「どうなんだろうね?」

「体はだいぶ筋力もついてきたし自分で歩いたりできるんだけどな。」

「でも、3年も寝てたのよ?」

「そっか…そんなに寝てたのか。」

「2年はお前に走らされてたのにな?」


コンコン!


「どうぞ・・・。」


ガラガラ・・・。


「智美!」

「今度こそ本当に良かったね!」

「うん!うんうん!」

「ありがとうね・・・あのとき智美に会ってなかったら・・・。」

「神様のお導きなんじゃない?」

「え?」

「あははは・・・。」

「橘くん・・・よかったね。」

「あぁ・・・あのときは何言ってるんだ?って思ったけどな。」

「え?」

「幸太郎・・・。」


30分くらい3人で談笑をしていた・・・。


「それじゃ、私いくね。」

「うん、ありがとう」

「また、ワンちゃん連れておいで御馳走するから!」

「う、うん・・・。」


ワンちゃん連れておいで・・・か。

コタローとあの店に行かなかったら今は無かったかもしれない

たしかに智美の言う通りお導きだったのだろうか?

あの白いカラスもあれ以来現れないし声もしない。


「美羽・・・驚くなよ?」

「え?なに?」

そういうと幸太郎は服をまくって見せた・・・。

「ちょっ…ええ?」

コタローが安井に刺された傷跡が幸太郎にもあった。

「な?突然出てきたんだ不思議だろ?」

「そうね・・・。」

「そういや・・・あいつ不起訴になったんだって?」

「うん…なんかそうみたいだね。」

「まあ暫くは精神科に入院だそうだから・・・。」

「うん・・・でも怖いなぁ・・・。」

「大丈夫だ、またオレが守ってやるから。」

やっぱり私は幸太郎といると幸せを感じれた。

それは犬のコタローと居る時も感じてた安心感なのだろうか?

私の最後の願い・・・幸太郎の幸せ・・・。

叶うと良いな…。


コツコツ!


なんだ?窓をつつく音・・・。


コツコツ!


シャッ・・・カーテンをあけた。

すると白いカラスがいた。

窓を開けると窓の縁に止まった。

『やあ久しぶりだね』

『私の役目はこれで終わった』

『これからの人生はキミたち自身で切り開くといい。』

「カラスさん・・・。」

「おい!お前…美羽に変なことしてないだろうな?」

『それは契約だから悪く思わないでくれ。』

『命までは奪わないだけ良心的だと思うがな。』

「コイツ…。」

『それでは・・・さよならだ。』

「ありがとうございました。」


バサバサバサ・・・カァーアーアー・・・。


「これからの人生か・・・オレたちはまだ25歳だやり直しは出来る。」

「そうね…。」

「でも、私は多くは望まないよ?」

「ん?どういうことだ?」

「私は、あなたと居られたらそれで充分だから。」

「そうか・・・。」

「うん・・・。」

おかえりなさい・・・チュッ・・・。

おい…。鼻かよ…!

あ・・・。

えへへ・・・。



第11話につづく・・・。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る