第9話 失ったもの
【おまえはどうしたいんだ?】
オレは…。
【運命とは悪戯なものだな…。】
そうだな…。
【出会わなければ良かったか?】
そんな後悔はしたくない…
【改めて問う人に戻りたいか?】
戻ってどうなる…オレは…あいつの…。
あいつ…?あいつ…って…?
美羽…オレは戻れるなら…。
翌日、美羽は母親と一緒にコタローを
迎えに来た。
「コタロー、遅くなってごめんね〜」
「迎えに来たよ〜お家に帰ろう?」
ピクッ…。
ワン!バタバタ…。
「やっぱり美羽じゃないとダメね〜」
「あはは…ごめんねお母さん。」
「では、こちらにご署名と捺印をお願いします。」
誓約書?
「何ですか?これ…。」
「条例では犬はリードに繋いで放し飼いにはしないという事になってますので」
「以後気をつけますって事ですか?」
「簡単に言うとそうですね」
「面倒くさいのね…。」
「お母さん…。」
ペタッ…
「では、失礼します。」
「コタロー行くよ?」
家に着くと美羽は病院に向った。
「また行くの?」
「うん…。」
「コタローはどうするの?」
「また逃げたら困るから…ケージに入れておいて」
「そう?なんか可哀想ね」
「仕方ないじゃない!」
「美羽?」
「ごめん…行ってきます。」
「あの子どうしたのかしら…。」
くぅ~ん…。
「よしよし…おとなしくね」
数日が経った…。
美羽はあれから毎日の様に幸太郎の病室に行っていた。
ピッ…ピッ…。
「幸太郎…また来ちゃった…。」
幸太郎の腕や指先をマッサージしながら日常的な事を話しかけていた。
そうすることによって目覚めるかも知れないと担当医から聞いたから。
「あなたが私の前から居なくなってから色々あったんだよ~って
知ってるよね…ずっと一緒に…。」
ピタ…。
美羽はふと思い返した…。
ずっと一緒に?
私は…。
涙がポロポロ落ちてきた。
【なぜ悲しい?】
わからない…。
【想いが叶ったのにか?】
想いが?
【おまえは願ったはずだ…。】
私が…願った…?
【幸太郎がどんな形でも…と。】
違う…違う違う違う!!
私は…こんなのを願ってなんかいない。
私は…。
「あら、美羽ちゃん…来てたのね」
グシグシ…。
「あ、お母さん…。」
ピコ〜ン…。
ピク…。
「え!」
「どうしたの?」
「いま、手を握り返して…。」
「……!」
幸太郎が泣いていた…。
涙を・・・。
カチッ…プルルル…。
「どうしました?」
「息子が…!」
「いまいきまーす」
コンコン…
「失礼します」
「どうしました?」
「手を握り返して来て涙を…。」
看護師が脳波計のシートを見ていた。
「これは…!」
「先生を呼んできますね!」
・
・
「良い兆しの様な気もしますが…。」
「が…何ですか?」
「自発呼吸を出来ないことにはなんとも…。」
「でも、可能性はまだあります」
「過去に5年寝たきりだった患者が意識を回復したという例もありますから」
「ありがとうございます」
美羽が帰宅途中に知らせがあった。
母親から電話だ…。
コタローが…!!
突然苦しみだして・・・。
「え!?」
どうして傍にいてあげたら異変に気がついてたのに
どうして…!!
バタン!
「コタロー!」
「コタロー!」
「ねぇ…どうしたの!?」
「お願い目をあけて!!」
ん…だれだ…呼ばれてるのか…。
行かなくちゃ…。
トクン、トクン…トクン…トク…ン。
コタロー…2歳7ヶ月永眠…。
「どうして…。」
【キミがいけないんだよ?】
私が…?
「私が何をしたって言うのよ!」
「美羽…落ち着きなさい。」
「……!?」
「返してよ!!」
「私の幸太郎を返してよ~!!」
わあぁぁ〜…。
美羽は子供の様に泣き出した。
・
・
【美羽…最後の願いは決まったかい?】
「私の最後の願いは幸太郎が幸せになってくれたら…。」
【わかった…。】
「美羽?あんた大丈夫?」
「え、だ、大丈夫よ…。」
美羽はコタローを抱きかかえて部屋に向った。
「ちょっとお姉ちゃん!」
「好きにさせなさい…。」
ごめんね…コタロー…。
もう何も答えてくれないよね…。
私はキミが居たら何も要らないって
思っていたハズなのにね…。
本当に私はバカだね…ごめんね…。
失ったものは大きかった。
心の支えになっていたコタローの突然の死…。
幸太郎が植物状態とはいえ生きていたことでコタローを
コタローには幸太郎の魂が宿っていたはずなのに
幸太郎が生きている…。
奇妙なことだった。
コタローの魂はどこに行くのだろう・・・。
そもそも幸太郎が生きてるのに
魂の分離?
あり得ないよ・・・。
翌日コタローの遺体を動物霊園に埋葬しに行った。
コタローを失ったことで幸太郎とは
もう話が出来ない…。
入院している幸太郎は目覚める日が来るのだろうか・・・。
(美羽・・・一緒にいてやれなくてごめん・・・。)
コタローの声が聞こえた気がした・・・。
墓所を建てる間、遺骨は家に置いておくことにした。
その夜・・・。
夢うつつにコタローが現れた・・・。
「美羽・・・。」
「コタロー?ゴメンね…私・・・。」
「いや、良いんだ…いつかこうなるとは思っていたから。」
「え・・・?どういうこと?」
「いまコタローはどこにいるの?」
「・・・・・・。」
ワン!!
「コタロー・・・。」
「コタロー待って!」
「コタロー~~!!」
夢が終わり目を開けると…。
そこにはコタローがいた・・・。
「いままでありがとう…ごめんなさい。」
あなたが幸せになれるのなら・・・私は・・・。
「コタロー・・・また会おうね。」
ワン!
コタローはひと鳴きして消えた…。
翌朝・・・。
背中に痛みが走った・・・。
いままで感じたことのない痛みだった。
恐る恐る姿見で背中を見ると・・・。
最後の傷は深くついていた。
やはりこれは自分への戒めなのだろうと理解した。
ひとつ願いが叶うたびに、ひとつ・・・。
そしてまたひとつ・・・。
最後の願いが叶ったら命を失うと思っていた。
日課のランニングはいつからだろう
しなくなっていた。
「今日帰り遅くなるから・・・。」
「病院寄って来るのかい?」
「うん・・・。」
「いってきます。」
美羽は仕事へ出かけた・・・。
駅までの道のりが遠く感じた・・・。
いつもはそんなことないのに。
向かいから犬を連れた人が近づいてきた。
「あの犬は・・・コタローと同じハスキーのアイリスちゃんか。」
「おはようございます。」
「最近見かけないからどうしてるかと思ってました。」
「じつはコタローが・・・。」
アイリスはそれを感じていたのか寂しそうだった。
私はアイリスの頭を撫でて・・・「ごめんね・・・。」と言った。
ウオォォォ~~~ン!!
アイリスが遠吠えをした・・・。
コタローへのお別れだったのだろうか・・・。
職場について仕事をしていてもミスが多く
いつもならしないミスまで・・・。
「
「すみません・・・。」
ダメだ・・・なにもする気になれない
頑張ろうという気になれない。
少し早く帰らせてもらい幸太郎の病院へ向かった。
様子がおかしかった。
部屋には
幸太郎のお母さんがいた。
「なにかあったんですか!?」
「・・・・・・。」
「お母さん!いったいなにが!?」
「あの子が・・・幸太郎が・・・。」
第10話につづく・・・。
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