第8話 おまえはどうしたいんだ?

思いも寄らないことになった。

ドッグカフェの店員の智美から聞いた話しは看護師の友人から聞いたものらしい。

「じゃあどういう意味で言ったのよ!」

「ちょっと、美羽落ち着いてよ…。」

落ち着いて話なんかできる状況じゃないだろ。

「幸太郎があの事故で亡くなったのはアナタも知っているでしょ!」

「私も見たもの…冷たい霊安室で寝ていた幸太郎を…。」

「だから、死んでないんだってば!!」

「え?何を言ってるの…?」

訳わからん…幸太郎が死んだから今オレはここにいるんだろが…。


「美羽、お葬式とか行った?」

「ううん…身内だけでやるから遠慮してって言われて…。」

「私も認めたくなくて行きたくなかったから…。」


「その霊安室に安置していた時に着替えさせていた看護師が友達で指先がピクッて動いたんだって…。」


「気の所為だろうと思っていたら…また…だから心音を聴診器で聴いたら心臓が動いてる!って騒ぎに…。」


「でも、意識は戻らないみたい…。」


そんな話し知らない…。

私、聞いてないよ…。

ポタッと涙がこぼれた…。


「会いたい…。」

「幸太郎に会いたいよ…。」

西郷総合病院…ここからなら割と近いな…オレも真相は知りたい…だけど

オレはなんなんだ?


「智美ごめん…ありがとう行ってみる」

「うん…気をつけてね」

(余計な事言っちゃったなぁ…。)


「おい…美羽…。」

「……。」

「美羽…!」

「え?なに?」

「さっきの話し信じたのかよ?」

「嘘を言ってるとは思えなかったから…。」

「じゃあ、オレは何なんだよ!」 

「知らないわよ!」

「私だって何が何だかんだわからないのよ!」

「だから確かめるのか…。」

「そうよ…。」

「わかった…止めてくれ…。」

「え?」

「車を止めろって言ってんだよ!」


キッキィー…。


コタローは換気用に開けていた窓から飛び出した。

「ちょっと!」

「行くなら一人で行けよ!」


オレは逃げ出したのだろう。

真実を知るのが怖かった。

だから逃げ出した…。


うわぁぁぁ〜〜!

全力で走っていた…。


だか、美羽は追いかけて来なかった。


「西郷総合病院…あれ以来、来てない。」

足早に受付けに行き聞いた…。

「あの橘 幸太郎の病室はどこですか?」

受付の女性が一瞬固まった気がしたという…。

「ご家族の方ですか?」

「いえ…。」

「あの…どういったご関係ですか?」

このやり取りで確信した幸太郎はここにいると…。

「婚約者です」

「…わかりました…5階のナースステーションで確認してください。」

「ありがとうございます。」


チーン…。

美羽はエレベーターに乗った。

【後悔しないのか?】

突然誰も居ないのに声が聞こえた…。

後悔するかも知れないけど行かなければもっと後悔するかも知れない!

【そうか…。】

チーン…。

(5階です…。)


ナースステーションは目のにあった。

「すいません、橘 幸太郎の病室は…。」

「橘さんですか?少々お待ちください」

「申し訳ありませんが当院には…。」

「え…。」

「そうですか…。」

廊下の奥に目がいった。

「お母さん…?」

幸太郎の母親を見かけた…。

ひと違いでは無い。


お母さん!!


ギョッとした顔を母さんはした。

「美羽…ちゃん…?」

「ど、どうしてここに?」

「それは私もお母さんに聞きたいです。」


「幸太郎さん…いるんですね?」

「……。」

「会わせてください!」

「会ってどうするの?」

「え?」

「ただ管に繋がれて植物状態のあの子に会ってどうするのかって聞いてるのよ」

「お母さん…?」

「これなら死んでくれた方がマシよ!」

「どうしてそんな事が言えるんですか!?」

「幸太郎さんだって頑張って生きてるんじゃないですか!」

そう言った美羽の腕を掴んだ母さんは…病室に連れて行った。


「これでも…これを見ても生きてるってアナタは言うの!?」


シャッ!

母さんはベッドのカーテンを勢いよく開けた。


ピッピッピッピッ…。

シュー…ガコン、シュー…ガコン…。


鼻と口に管を入れられ人工呼吸器と画面には心臓の波形が表示されていた。

脳波って波形は殆どない…脳死では無い…。

「こ、幸太郎…?」

美羽はその場に泣き崩れた…。

ピコーン…。


「わかったなら帰ってください。」

「あの子はもう帰って来ないのよ!」

「目覚める可能性はゼロでは無い…って先生は言った…でも2年になるの。」

「……。」

「わかりました…また…来ます。」

「…好きになさい!」


あ…そういえば…?


家に帰って来た美羽は…大事な物を忘れている気がしたが思い出せなかった。

頭の中には、ベッドに横たわっている幸太郎の姿だけだった。


【忘れられた存在は消える…。】


参ったな勢いよく飛び出したは良いけどここどこだ?

何となく覚えはあるような気もするけど…。

あれ…?

バタッ…。

コタローは倒れてしまった…。

保護施設に保護されていた。

首輪のチップで飼い主は特定されて連絡し迎えに来るようだ。


「コタローくん、お迎え来るって良かったね。」

「……。」


「すいません…。」

「はい。」

「お電話いただいた佐伯です」

「あ、コタローくんの」

「はい、ご迷惑おかけしました。」

「いいえ」


「コタロー…大丈夫?」

ワンワンワン!

ウゥゥ…。

「どうしたのコタロー?」

ワワワン!ワワン!!

「どうしたのかしら?」

「コタロー?怒ってるの?」

「やっぱりお姉ちゃんじゃなきゃダメなのかな?」

ウゥゥゥ〜〜

「これでは連れて帰れそうもないですね。」

「出直して来ます。」


【もう時期…記憶も無くなるだろう。】

【おまえはどうしたいんだ?】

オレは…。



第9話につづく…。




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