第2話 コタローは幸太郎

社会人1年目のスタート直後に転んでしまった…。

オレはこの物語の主人公でこれから活躍するドラマが待っていたはずなのに冒頭数行で死んでしまう。


それで何故か転生した先が仔犬…。

飼い主が彼女だった美羽という漫画みたいな設定だった。

とは言えまさかだよな…。


次の日の朝起きたら夢オチを期待して寝よう…仔犬のガラダは無駄に眠い…。


居間にオレの寝るケージが置いてあるフカフカの布団も用意されていた。

(さて、寝るか…。)

クンクン…。

美羽の匂い?片目を開け様子を見た。

風呂上がりのようだった。

「コタロー?寝ちゃったかな…。」

耳をピクリと動かす…。

「幸太郎…なんで…。」

もう10月なのか…オレがいなくなってからまだ半年…。

ホントごめん…くぅ~ん…。

「コタロー…。」

ギュゥッと抱きしめられた…。


オレ愛されてたんだな…。


美羽はオレを抱っこしたまま自分の寝室に向かった。

変わってないなぁ…。

美羽の部屋に入ったのは高2だったか?

勉強するという口実に部屋に行ったんだよな…。

まあ、お陰で試験は何とかなったけど…。


本棚に目をやった…。

オレと美羽が幸せそうに笑ってる写真があった。

美羽は、オレがジーっと見ているのに気がついた。

「何か気になるの?」

「もしかしてこれ?」


ウサギのぬいぐるみを差し出してきた。

『わん!』【ちがう!】


「はい…コレね!」

ポイッとボールを投げた。

無意識に反応してボールを追いかけた。

【ちがーう!】


もういい…美羽の横にチョコンと座り

そのまま眠りについた…。

「本当はキミは下で寝るんだよ?」

優しく撫でられてる感触が心地よい。


翌朝…。


美羽は毎朝早朝ランニングに出かける。

やっぱりオレは仔犬だった。

なぜかオレも連れていかれた。

首輪をつけられて何か変な気分だ。

「よし!コタロー行こうか!」

ワン!


最初のうちは元気に走っていたが何せ仔犬だスタミナがあるわけ無い…ペースが落ちた途端に首が絞まる…ある意味拷問である…。

せめてリードはコレはやめてくれ!


「コタローもう少しだよ~頑張って〜〜。」


もう無理だ…。

と思ったら急に足が止まった。

(なんだ?)


ここは…オレの家?

ジョギングコースに入ってたのか…。

「コタロー…ここはね…私の大切な人のお家だったんだ〜。」

玄関が開いた…母さん…。

「あら美羽ちゃんおはよう。」

「おはようございます。」

「毎朝エライわね~」

「いえ学年の頃からの日課なので」


「美羽ちゃん…あの子の事は早く忘れていい人見つけなさいね」

ワン!ワン!

【余計な事言うな!】

「こら、コタローだめ!」

「美羽ちゃん…。」 


母さんは寂しそうな顔をした


「余計な事ごめんなさいね」

「それじゃ、お母さん」

「気をつけてね」


飼い犬に自分の息子と似た名前をつけられた親の気持ちは複雑だろな…。


やっと着いた…。

足が短いから余計に疲れる

クンクン…。

なんだ?この匂い…。

「コタロー、お家入るよ〜。」


今まで嗅いだことのない不快な匂い…。

犬は匂いや音で周りの様子を嗅ぎ分ける危険な匂いなのか…?

「それじゃコタロー行ってくるね。」

「いい子にしててね」

ワン!

【おう!】

アタマを撫でられるのは気持ちが良い


美羽が仕事に行ってる間に好きに過ごしていたが夕方に妹が帰って来ると地獄の時間だった。


ん?またあの匂いだ…どこからしてくるんだ?

クンクン…。

こっちから?階段だ…。

この短い足じゃ上がれない!

吠えたら誰か来るだろう。

ワン!ワン!ワン!


「コタローうるさいよ?」

美羽のかあさんが来た。

「どうしたの?上に何かあるの?」

ワン!

オレも連れて行ってくれ!

うぅ~…スカートの端を噛んで引張った。

ガタン!

「何かいるのかしら?」

お母さん階段を上がって行く。

バタバタバタ…。

なんかヤバそうな匂いだ…。

オレは後ろに下がって助走をつけ上がろうと考えた。

ダッ!

よし!ここでジャンプ!

ガツン!

無理だった…。


そうこうしてるうちに気配が去った。

匂いもしなくなった。

そして上からお母さんが降りて来た。

「何だったのかしら…?」

何もなかったようだ…。


だが、美羽が帰って来た時に異変に気づく…。

「ねぇ、お母さん私の部屋に入った?」

「いいえ、入ってないわよ?」

「美玖〜?」

妹は美玖というのか…。

それにしても歳の差があるよな~。

お母さん頑張ったんだな。


「なに?お姉ちゃん。」

「私の部屋に入って無いよね?」

「うん、入らないよ」

「どしたの?」

美羽がオレの顔をジーっと見てる。

ちょっと待てオレは階段登れないからな!

寝転がって脚をバタつかせた。

「その脚じゃ無理か…。」

わかってくれたのは良いが何気にバカにされた気が…。


「どうしたの?」

お母さんが聞いてきた。

「大した事じゃないんだけど棚にあった写真が下に落ちてたの」


あのガタン!って音の正体はそれか。

美羽が近づいて来て

「コタローが気にしてたみたいだからさ…キミかと思った。」

「ごめんね〜。」


オレが写真気にしてたのわかっていたかのようだな…じゃあアレは美羽なりのボケだったのか?

何者かが美羽の部屋に窓から入って出て行った…。

鳥か?


オレの予想は意外な形であたった。


今日はひとりで居間で寝ていた。

また、あの匂いに気がついた…。

目を開けたら、そこには白いカラスがいた。

ワン!

「静かに…。」

カラスがしゃべった?

「キミも話せるはずだ。」

オレは話せないのだが…。

「まあ良い…。要件だけ伝えに来た。」

ん?何だコイツ…。

「キミの魂を移したのはワタシだ」

「は?」

あれ…声がでた。

「キミは人になりたいかい?」

「いや、元の幸太郎に戻れるなら…無理だろ肉体はないんだ。」

「では犬のままで良いと?」

「オレは美羽を見守っていたい。」

「そうか…気が変わったら言ってくれ」

「では、またな」


あれ…消えた?

今更、人になっても美羽には出会うことなんか出来るわけがないんだ。

転生したらまた誰かの子供だろうしな。


一ヶ月後…。

犬の成長の早さに驚くな…。

階段が登れるのに気がついた。


今朝も美羽の日課に付き合うのだろうと美羽を起こしに部屋に行った。

カリカリ…。

ガチャ。

「おはよ〜…コタロー…。」

おい!なんちゅう格好で出てくるんだよ

年頃の娘が…。

(って…オレはオッサンか!)

というか、目の前で美羽が着替えていたが…背中にあんな傷あったか?

いや、最後にあった時はなかった…あったら気が付かないわけが無い。


叩かれた傷じゃない…斬られた?

いやいや、少なくともオレがこの家に来た時には…。


「謎だ…。」

「え!?」

はっ!しまった…。

思わずクチに出してしまった…。


美羽が怪しげな顔でオレを見た…。

「まさか今のコタローじゃないよね?」

オレは下を向いていた…。

「なんかコタローって人の言葉理解してるみたいな感じがするんだよね。」


ここは逃げた方が良さそうだ…。


「逃げたらご飯抜きだよ?」

「虐待だろそれ!」

「………。」

わんわん…。

「まさか…いや…もしかして…」

美羽がボロポロ涙をこぼす…。

「あぁ…もう隠しきれないな…。」

「オレは…。」

「幸太郎でしょ?」

「驚かないのか!?」

「うん…。」

「おまえなぁ…普通犬がしゃべった〜とか気持ち悪いとかあるだろ。」

「ううん、何でも良いから私の傍に戻って来てってお願いしてたから。」


だからといって犬は無いだろうよ…。

ガバッ!

美羽が抱きついてきた。

「バカバカバカ!」

「私がどれだけ泣いたと思ってるのよ!どれだけ…。」

「すまん…。」

「犬になっちまったけど良いのか?」

「うん…うん…。」


幸太郎がコタローに転生したことを美羽はすんなり受け入れた…。

これからどうなるんだろ?


第3話につづく


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