36. 戦う理由
テスト期間最終日。何とかすべての科目を終え、友人たちと互いを称え合い、家路についた。
家に向かう電車の中、俺は夏合宿のことを考えていた。行先は徳島県。赤坂先輩の実家だ。先輩の実家は旅館を営んでいるらしく、そこへ格安で泊まらせてもらうことができるらしい。
東京から徳島への旅費は学生からしたら決して安くはないが、今の社会では学生のほとんどが奨学金で学費のほぼすべてを賄えており、俺達もアルバイトをしなくても仕送りだけで諸々の出費は対応できていた。
家に着いた俺は教科書類を片付け、コンビニで買ってきた食事を広げる。たまには自炊もしたほうがいいのだろうが、今日はテスト後だ。さすがに勘弁して欲しい。
PCを開くと、チャットアプリにメッセージが入っていることに気づいた。カナタからだ。あの練習試合の日、俺達は帰り際に連絡先を交換していたのだった。
カナタとミレイと俺のグループにメッセージが一件。「ちょっと話そうぜ」だそうだ。ミレイがサムズアップのスタンプを押している。俺も押しておいた。
するとすぐにカナタから着信が入った。応答ボタンをクリックする。
「よ!そっちはテスト終わった?」
「丁度今日終わったところだよ。そっちは?」
「一昨日終わったとこ!部長が期間中
ポン、と音がしてグループに通話にミレイが入ってきたことを知らせる。
「やあやあカナタ君。元気かね」
「有り余ってんだわ。あーはやくランクマで暴れてえ」
「また練習試合する?今のトーヤ君なら勝負はわかんないよー?」
ミレイが言う。あの時よりは勝負になるだろうが、まだまだ向こうの底は知れない。とはいえ、だからこそ勝負を繰り返してみたい気持ちはあった。
「マジ!?トーヤの戦いおもしれーんだよなあ!またやろうぜ!」
「……そうだな。今度はオンラインで。またやろう」
「よっしゃあ!約束だからな。ナギサさんと部長にも言っとこ」
カナタは子どものようにはしゃいだ様子で言った。
「ときにカナタ君」
「ん?」
「キミは空間移動をしてたよね。あれ、なにやってんの?」
ミレイが核心に迫る質問をした。カナタの不可解な動き。俺がおそらく勝てないであろう理由の一つ。
「そりゃ言えないね!ナギサさんに口止めされてるし。手の内バラしたらつまんないじゃんか」
「それもそっか。ふふーん。あたしは必ず解析してみせるからねえ」
流石に話してはくれなかった。カナタの言い分はもっともだ。手の内を明かしたら不利になるし、探りながら戦うのも醍醐味の一つだ。
「ところでトーヤとミレイはなんで
今度はカナタが訊いてきた。俺達が
「俺は興味があって、たまたま出来るチャンスがあったから、かな」
「ふーん。ミレイは?」
カナタは俺の言葉を軽く流すと、ミレイに振った。
「あたしは元々
バックグラウンドを若干ぼかしながら、ミレイが言った。確かに解析や実装をやっている時のミレイはとても楽しそうだ。初めてバディを組んだ時に言っていた『好きなように、思うようにやっちゃえ』という言葉。あれはきっとミレイが自分に向けた言葉でもあったのだろう。
「なるほどねえ。確かに自由に遊びまくれるのは楽しいよな」
カナタが言う。
「そう言うカナタはどうなんだ?」
「俺?」
彼は語り始めた。
「俺さ、高校までバスケやってたんだよね。あ、その身長でとか思っただろ。でも楽しいんだぜ。身長高い奴らの隙間をぬって躱して進んで、そのまま思いっきり跳んでダンク決める。そういうプレイが好きだった」
カナタとの戦闘を思い出す。あの動きはバスケがルーツだったのか。そう考えると納得がいく。ランダムでジグザクな動き。
「うちの部結構強くてさ、俺が三年の時は全国まで行ったんだよね。結局優勝はできなかったけどさ。でもそこで思ったんだ。結局ここでおしまいなんだって。どれだけ上を目指しても、全国大会がゴールになってる。それ以上先はない。それってつまんねえなって」
そのハングリー精神の高さは感心するしかなかった。
「で、引退後に
ドミヌス。それは
だがドミヌスの存在はともかく、確かにカナタの言う通り、上を見上げればキリがない世界だ。いくらでも登っていける。
「それで俺は
強いわけだ。動機からして俺達とは一線を画している。こいつは正真正銘、強者との戦いを求めて
「お前の相手に俺は相応しいのか?」
試しに訊いてみた。
「トーヤとミレイのバディはとにかくおもしれーんだよ。強いとか弱いとか、単純な尺度じゃ測れないものを持ってる気がする。だから俺はあんたたちのこと、ライバルだと思ってる」
「それはあたしたちを認めてくれてるってことでいいのかな?」
ミレイが訊いた。
「そう言ってんじゃん。俺とナギサさんのバディはもっと強くなる。だからあんたたちももっと強くなって欲しいんだよ」
「あったりまえじゃん!あたしたちはまだまだあんなもんじゃない。そっちこそ、あたしたちの成長にビビんないようにね!」
「いいねー!そうでなくちゃな!」
カナタが嬉しそうな声を上げる。
「カナタ」
「うん?」
「――負けないからな」
「おう!」
俺の宣言を受けたカナタは、勢いよく答えた。
俺の中に、強くなりたい理由がまた一つ、増えた瞬間だった。
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