34. 制御訓練
右足で地面を蹴ると同時に、淡い緑の粒子が足から噴出した。その反動で俺は地面と水平に飛ぶように加速し、眼の前の剣士に向かって行く。力場の反発力とは比べ物にならないくらいのスピードだ。あっという間に敵が目の前に来る。
敵は面食らった様子だったが、咄嗟に大剣を盾のように構えて防御姿勢を取る。俺はそこに刀の一撃を叩き込んだ。粒子による加速が乗っているせいか、いつもよりかなり重い一撃だ。だがしかしというか、やはり大剣の前に日本刀ではまだ軽い。
相手は大剣を思い切り横に振り、刀もろとも俺を斬ろうとする。俺はすんでのところで地面を蹴って、粒子を散らしながら再び距離を取る。正面からぶつかっていくには少々分が悪そうだ。
『今回は粒子を使いこなすことが目的だから、時間裁断は封印ね』
『……わかった。純粋にスピードだけでなんとかしろってことか』
『そそ。だから刀にも分子切断の力は付けない。あたしも粒子制御の練習になるし』
俺は改めて敵に正対する。距離はおよそ20m。フィールドの広さは半径100mといったところ。周りを巨大な樹に囲まれている。
相手が力場らしき加速法を使って飛び込んで来た。刺々しい鎧と大剣も相まって、暴風のようだ。大剣を両手で持ち、右肩の上に振り上げて構えている。あれをもろに食らったら一撃でライフが尽きてしまうだろう。かといって刀で受けるのは難しい。なら、やることはもう決まっていた。
向かってくる相手に対して、やや右に軸線をずらして突っ込む。丁度相手の大剣の横をすり抜けるコースだ。俺はまた粒子を噴出させながら、相手のさらに奥を目指して飛んでいく。
相手とすれ違ったのも一瞬、俺は空中で体勢を変えて、フィールド奥の樹に足をついた。それを足場にして更に飛ぶ。相手のがら空きの背中が見えたが、すぐに振り返ってこちらに剣を向けている。素早い対応だ。この程度では隙は作れない。
俺はまた相手とすれ違うコースで飛び、その奥の樹に着地する。すると、それを待っていたかのように相手はクナイのようなナイフを俺に向かって何本も投擲してきた。
(……っ)
咄嗟に次の樹に飛ぶが、肩に一本受けてしまった。安全のために痛みは感じないようになっている。だが刺さっている感触と嫌な重みは感じる。
このままではジリ貧になるだけだ。どこかで攻撃に転じなければ。
意を決した俺は樹から剣士に向かって飛びながら、刀を構えた。すれ違いざまに振るう。相手も合わせて剣を振るったが、俺のほうが一歩速い。刀身同士が触れ合う金属音の後に、腕を斬った感触が伝わってきた。
俺の脳裏にはカナタの動きが浮かんでいた。かまいたちか嵐のような、あの剣戟。
俺はさらに樹から樹へと飛び移りながら、剣士を刃を交える。四方八方から飛んでくる俺に相手は徐々に対応しきれなくなってきて、隙が生まれる。俺はその隙をついて相手の身体を斬りつけた。それを何度も繰り返す。
正直、これが決定打にならないのはわかっている。
故に俺は剣を交えるのを止め、粒子量をさらに増やした。
『動体視力強化』
『あいあいさー』
加速度が一気に増した。ひゅんひゅんという風切音が聞こえる。
俺の姿を追いきれなくなったのか、相手が大剣を構えながらそこらを見回している。
今だ。
俺は樹を蹴る角度を変えて敵の直上に飛び出すと、そのまま頭の上から刀を振り下ろした。背中を深く斬る感触。予想外の場所から一撃を食らった相手は、そのままライフが尽きてダウンした。
ファンファーレが鳴り響く中、両者ともに光に包まれて空に打ち上げられた。
ロビーに戻ってきた俺は、ミレイと反省会をしていた。
『飛び回るのもいいんだけど、やっぱ地面を走る練習をしたほうがいいと思うんだよねえ』
『確かにな』
『ステージ指定の試合でやってみる?それこそ障害物がなくて、広いところ』
『それが一番良さそうだな』
『どうする?一回ダイブアウトする?』
『いや、このまま行こう』
俺は再び受付に行き、今度はステージを指定できるマッチングを選択した。光に包まれ、天に打ち上げられる。そのままマッチングが確定し、俺はステージに向かって飛ばされていった。
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