24.肯定と渇望

 試合が終わり、控室のスペースに戻ると、すみか先輩が俺とミレイに両腕で抱きついてきた。


「二人ともほんっとうに頑張ったよお……」


 涙声で言う栖先輩。その後ろで赤坂先輩は優しく微笑んでいた。


「ヒヨリの言う通りだ。二人とも、本当によくやったな」


 赤坂先輩は栖先輩の肩に手を置く。


「優勝を逃したのは確かに悔しい。だが潰れかけのサークルが短期間でここまで来られたんだ。俺はそれが嬉しい」


 俺は何も言えなかった。申し訳ないという気持ち。悔しい気持ち。けれど赤坂先輩が嬉しいと言ってくれて救われた気持ち。それらがないまぜになっている。


 ミレイも思うところが色々とあるのか、珍しく黙っていた。


「葦原と蔵識、どちらが欠けてもこの結果は出せなかった。お前達二人がいてくれたからこその結果だなんだ。ゲーム研究会にとって、いや、俺にとってもヒヨリにとっても、お前達二人ともいてくれなきゃならない存在なんだ」


 いてくれなきゃならない存在。そんな風に誰かに言ってもらったこと、なかった。自分は何者にもなれない|役立たずだとずっと思い続けてきた。だけど赤坂先輩はこんな俺の存在を肯定してくれた。


 ミレイだってそうだ。確かに言い合いもしたけど、俺のことを信頼できる相棒だと言ってくれた。


 大会で優勝することは叶わなかった。それは事実。自分たちが井の中の蛙だと知らしめられた。それもまた事実。


 栖先輩が俺達から身体を離した。パンツのポケットからハンカチを出して、涙を拭いている。


 勝ちたかった。誰のためでもなく、そう思った。純粋に勝ちたかった。悔しさが一気に膨れ上がって、溢れ出す。


 頬に涙が伝う感触がした。数瞬遅れて、自分が泣いていることに気付いた。悔しい。もっと勝ちたかった。もっと上まで行きたかった。


 デニムシャツの袖でごしごしと涙を拭く。誰もそれを茶化したりしなかった。




「それではこれより表彰式を始めます」


 上位各チームのプレイヤーとエンジニアが壇上に集められ、順位別に並んだ。


 一位は俺達が敗北した新汰大学ゲーム同好会。大会を主催する企業連合体の代表から、賞金50万円の目録と大きな盾、そして上位大会のシード権を表すボードが渡された。


 二位はツバサ@ゲーム鯖。有志のチームだ。その戦いは俺達も控室で観戦したが、決して一位に引けを取らないものだった。賞金20万と盾、シード権のボードが渡される。


 今回の大会は三位決定戦がないため、三位は二チーム存在する。俺達、神原大学ゲーム研究会と、白火大学ゲーム部。


 白髪の混じった代表からミレイが賞金2万円の目録を、俺は小さな盾を受け取る。


 客席からの拍手とスマートフォンの撮影音が、なかなか鳴り止まない。


 それをバックに、俺は控室でのことを思い出していた。赤坂先輩が言ってくれた、いなきゃならない存在という言葉。純粋に勝負に勝ちたかったという自分の気持ち。それからやれることはやりきったという充足感。


 それらがごちゃまぜになって、俺は今すぐにでも大声で叫びだしそうだった。この感情をどう処理すればいいのかわからない。こんなに悔しくて、嬉しくて、楽しい気持ちになったことは人生で初めてだった。


 やっと本気で向き合えるものに出会えた。

 そんな気がしていた。



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