23.剣戟
「前回優勝チーム、今回も優勝なるか!?新汰大学ゲーム同好会!プレイヤー、紀伊アトリ選手!エンジニア、新田カナタ選手!」
これまでにないくらい湧く会場。前回優勝チームの登場だ。無理もない。
「そして初出場ながらここまで素晴らしい戦いを見せてくれた!神原大学ゲーム研究会!淵守トーヤ選手、逆月ミレイ選手!」
予想していなかった大きな拍手と歓声が上がる。なんだかくすぐったい。
「さあいよいよ準決勝です!両者揃ったところでカウントを!3、2、1、ダイブ・イン!」
フィールドは変わらない。オブジェクトの配置がまた変更されている。
相手の姿をみとめた。黒のボディースーツに両方と両外腿に大袖を装備し、日本刀を構えている。俺と同じ得物。
対刀の模擬戦闘をやっていなかったのが悔やまれるが、赤坂先輩の意識データからある程度は刀同士の戦闘技術は模倣している。やるだけやってみるしかない。これまでもそうしてきたのだから。
『あたしも全力でバックアップするよん』
ミレイの言葉も心強かった。
『それでは参ります。レディー……ゴー!』
合図とともに互いに前方に跳躍する。30mの距離はすぐに縮まり、刀同士がぶつかってギチギチと音を立てながら火花を散らす。俺も渾身の力を込めているが、相手も一歩も退かない。
と、相手が刀を倒そうとする感触を感じた。俺はそれをさせないために、鍔迫り合いの状態のまま横に移動する。相手が刀を倒せば俺の刀は封じられ、完全な隙になってしまうからだ。
そのままフィールドの端の方まで移動する。
ふと、鍔迫り合っている相手の刀が薄緑に光る。
吹き飛ばされながら空中で回転し、後方にあった崩れた柱の上に着地する。
見ると、相手は向かい側に設置されていたキューブ状のオブジェクトの上に移動していた。
『刀に力場纏わせるかあ。なんて発想だよー』
『俺達にはなかった発想だな』
『どうしたもんか。あれ、エネルギーだから、トーヤ君の刀に疑似分子間引力を切り離す力を付与しても、相手の力場には作用しないよ。力場は斬れない』
ならば今の相手と直接刃を交えるのは得策ではない。だとしたら牽制しつつ、隙を見て必殺の一撃を食らわせるほかないだろう。
牽制。俺はミレイの家で鑑賞会をした後、一人で家で見た時代劇を思い出していた。小刀を両手の指の間に挟んで投擲するキャラクター。
そのイメージを意識を通じてミレイに送る。
『ほほー。なるほどね』
そうこうしているうちに、相手が刀を振り上げて跳躍してきた。俺は刀から左手を離して広げる。指の間に三本、小刀が生成された。直線的に飛び込んで来る相手に向かってそれを投擲する。
一本は相手の横をすり抜けてしまった。残り二本は空中で相手の刀が弾き飛ばす。
相手が俺の懐に入る前に、右足で力場を蹴って思い切り左に跳んだ。空中で方向転換して相手の方に向き直り、さらに小刀を生成して投擲する。流れるような刀捌きでそれをいなす相手。
今度は加速度を上げて相手の背後に回り、三度小刀を投擲する。が、相手は振りかぶるような姿勢で背中に刀をやると、刀身の力場を広げてすべて防いでしまった。
『ありゃプレイヤーの技量が相当だね。エンジニアはほんとサポート程度しかしてない感じ』
だろうな、と思う。相手の刀捌き、体捌きは相当なものだ。おそらく現実でもそれなりの実力者なのだろう。
そんな相手にちまちま投擲攻撃では牽制効果は薄い。やはり決め手に掛ける。
だとしたら。
『時間裁断をやるしかないか』
『ん、やってみる価値はあると思う』
俺は背後から連続して力場を蹴って加速し、相手の50m前方で着地して正対した。
刀を横に構える。
発動率は6割。でもやれることはやってみるしかない。
『トリガー!』
『時間線、裁断』
相手はじりじりと近付いてくる。その動きに変化はない。不発だ。
意識を集中する。俺が斬るのは時間の連なり。線として流れる時間を点として裁断する。そう、何度も繰り返し意識する。
『時間線、裁断』
相手が加速して近付いてきた。だめだ。また不発だ。
『こっち側から発動させてみる!』
『できるのか』
『やるしかないっしょ』
俺は加速してくる相手に対して迎撃体制を取る。
『いくよ!
その瞬間、脳の一部が鉛になったような気がした。頭が重い。どこかが機能不全を起こしている気がする。視界がぐらついて、思わず膝をついてしまった。実況がなにか言っているが、わからない。
(まだ……だめだ……)
なんとか力を振り絞って立ち上がり、刀を構える。しかし相手は既に至近距離まで迫っていた。
(まず……っ)
俺はそのまま袈裟斬りにされた。
身体を斜めに平たい何かが通っていく感触とともに、アバターから力が抜けていく。立っていることができなくなり、そのまま後ろに倒れた。刀が手を離れ、光の粒子となって消えていくのが見えた。
『WINNER!新汰大学ゲーム同好会!さすが前回優勝者の貫禄を見せつけた!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます