22.空間制圧
第二回戦。
一回戦目と同じく、司会のカウントとともにダイブインした俺は、再び未来的なアリーナに立っている。先程とは障害物の配置が少し変わっているようだった。
正面に対する相手は羽織袴にブーツという大正レトロのような出で立ちの女性。武器は持っていない。
『たぶん、コード戦闘タイプだね。遠距離の』
『まずは牽制して出方を窺うか』
『おけおけ。いつものやり方で大丈夫だと思う』
距離を取りながら牽制し、隙を見て一気に間合いを詰めて一撃を叩き込む。
『それでは参ります。レディー……ゴー!』
試合開始の合図と同時に相手が片足を引いて拳を構えた。こちらに向かってくる気配はない。やはりコード戦闘タイプか。ひとまず回避の準備をする。
すると相手は何も無い空間に向かって正拳突きをした。次の瞬間、相手の拳から水弾が放たれ、凄まじい勢いでこちらに飛んでくる。面食らったが、初撃は横に回転してなんとか回避した。
が、相手は俺の動きを追いかけ、次々と水弾を放ってくる。これでは近づくこともままならない。
意を決した俺は回避を止め、水弾と正対する。
『視覚強化、あと両手強化』
『おっけい』
水弾の動きはきわめて直線的。それならやりようはある。視覚――動体視力――を強化して狙いを定め、こちらの間合いに入った瞬間に身体強化を乗せた刀を振るう。
水弾は両断され、俺の両側を通り過ぎていった。これならいける。その後も相手は水弾攻撃を続けるが、要領を掴んだ俺は次々とそれらを切って捨てる。
やがてその攻撃が無駄だと判断したのか、相手は正拳突きを止めた。今度は俺に向かって両手を広げる。するとそこから二本の水流が生まれ、まるで水の鞭のようにしなりながら襲いかかってきた。
その動きは不規則で、完全に見切ることができない。すべて回避するのは無理だ。俺は回避より鞭の破壊を目標にして、まずは横から振られた水流を刀で斬った。
しかし斬ってもすぐに相手の手元、鞭の根本から水が補充され、キリが無い。
『あたしの出番!もうちょい粘ってて』
『頼むぞ』
水の鞭との打ち合いを続ける。斬っては再生し、斬っては再生し、本当に意味のない応酬が繰り広げられていく。
『よっしゃ!空間制圧完了!いっくよー!』
吐いた息が白くなった。アバターが感じる温度がどんどん下がっていく。ミレイの意図は意識の繋がりを通じて瞬時に伝わる。そういうことか。
フィールドの気温がみるみる氷点下まで下がる。
すると当然、水の鞭は氷結し、自重で崩れ落ちていった。
俺はすかさず足元に力場を生成して蹴り飛ばし、一気に距離を詰めようとする。
だが相手にも動きがあった。
あえて水の鞭を生成し、凍らせ、今度は氷で出来た巨大なハサミのような形状に変化させて振るってくる。
相手チームの適応力もかなりのものだ。氷が自壊しないように強化したのだろう。
前方に飛んでいた俺はハサミが閉じる手前で上に跳び、ギリギリで回避した。だが相手は氷の刃を持ち上げ、空中の俺を狙ってくる。空間を蹴ってなんとか回避するが、相手の懐にはなかなか入らせてもらえない。
しばらく空中で氷の刃との追いかけっこが続いた後、俺は刃の射程外へ跳んで距離を取った。
空間を踏み固めて空中で静止する。どう攻めるべきだろうか。
『そのまま力場使って突っ込んでっちゃって』
『大丈夫なのか?』
『大丈夫。信じて』
『……わかった』
ミレイの言った通り、足に集めた力場を使って、相手の懐目掛けてやや斜め下に角度を付けて超加速した。そのまま右斜め上に刀を構える。
相手はすかさず氷の刃で狙おうとするが、またしてもフィールドに変化があった。
暑い。
一気に気温が上昇した。氷の刃は融解し、水に戻っていく。すぐに相手は水を鞭に成形して振るおうとするが、俺の速度の方が速かった。
そのまま間合いに飛び込み、袈裟斬りにする。
相手は驚いた表情のまま後ろに倒れた。
『WINNER!神原ゲーム研究会!アバター戦闘とコード戦闘の見事な合せ技でした!』
こうして俺達はついに、準決勝にコマを進めることとなった。
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