15.模擬戦闘 Type : Blade

 今日最後のフィールドは砂漠だった。夕日が砂の海を照らす。


 砂丘の上に俺は立っていた。向かい側にはエネミーがいる。その手には槍。最初の模擬戦闘の意趣返しのような感じ。右手を開く。瞬時にMNDLの光が集まり、日本刀が生成された。


『本日最後の模擬戦闘!いってみよー!』


 ミレイの掛け声とともに、エネミーが槍の切っ先を向けて突撃してきた。速い。あっという間に距離を詰められる。俺は両手で刀を握ると、肘を倒し、顔の前で刃を上にして横に構える。


 そのまま突っ込んできた槍を、刀で受け止めた。鍔迫り合いの要領だ。


 相手は俺の顔面目掛けてなおも突き込んでくるが、俺は刀を叩き上げて槍を弾くと、がら空きになったみぞおちに向けて蹴りを叩き込んだ。


 エネミーはそのまま飛ばされていき、砂丘と砂丘の間の窪んだ谷のような場所に落ちた。ダメージそこまで大きくなかったらしいく、即座に体勢を立て直し、砂丘の上にいる俺に向かって槍を構え直す。


 足場は砂地。普通に走るのは不可能。歩くのだって一苦労だ。だけどここはARSアルス。故におれは足元の空間を蹴りながら、砂丘を走って下る。


 そのまま踏み固めた力場で足元を整え、間合いを詰めた。エネミーの槍が振り下ろされる。刀を振ってそれを薙ぎ払う。槍と刀の打ち合いは続いた。


 今日最後の模擬戦闘というだけあって、相手のAIレベルは高い。正直、今の勝負は互角と言っていい。


『今回は特訓だからねえ。刀にコードは付与しないから、そのつもりで』


『望むところだ』


 真っ直ぐな突き。上下左右、斜めの薙ぎ払い。打ち合いを続ける中で、段々と槍のその動きにも慣れ始めていた。


 相手が俺の胸部に向けて突きを繰り出してくる。それに合わせて俺は身体を屈めた。膝のバネを使って前方向に跳び、そのまま懐に飛び込んで、回避と同時にこちらも刀で突きを食らわせる。


 だが踏み込みが甘かったのか、ダメージはまだ小さいようだ。


 俺は瞬時に刀を引き抜いて後ろに跳び、再び槍の間合いに戻った。打ち合いが再開される。今度は大きく左右にステップをするように跳躍を繰り返し、相手を翻弄しながら、徐々に近付いていく。


 相手に肉薄したところで姿勢を低くし、今度は膝のバネではなく足裏の力場を使って跳躍する。再び懐に飛び込んだ俺は、刀身を下に向け、相手の顎目掛けて柄で思い切りアッパーを食らわせた。


 その攻撃は相手も予測できていなかったらしく、完全に入った。エネミーの身体が地面から浮き上がり、完全に無防備になる。


 俺は刀身を下に向けたまま刀を握り直すと、そのまま正中線を下からなぞるように切り上げる。


 エネミーの身体を刃が通っていく感触があった。


 今度こそ敵のライフは尽きたようで、粒子化して消えていく。


『おつおつ。やっぱ刀かあ』


『やっぱりこれがしっくり来るな』




「お疲れ様。ハードなメニューだったけどよくやったよ」


 ミレイが新しいエナジードリンクを差し出しながら言う。こいつ何本持ってるんだ。ともかく受け取って飲み始める。


「今日の一連の模擬戦闘でトーヤ君のスタイルは大分わかった」


 自分もエナジードリンクを飲んでいたミレイは、一旦缶から口を離し、両手で缶を持ちながら言った。


「まずは開放空間であること」


「たしかに閉鎖空間は戦いづらいよねえ」


 俺達の特訓をモニターしていたすみか先輩が言う。


「逆に閉鎖空間が得意な奴もいるわけだがな」


 赤坂先輩が言った。例えば銃火器を使った戦闘なら閉鎖空間のほうが刀剣より圧倒的に有利だ。だけど今回の大会は銃火器の使用は禁止されている。


「コード戦闘が得意なバディとかだと、閉鎖空間を制圧して戦ったりすることもあるって聞くよ」


 ミレイが言う。なるほど。空間そのものを掌握できるレベルのバディなら、確かに。


「でもトーヤ君は激しく動き回るから、開放空間で、しかも障害物が少ないほうが戦いやすい」


 ミレイはそう続けた。


「開放空間で障害物なし……初心者ってこと?」


 別に怒ってはいなかったが、純粋に聞いてみた。


「それもあるけど、理由はもっと別。トーヤ君の最大の武器は高速戦闘。たぶん、磨けばもっと速くなれる。それが一番活きるのが、今言った条件のフィールドって話」


「ヒロト、大会要綱は」


「ああ、読んだ。フィールドは事前には知らされないらしいな」


 ということは、閉鎖空間や障害物だらけのフィールドで戦うことになる場合もあるということか。


 俺は心配そうな顔をしていたらしく、それを見たミレイが言った。


「だーいじょうぶ。フィールドの問題はエンジニアの領分だからね。もし苦手なフィールドに当たっても、あたしがなんとかするって」


 ミレイのその言葉は心強かった。確かに彼女の技術があれば、フィールドへの干渉も問題ないだろう。


 あとはひたすら修練あるのみ。イメージを形にして、それをいかに相手にぶつけるか。


「あー!」


 突然、ミレイが大きな声を出した。


「トーヤ君。この後暇?」


「え、うん。特に用事、ないけど」


「ラーメン、食べに行く約束!」


 思い出した。氷塊たちと戦いながらそんな約束をしていた。


「先輩方もどうです?」


「あたしさんせー!」


「俺も予定はないな。せっかくだし皆で行くか」


「いよっしゃあ!決まりっす!」


 ミレイがガッツポーズをしながら言う。


 こうして俺達は、赤坂先輩おすすめの大学近くのラーメン屋に皆で行くことになったのだった。

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