14.模擬戦闘 Type : Twin sword

 ミレイの持っていたアイマスクを借りて、睡眠というほど深くはないが、少しうとうとした。それで大分頭はすっきりした。


「大丈夫?再開する?」


「大丈夫。やろう」


 二人でダイブデバイスを装着する。


 切り替わった意識が捉えたのは、一面の草原。


 前方200m程のところにエネミーがいる。長い片手剣と盾を装備してた。こちらも両手を広げ、武器を生成する。手の中に現れたのは、片刃の双剣。すみか先輩と初めてプレイした時から度々使っているものだ。


 ようやく好きなようにできる。そんな感じがした。


 空間を蹴って、やや抑え気味に加速を始めた。それでも200mの距離はみるみる縮まっていく。


 俺は双剣を一振りずつ投擲した。当然、この距離からの投擲だ。盾で防がれてしまう。両手を広げ、新たな双剣を生成する。


 もうすぐ間合いかという時、相手が反撃体勢に入った。盾を全面に押し立てながら、その脇に剣を構え、攻防一体の突きの体勢で向かってくる。


 空間を直進していた俺は、剣を持った左手を地面につくと、側転して相手の突撃を回避する。


 そのまま後ろにスライディングするように滑り、距離を取る。双剣の間合いは非常に短い。だから相手の懐に飛び込むタイミングがすべてだ。今はそれを見極めなければならない。


 突撃を躱された相手は俊敏な動作で、すぐさま俺の方に向き直る。


 厄介なのはあの盾だ。牽制のための投擲攻撃も通らないし、おそらく間合いに入ることも防がれてしまうだろう。あれをなんとかしないと。


 それに盾は打突武器としての性質も併せ持っている。いたずらに近付いて、距離をとって、を繰り返しているだけでは、千日手にならざるを得ない。それではだめだ。


 相手が向かってくる。俺は後方に跳び、一定の距離を取りながら横へ移動し続ける。何か、アイディアがあるはずだ。あの盾を封じる手段が。


 意識体アバターは相手との距離を取りつつ移動をしている。俺は今まで自分が見聞きてきた『戦闘』を思い返している。


 ゲーム、アニメ、漫画、映画。


(あ……)


 そこで思い浮かんだ。なんだ、簡単なことじゃないか。『あれ』をやればいいだけだ。


 エネミーと並走していた俺は足に集中する。ミレイが編んだ力場が生まれ、それを思い切り蹴って超加速する。


 一瞬で距離は詰まり、俺は低い姿勢のままエネミーの間合いに飛び込んだ。そのまま地面を蹴って、相手の顔の高さまで跳ぶと、ドロップキックの感じで両足で盾の縁を思い切り踏みつけた。


 ごーんという鐘のなるような音が響き、盾は三分の一くらい地面にめり込む。俺はその盾を足場に更に軽く上に跳ぶ。


 虚を突かれたエネミーは必死に盾を引き抜こうとするが、地面に突き刺さったそれは簡単に抜けるものではない。


 俺はその大きな隙を突いて、落下しながら両手に携えた双剣を左肩の上で揃えると、そのまま落下のエネルギーも加えて、二振りの双剣でエネミーの右肩から左腰までを一気に切り裂く。


 俺が着地すると同時にエネミーはぱたりと倒れ、発光しながら消えていった。


『やるねえ。さすが慣れてる得物は違うってか』


『そうだな。やっぱりぜんぜん違う』


 ミレイと思考で会話する。


『それにしてもさ、短剣を投げるって結構すごい発想じゃない?』


『そう、かな?』


 何もいなくなった平原を風が吹き抜ける。


『まあ投擲用の短刀とかなら昔からあるらしいけど。にしてもそのアイディアはどっからくんのよ』


『前にやったゲームとか、昔見たアニメとか、映画とか、そういうの』


『ほっほー。トーヤ君、イメージを形にする力すごいんだね』


 アバターは思考、すなわちイメージによって制御される。だからイメージする力が強いほど、その通りにアバターは動いてくれるし、イメージの通りのことができる。これもIR適性に含まれる要素の一つだ。


『ねえ、ほんとさ、今度鑑賞会しない?ファンタジーバトルもの、用意するから』


『いいね。イメトレになりそうだな』


『よっしゃ決まり!今日の特訓終わったら日程決めよ』


 あれ?俺は今何か重大なことを言ってしまった気がするのだが。


『んじゃ、今日最後の特訓、行きますか。このまま行けそ?』


『ああ、大丈夫』


『おけおけ!そしたらはじめますかねえ』


 ミレイの言葉とともに、フィールドが塗り替わっていく。

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