9.革命前夜
俺は正式にミレイとバディを組むことになった。
あの入部の日から2週間以上経つ。毎日のように部室で顔を合わせて話をしたり
それは向こうも同じだったようで、俺達は仲は良さげだがいまいち距離感の掴めない、微妙な関係性を続けていた。
そんなある日、とうとうミレイが言った。
「トーヤ君、バディである以上はお互いのことある程度知っておくべきだと思うんだけど。てか、あたしキミのこともっと知りたいんだけど」
「確かに。でもどうするんだ?」
「古今東西、相互理解のためには対話が必要なのだよ」
「対話ねえ」
そうしたいのはやまやまだったが、俺は文学部でミレイは工学部。ただでさえ授業が詰まって忙しい1年生のうえに学部も違う。会えるのはこのサークル活動の時間だけだった。
加えて俺達はバディを組みたてということもあって、駄弁るよりも優先して
この日もそうだ。丁度一対多の模擬戦闘を終えて、一段落したところだった。今は一旦ダイブアウトをして、デバイスを装着したまま話している。
相変わらず調子は良い。俺のイメージとミレイのプログラミングがかっちりと噛み合い、レベルの高い戦闘も大分安定してきた。
「ま、
そう言うと再びダイブインのコマンドを入力した。
意識が切り替わり、氷の大地が一面に広がる。
その前方の地面から、数え切れないほどの人型の氷塊が現れた。アイスゴーレムってやつか?とにかく数が多い。数十、下手したら百体はいるんじゃないか。
『戦術はどうする?」
『いつも通り最初は双剣で行く』
『りょうかーい』
両手に片刃剣が一振りずつ生成される。
エネミー群との距離は100mほど。見たところ扇状に広がる陣形をしている。
だったら。
双剣を構えて一息に加速する。地面ではなくそこにある空間を蹴って真っ直ぐ跳躍する、中級者なら比較的メジャーな加速法だ。
最初の一体をX字に斬りつける。氷だけあってその身体は脆い。簡単に崩れ落ちて塵化していく。
『好きな食べ物は?』
『はあ?』
『いいから』
『ラーメン』
腕を広げ、身体を水平に回転させながら、次の一体を切り砕く。
『あたしも好き。こってりしたやつ美味しいよね』
『そう、だな』
回転したまま地面を蹴り、大きく前方へ、敵の集中するど真ん中へ跳ぶ。
『高校の時はなんかやってたの?』
双剣一振りにつき一殺。的確に身体を砕いていく。
『バンドやってた。軽音楽部』
扇状の陣形を引き千切るように、ひたすらに真ん中を攻めていく。
『おーすごいじゃん。楽器は?』
やがてエネミー群は行動を変え、扇型の陣形の後方に集まりだした。次々と重なり合い、繋がり合い、一体の巨大な氷塊へと姿を変える。
『ギターやってた』
距離は300m程。双剣の投擲では威力が減衰する。俺は両手に握った剣を手放すと、それらは薄いグリーンに光りながら粒子になって霧散した。そのまま右手を広げていると、今度はそこに光の粒子が集まり、日本刀が生成された。
『へえ。かっこいいな。あたしは楽器やってなかったな』
氷の巨人の体高は目測で20mほど。ミレイが話しながら解析する。意識にデータが飛び込んできた。強度は合体前より上がっているが、砕けさえすれば問題ない。
『ミレイは何が好きなんだ?』
ふうっと息をついて、刀を両手で構えた。氷の地面を揺らしながら、巨人が徐々に近付いて来る。
『あたしはMNDLと、あとは観葉植物かな。育てるの、楽しいよ』
200m。両足にコードで編まれた力場を集中させる。
『家で育ててるのか?』
100m。圧縮した力場を開放し、跳躍を超えた加速を行う。6,7階建てのビルくらいの氷の巨人、その右足に向かって突き進む。
『そそ。今度遊びに来る?』
『それは、さすがに、どうなんだ?』
100mの距離は瞬時に縮まり、氷柱のような右足が眼前に迫る。刀を右斜め上に振り上げ、巨人の脚と接触する瞬間に斜めに振り下ろす。
刃は簡単に氷を切り裂き、俺はそのままのスピードで右足の断面から巨人の背後に飛び出した。
『おんやあ?なあんか、やらしーこと考えてる?』
『ちげえって』
片足を失ってバランスを崩した巨人は、そのまま右に倒れた。辺り一面に振動が伝わる。
『まあでも』
巨人はまだ塵化しない。
俺は直進したまま右足で地面を蹴って、今度は直角に空中へ躍り出た。空中で体を捻って、氷塊の方へ向きを変える。そして刀を下に向け、体重移動で斜め下に体勢を取ると、そのまま後方の空間を蹴って加速した。
『今度一緒にラーメン食いに行くか』
刀を真っ直ぐ頭の上に振り上げ、氷の巨人の背中に向かって振り下ろす。
身体を両断された巨人は今度こそライフが尽きたのか、砕け散って細かな氷になり、それらも黒い塵となって消えていった。
『よっしゃ。言質取ったかんね』
模擬戦闘を終えた俺達はダイブアウトし、意識は現実空間へと戻って来る。
「ちょちょちょ、二人とも!」
中央のテーブルでいつものようにモニターしていた栖先輩が慌てた表情で俺達を呼ぶ。ミレイと俺はデバイスを外すと、先輩の眼の前にあったPCを覗き込む。映っていたのは
見方が良くわからずにいると、向かい側にいた赤坂先輩が回ってきて教えてくれた。
「これはIR適性の測定アプリだな。……ってなんだ、これ」
「おっほー。すんごいじゃん、トーヤ君」
ミレイも興奮したように声を上げる。
「えっと、すいません、何がどうなってるんですか?」
「葦原クンのIR適性だよ!ミレイちゃんと組んでからこの2週間で跳ね上がってる!」
栖先輩はシステム画面をわかりやすいGUIに切り替えると、俺に見せてきた。
S+。そう表示されている。
「でも、この前までA++だったはずじゃ」
「私の言った通りだよ!エンジニアとの相性次第でもっと伸びるって!」
「これは、ちょっと想像以上だな。なかなかいないぞ、このランクは」
「そう、なんですね」
確かにミレイ組んでからの戦闘は明らかに別次元のものだった。
「これならいけるかもな……」
「うん、これならいけるかも……」
先輩たちが何やら話している。
「んんーなんです!?もったいぶらずに教えてほしいっす!」
辛抱堪らんと言った具合でミレイが足を踏み鳴らしながら言う。
「まあ落ち着け。これはサークルとしての活動方針の話だ」
赤坂先輩と栖先輩が顔を見合わせて頷き合う。
「少し先だが、千葉の地方IT企業連合体が
赤坂先輩はそう提案、いや、宣言した。
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