8.ゲーム研究会
現実空間に戻ってデバイスを外す。隣を見るとミレイが親指を立てて笑っていた。後ろを振り返る。テーブルの上のPCで
「あー、楽しかったあ。探し回った甲斐があったよう」
伸びをしながらミレイが言う。
「すっげえ……なんだ今の……」
「ああ、これは……」
先輩たちが関心、というよりは驚嘆しているようだった。確かに栖先輩と組んでやっていた時とはまるで違う感覚がした。俺のやりたいことを全部先読みしてMNDLコードを用意してくれているような、そんな感じ。
MNDLに通じているという話は嘘ではなかった。あの刀の能力もそうだが、空間跳躍だって俺の意思だけで成り立っていたわけではない。俺の意識を読んで瞬時にコードを組んだミレイの手柄だ。
「蔵識。どうだった。プレイしてみて」
赤坂先輩が重い口を開いて訊く。
「やりたいこと全部できそうな感じがしたっす!トーヤ君、多分IR適性の高さもあるんでしょうけど、それ以上の何かを持ってるような感じがしますねえ」
「どういうコト?」
今度は栖先輩が訊いた。
「ありきたりな言葉っすけど、潜在能力というか、単に戦闘力とか適性だけじゃ測れない特異性を持っていると直感したっす」
潜在能力。特異性。赤坂先輩たちに才能があると言われた時のことを思い出した。実感がない。というかこれはミレイの推測だし、本人も直感だと言っているし、楽しいプレイングの後の興奮の余韻がそう思わせているだけかもしれない。
(あ……)
思い出した。栖先輩とトレーニングをしていた時に感じた『時間が止まっているような感覚』。もしかしてミレイの言う特異性は、あれのことなのだろうか。だが
「なるほどな。確かにこいつはとんでもなく筋が良い。見様見真似とはいっても刀をあれだけ扱えるほどのイメージが出来ているしな」
赤坂先輩が言う。
「それな。あたしの制御域超えちゃうくらいのポテンシャル持ってるし」
栖先輩が続ける。
「蔵識とのバディプレイングを観戦してて思ったが、お前ら二人が組んだらとんでもないことになりそうだ」
「わっかるう。ミレイちゃんのスキル高すぎ。やっぱどっかの研究機関にいたとか?」
「それは……内緒っす!」
なにやら含みのある言い方をするミレイ。だが赤坂先輩の言うことはもっともだった。『好きなように、思うように』という電脳空間でのミレイの言葉を思い出す。本当に好きなように、思うがままに、何かを成せそうな気がしていた。
「あのさ、ミレイ」
「ん、なあに」
「あらあら、いつから名前呼びにー?」
「お前は黙ってろ」
赤坂先輩のチョップを受けて机に突っ伏す栖先輩。
「俺達、たぶん、バディ組めると思う。先輩たちの言うように」
「そうだね。あたしもそう思う」
「だから、その」
「あー、煮え切らないなあ!」
ミレイは俺の右手を自分の両手で掴むと、上下にぶんぶん振った。
「よろしく!トーヤ君」
「……!よろしく」
ミレイは満足げに頷くと、赤坂先輩たちの方を向いた。
「適性のこと、ほんとすみませんでした」
再び深々と頭を下げる。
「いいって。それよりエースになってくれるかも知れないバディの誕生に立ち会えたんだ。こんなに嬉しいことはねえよ」
「うんうん。これでゲーム研究会の未来も明るいねえ……!」
「それじゃ、改めて」
こほん、と大げさに咳払いをすると、赤坂先輩は俺達に向き直った。
「ようこそ。ゲーム研究会へ。歓迎するぞ。これからよろしくな」
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