6.集合、そして
全員がその姿勢のまま凍りついた。
「あれあれ、
新入生と思しき女子学生が腕を組みながら言う。ぱっつんの前髪に肩までのストレートヘア、大きめの眼鏡。昔のサブカル系女子のテンプレートをそのまま人型にしたような容貌をしている。
「……いや、ここであってる」
再び時間が流れ始めた部室で、赤坂先輩がそう言いながら立ち上がる。大柄な先輩と対峙すると、その女子は一層小さく見えた。
「おーよかった。ほうぼう探し回った甲斐がありましたよう。それで、入部させていただけませんかねえ?」
「それは、もちろん歓迎だ」
女子学生の勢いに気圧される赤坂先輩。意外と押しには弱いのかもしれない。
「君は経験者か?」
「んー経験者かと言われれば、
「はえ!?」
今度は栖先輩が驚く番だった。
「なんか色々事情がありそうだな……とりあえず、やってみるか」
「ほいさ!待ってました!あたしはこのために来たと言っても過言じゃないっす!」
女子学生はスキップしながら部室に入ってきて、テーブルの横の床に荷物を置く。赤坂先輩は彼女をダイブデバイスの前まで案内した。
「はえー。ほんとにあった」
「だから言ったろ」
「疑ってませんって。感動してるんですよ」
「そ、そうか」
エンジニアはこっちだからと、いつも栖先輩が座っている方の席に女子を座らせる赤坂先輩。女子学生は心の底からうきうきした様子で、ダイブデバイスを装着した。
「俺がプレイヤー、バディになるが、それでいいか」
「いいですとも。よろしくお願いいたします」
女子は赤坂先輩がダイブデバイスを着用するのを確認すると、眼の前の端末のキーボードを物凄い勢いで叩き始めた。あっけに取られる俺と栖先輩。
無事にダイブインしたようで。二人は座ったままの姿勢で静止している。今彼らは思考でアバターを操作し、思考でプログラミングをしている。
特に
「葦原クンさ、どう思う?」
「あの女子ですか?」
「そう。どうやってここに
「探し回ったって言ってましたね」
「うーん。新入生がそんな人脈もないと思うんだけどなあ」
そうこう言っているうちに二人がダイブアウトしたようで、デバイスを外した。
「おい、なんだ今のは」
「いやーすみません、普通にやったつもりだったんですけど。いかんせん初めてで調整が間に合わず……申し訳ないっす」
「ならしょうがない。だがプログラミングの腕は確かみたいだな」
「……あの、先輩」
飄々とした態度から一変、静かに女子学生が話す。
「失礼だとは思うんですけど、IR適性、あんまり高くないっすよね」
「……!!」
再び場が凍りつく。だがその沈黙は、すぐに赤坂先輩の言葉で破られた。
「……ああ。君の言う通りだ。俺と、そこの栖ヒヨリは適性がほとんどない」
元武人の精神性か、やはり潔い。普通だったらブチ切れていても仕方ない。なにせ突然入っていた新入生に自分の弱点を指摘されたのだから。
「そうなんすね。いや、失礼なことを聞いてしまってすみませんでした」
座ったまま身体を赤坂先輩に向け、深く頭を下げる。こちらもまた潔い一面があるようだった。
「気にすんな。それよりあいつと組んでみたらどうだ?同じ新入生だが、現状で適性はA++だ」
それを聞いてガタッと立ち上がる女子。俺の方につかつか歩いてくると、バッと手を掴んだ。
「キミ、やろう。今すぐ」
迫真の表情で言う女子学生。そのあまりの迫力に反論もできず、俺はそのままプレイヤーの席まで連れて行かれた。
デバイスを装着する。
「あ、申し遅れました」
女子学生はデバイスを頭に着けたまま立ち上がると、部室全体が見えるように振り向いた。
「1年の
蔵識ミレイはそう言うと再び着席した。二人一緒にデバイスを装着する。蔵識がまたものすごい速さでキーボードを叩く音がする。
瞬時に視界が歪み、ブラックアウトした。
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