Force your way
フィールドが形成される。どこかの遺跡のような古びた石造りの建物の中。向かい側には対戦相手の姿。黒いコートを羽織り、身長ほどある杖を持っている。
(閉鎖空間に
『防壁アレイは』
『八基解凍済み。だけど注意して』
右手には既に日本刀が生成されている。すぐに両手で構えたが、迂闊に飛び込むわけにはいかない。ここは相手の出方を窺うほかないだろう。
遺跡の窓のような開口部から風が吹き、俺のネイビーのレザージャケットと相手の黒コートが揺れる。
それを合図に、俺は左手を刀から離すと手を広げた。瞬時に指の間に投擲用の小刀が三本生成される。すぐさまそれを振りかぶって投げる。
相手の男はそれを見るや杖を掲げ、光の障壁を展開した。小刀はその前には無力で、すべて弾き落とされてしまった。
『解析は?』
『できた……けど、きついね。空間遮断だ』
空間の連続性を断つタイプの障壁。だがこのクラスのものを使えるとなれば、戦闘スタイルは自ずと絞られてくる。
あれだけの障壁を展開されてしまえば、いかにこの刀が概念分子間引力を断つものであったとしても、その刃は届かない。しかもここは閉鎖空間であり、障害物も多い。俺の最も苦手とする戦場だ。
『コード戦闘、頼めるか』
『あいよ!お任せ!プランBでいくよん』
その言葉とともに、俺の周囲に幾何学模様の入った六つの球体が現れる。実体化したコードアレイたちの操作は自律制御に任せて、俺は自分の動きにのみ専心する。プランB。事前に打ち合わせていた戦闘形態のうちの一つ。
コートの男が動いた。杖を掲げ、光線を放つ。間一髪それを避けたが、俺の居た場所には小さなクレーターが出来ていた。一撃一撃が必殺ということか。
男はさらに光を放つ。放たれた光線は複数に別れ、横に逃げる俺を追いかけるように曲がりながら飛んでくる。
ザザ、とブーツが石造りの床に擦れる。スライディングのような姿勢から、再び小刀を生成して投擲する。二つは光線が撃ち落とし、一つは障壁に防がれる。
『いいよー。どんどんやっちゃって』
『本当にこれでいいのか』
『あたしを信じなさいって』
そのまま壁伝いに折れた柱を駆け上がり、男の横から、そして背後からも投擲する。すべて障壁が防ぐ。
男は振り向くことなく、その背からも光線が放たれる。急いで横に飛んで回避した。おそらくこうしている今も、エンジニア同士の間では高レベルの電脳戦が繰り広げられているのだろう。
コードアレイ六基は俺にそのまま追従してくる。これはこちらのアバターに掛かっている
男の周囲を障害物を乗り越えながら回り、何度も小刀を投擲する。その全てにミレイが組んだコードが仕込まれている。
そして再び男と正面で相対した時、男は言った。
「新進気鋭とはいってもこの程度か。エンジニアは優秀なようだが」
男はそう言うと、とん、と杖で地面を突いた。それに呼応して空間が一瞬陽炎で満たされたように揺らめいた後、激しい雷撃が振ってくる。思わず左手で顔を覆う。
コードアレイたちが俺の上に集合し、障壁を張った。相当な威力の攻撃ではあるが、なんとか一撃でやられることは防げた。
「小細工は無駄だよ」
男の言葉とともに雷撃が一気に強くなる。コードアレイで展開した障壁にもヒビが入り始めていた。
『もうっちょい。あと10秒耐えて』
『無茶ばっか言いやがって……!』
9秒。
刀を障壁に向ける。刀身に仕込まれた概念分子間引力を操るコードが展開され、障壁のヒビが直っていく。
7秒。
雷撃の圧力は弱まらない。刀の峰に左腕を当て、障壁を必死で支える。
4秒。
障壁は俺の全身をガードしきれるほど大きくない。はみ出た脚部分に雷撃が掠り、脳を衝撃が貫く
2秒
手持ちのコードではもう限界だった。コードアレイが2基、破損して機能停止する。そしてその分だけ障壁も小さくなる。左肩に雷撃が突き刺さった。
1秒。
「ミレイー!!」
力の限り叫んだ。
『
激しい雷撃の中、俺のばらまいた小刀が薄緑に発光しながら軽く浮く。それらは刃先を上に向けると光の線で繋がり、巨大な円陣を形作った。
「な、これは!?」
焦る男をよそに、円陣から巨大なエネルギーを持った光の柱が生まれる。それは天井をぶち破って上空に登り、しばらくの後に粒子となって消えた。
光の奔流の後、コートの男は全方位に障壁を展開してまだ耐えていた。しかし消耗は明らかだった。
『今なら通る!やっちゃえトーヤ君!』
俺は刀を横に構え、切っ先を男に向ける。
『時間線、裁断』
時系列は断絶され、線は点の連続となる。
そしてさらに。
『三次元切断、装填』
右足で一気に踏み込み、男ごと空間を切断する。いかに空間を遮断したとて、そこに存在していることには変わりない。コマ送りの時間の中で、男の障壁を砕き、その体を両断する感触があった。
『裁断、解凍』
ばたり、と男が倒れ、その姿が光となってダイブアウトしていく。
何とか勝てた。情けなくその場にへたり込んでしまう。雷撃で蓄積されたダメージに、時間切断だけでなく空間切断までしたのだ。無理に無理を重ねたうえでの辛勝。そして俺一人では絶対に勝てなかった。
『ミレイ、助かった。ありがとう』
『お礼はこっちに戻ってきてからでいいよ』
勝者を称えるファンファーレを大の字になって聞きながら、俺は光柱によって天井に空いた穴から空を眺めていた。
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