第33話 奏音の気持ちと相手の気持ち。
「コンちゃん!コンちゃん!!見て見て!!この写真!良い感じに撮れたでしょ?」
私は誰かから呼ばれた
後ろを振り向く。
そこに居たのはユリ。
お気に入りのカメラをもって撮った写真を掲げていた。
写真の中には高いビルに包まれた空の風景があった。
「わぁー!!上手に撮れてるー!!《破損データ》ちゃん!」
「でしょでしょ!?」
「《破損デ》リちゃんは、才能あるねー!!」
「ありがとう!!お礼にコンちゃんも、撮ってあげる!」
「ありがとう!《破》リちゃん!」
パシャ。
カメラのシャッターを切る音。
背中を撮ってくれていた《ユリちゃんに「どう?撮れたー?」と聞きながら私は踵を返した。
「あ。」
でも、目の前には腸が溢れ、目の光は薄れ、肌は冷めきった、ユリちゃんの形をした物が倒れている。
手元には包丁。
良く見れば喉元も掻っ切られ、赤色液体が至る所から溢れ出している。
血が足元に届いた。
「あ…あぁ…!!!あああああああ……!!!!!あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「なんで……なんで私じゃ駄目なの…?」
血の湖の上にあったユリちゃんの形どった物が私の足を摑む。
「ねぇ…私は…私の事を認めてくれなかったの…?」
「ち、違う!!!!私は…!!!!」
「私を殺して幸せにならないで。」
すると、ニコリとユリちゃんの形をしたものは笑うと事切れたように頭から力が抜けた。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
暗い部屋。
畳の匂い。
そうだ…ここは旅館だ…
「ゆ、夢…」
「だ、大丈夫か…?」
私の寝床の少し離れた所。
そこには霧矢くんの姿。
「え?あ、お、おはよー!!!!だ、大丈夫だよ!!!私はね!!!!」
「なわけねぇだろぉ…」
「え?」
霧矢くんはそういうと、畳の上に立ち、私の方に寄ってくる。
「奏音お前…なんで泣いてんだよ…」
そういうと、霧矢くんは私の頬を伝っていた涙を指で拭き取ってくれた。
「女子の大丈夫は大丈夫じゃ、ねぇんだろ…?姉貴が言ってたぞ…」
「え?い、いや別に…」
「我慢すんなよ…別に我慢したって何もなんねぇだろうが…」
「わ…私は泣きたいわけじゃぁ…うぐっ…いっ…」
なんで…なんで涙が…
「大丈夫だからな…」
そういうと、霧矢くんは私の顔を胸に押し付けた。
それも優しく。
「うあああああああ…!!!!うぅ…ああああああ…!!!」
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「ね…ねぇ…霧矢くん…奏音ちゃんに何があったの…?」
後ろを歩く奏音をチラ見しながら聞いてきたのは、アズリアだった。
大阪から少し外れ、京都の町の中にある修学旅行で一度は来たことのある、大きな神社。
そこで、俺らは観光をしていた…わけだが…
「あのテンションの低さ…どう考えてみても、異常だよ…な、何かあったの…?」
俺は少し躊躇いながらも、「まあ…」とだけ呟く。
「な、なんか…寝てる時にさ、急に奏音が起きて、そんで泣き始めちゃったんだよ…すごい涙を我慢しようとだけはしてたんだけど…」
「ゆ、夢…?そ、それって…」
「どうしんだ?2人でこそこそと」
と、ここで隆一が、横から突っ込んでくる。
「え…あ、実はね_」
と、ここで俺はアズリアの口を抑える。
「い、いや!!何でもないぞ!!!」
「何でもないわけねぇだろ!なんか隠し事してるよな…?」
「え、えっと…あ!ほら、あの八つ橋美味しそうだな〜!!ってさ!!!」
「え?ん?あ、確かに!!!!あれは美味そうだ!!!!」
「んぐぅ…!!!!!ぷはぁ!!!!!どうして隆一くんに言わないの!?!?」
小声で俺に語りかける。
「いや…だって…あいつ驚いたことは大声でリピートするタイプの人間だからさ…」
「もう!!!隆一くんを信用しなさすぎ!!!!」
「いや…カップルだからって…お前…甘いぞ…流石に…」
「うぇ…い、いや別に…カップル…って…へへ…」
照れるアズリアを見て、俺は久しぶりにこんな感じのアズリアを見たなと思った。
「あ、ほらみんな着いたよ!」
そのとき、唐突に森崎さんが、目の前の神社を指さした。
「
間の前に堂々と構えたその神社は、赤色の本堂と、その本堂の立つ白い石の敷かれた綺麗な庭で有名な神社の一つ。
「うぉ〜!!!」
隆一が感嘆の声を上げた。
しかしながら、奏音が少し元気がないせいで、本来反応しない組が少し優勢になってしまう。
「う、うわ、すげー!!綺麗!!!写真撮っておこー」
と、俺は無理矢理にでも雰囲気を何となく良くしようとした。
「す、すごいね〜」
アズリアも精一杯頑張る。
俺たちは奏音を少し横目で見たが、奏音は、ちっとも笑顔じゃない。
「どしたの…奏音ちゃん…」
流石に気になったのか、森崎さんも、俺たちに聞き始めた。
「そ、それが…静かに聞いて欲しいんですけど…実は今日朝起きてから少し元気がなくて…その、悪夢を見ていたらしく…」
「あ…そうなんだ…」
「厳密にいうと、悪い思い出…をみていたんじゃないかな…」
「え…?どういう_」
「ねえ!みんな!!!」
と、ここで、先ほどまで元気のなかった奏音が唐突に明るい声を発する。
そして、言葉を続けた。
「そのさ、私、トイレ行ってきて良いかな…?」
「え?あ、と、トイレ…?」
森崎さんは、少し戸惑った様子だったが、「ああ…トイレか…」としばらく立った後に鵜呑みにし、「良いよ〜」と返す。
「それじゃあ…」
「待って!!!!」
と、ここでアズリアが背中を向けた奏音に呼びかけた。
「と、トイレなら…私も行く…」
と言った。
そして、アズリアのその目はいつもより、何か曇っているように感じる。
「いや…別に大丈夫だよ…それにアズりんはさっき行ってたでしょ…?」
た、確かに…アズリアは先ほどトイレに行っていた…
「でも…りょ、旅行先で奏音ちゃんが迷子になっちゃったら困るじゃん!」
「そ…そんな…私方向音痴じゃないから…大丈夫だよ…着いてこなくても…大丈夫だから…」
「で、でも…なんか心配だから…せめて…」
「着いてこなくて良いって言ってるでしょ!!!!!!!!!」
奏音の怒鳴りつけるような声…
俺たちのみならず、他の観光客も奏音に視線が向いた…
「どうせ…どうせ私みたいな人殺しなんて…誰も必要としてくれないんだよ………」
「ひ、人殺し…?」
「そんなことないよ!!!!!!奏音ちゃんは人殺しなんかじゃ…」
「私のせいでユリが死んだ…こんな事実があって…私に生きろって言うの…?冗談じゃないよ!!!!!!!早く楽にさせてよ!!!!!早く答えを言わせてよ!!!!!早く…早く…早く解放させてよ…………」
奏音の頬を伝う涙の一雫。
それが床に落ちた時、奏音は、「人間って口先ばっかり…」と言い残してその場を去った。
そこに取り残されたのは、唖然とした俺らだけ。
「か、奏音って…過去に何があったんだ…?」
俺はアズリアに聞く。
「え…?あ…」
アズリアは、質問の意図に気づくと、口を開けて、話し始める。
「実はさ…私と奏音ちゃんは、小学校の頃からの付き合いなんだけど…実は…本当は2人だけじゃなかったんだよね…」
「ふ、2人だけじゃなかったって…どう言うことだ…?」
「私は…奏音ちゃんと、私…そして、もう1人、黒井ユリって子といっつも一緒に遊んでたの…」
「く、黒井ユリ…?それって一体…誰なんだ…?」
隆一が首を横から突っ込んできた。
「私たちの元、友達…今は居ないんだけどね…」
「い、居ない!?それって…」
「自殺したの…」
非現実的であり、残虐な言葉。
それがアズリアから告げられる。
「じ、自殺…!?ど、どうしてそんなことを…!!!!」
アズリアは、少し間を開けて、言う。
「その子…ユリちゃんは、実はさ…奏音ちゃんのことが好きだったみたいでさ…」
「え?女、女子同士の恋愛ってこと…?」
森崎さんが、心配するように聞き返す。
「うん…それで…ユリちゃんも、頑張って奏音ちゃんに告白したんだけど…フラれちゃったみたいで…そのことが相当ショックだったのか…それから学校に来なくなって…挙句果てには、その…喉とお腹を包丁で掻き切って…自殺しちゃったみたいで…」
包丁で掻き切る…
俺はどれだけそれが痛いのかは知らない…
しかしながらも、それが死ぬほど苦しい…
いや、死ぬまで苦しい地獄が続くことだけはわかる…
「そんでもって…運悪く、その第一発見者が奏音ちゃんだったみたいで…その…何というか…血塗れのユリちゃんのことを…思い出しちゃったみたいでさ…高校入る前まで…ずっと、そのことで苦しんでたりしたんだよ…」
俺らの知らない奏音の過去…
それは思っていたよりも重く、悲しく、そして、衝撃的なものだった…
俺はどうして良いのか分からず…人殺しと自分から言ってしまうのも無理はないと思ってしまった…
なぜなら、ユリという人物が自殺した理由は全て、自分によるものだと推測できるから…
「少し前に克服したと思っていたのに…今になってフラッシュバックするなんて…昔は相当病んでいてさ…奏音ちゃん自身も自殺しようとしてた時期もあったんだよ…」
「そ、そうなのか…!?」
「うん…実はね…」
すると、なぜだか、俺は手汗が一気に吹き出した。
まさか…アズリアと一緒に行かなかった理由って…
「と、とりあえず!!!!今は奏音を探したほうが良いかもしれない…多分、奏音はトイレになんて向かってないと思う…!!!!」
「そ、そうだね…早く探さないと…一大事になる前に…」
「お、俺は!!!!俺はあっちの方を見てくる!!!!」
そういうと、隆一は、少し奥の方へと指さして、「行ってくる!!!!」というと、指さした方向へと向かって行った。
「お、俺たちも探そう!!!!」
「そ、そうだね!!!!」
そういうと、俺たちは、各々、別々の方向へと向かって行った…
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「ユリ…待っててね…今すぐそっちに行くから…」
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