第34話 奏音の本音。
開け放たれた空間。
誰かから離れたくて、神社から間反対の方向に来た。
山の上に立っていた神社ということで、都合よく、死ねそうな崖もあった。
誰も来ない。
私が生きていたとしても、山の中だからしばらくは見つからないかもしれない。
1人で死ぬには十分だった。
「空気が…気持ちいな…」
崖の上を流れるそよ風は、私を軽蔑するように冷たい風が吹く…
私なんて…所詮人殺しなんだよ…
あっちに行ったらユリになんて言われるかな…
人殺しって言われて罵倒されるかな…
それとも、会いたかったなんて言われちゃったりして…
ああ…そんな生半可なことでは許されないかもしれないけれど…
「ユリ…待っててね…今すぐそっちに行くから…」
私はそう呟くと、崖に向かって歩き始める。
「か、奏音…!!!」
と、その時、私じゃない、聞き馴染みのある声がした。
だから私は振り返った。
「…し、死にたくないんだろ…?」
「何を見て…そう思ったの…霧矢くん…」
そこにいたのは霧矢くんだった…私を止めるつもりなのだろうか…
私は止まらない…いや、止まれないと言うのに…
「じゃなかったら…なんで泣いてるんだよ…!!」
「え…?」
頬に手を当てる…手が濡れた。
「これ…なんで…」
「ユリのことはアズリアから聞いた…まさか…そんなことを背負ってたなんて…」
霧矢くんは、手を強く握りながら言った。
「別に…私は…私は背負ってなんかなかったよ…ただ忘れたくて…親友だったのに…忘れたかったの…そんな自分が憎くて…だから殺すの…」
「人間を殺したからって…親友を殺したからって…!!!!自分を殺すのは間違ってる!!!!!」
「でも…どうせ私なんて…必要としてくれる人なんて誰も居ないよ…」
「奏音!!!!!」
だから…私は…
「だから私は!!!!!」
踵を返して、私は後ろに向かって走り出す。
後ろに広がる絶景と向こうまで続く森。
私は崖を飛び出した。
浮遊感が私を襲い、冷たい空気が、頬を撫で始める。
風が私を襲い、地面に打ち付けようと、重力が私を地面に引きつける。
「さよなら。」
私は霧矢くんに届くように言うと、真下へと落ちていく。
「_なんてさせるかよ!!!!!!』
急に伸びた手。
私を掴んだ。
「んあ…!?」
「お前を…必要としてる奴なんて…沢山居るだろ!!!!!!そして…ここに1人!!!!!!」
「は…離してよ!!!!!私はもう…私はもう!!!!!」
「うるせぇなぁ!!!!!!!!!俺は離したくないから離さない!!!!!手に取ったものは掴んで離さない!!!!!!絶対に!!!!!」
霧矢くんは、私の腕を強く握り、崖の方向へと、引き上げようとする。
「もう離してよ!!!!!私は…親友を殺した殺人犯なんだよ!!!?」
「違う!!!!!!」
大きな声で返された。
今まで霧矢くんの口からは聞いたことのないくらいの声量だった。
「お前は…!!!!俺の友達だろ!!!!!!!殺人犯じゃなくて、俺の友達だ!!!!!」
「と、友達が人殺したら…憎くないの!?!?」
「憎むことなんてしない!!!!!俺は…!!!俺は!!!!殺人を犯した友達と一緒に罪を背負う!!!!!」
私を握る手が強くなった。
「な…なんで…そんなに私のことを気にかけるの!?」
「好きだからだよ!!!!!!」
霧矢くんが必死に言った一言。
私は、霧矢くんの力を入れるために必死にひしゃげる顔を見た。
「お前のことが好きだからだよ!!!!!!」
唐突な告白に、私は少しだけ驚いてしまった。
そうせずにはいられなかった。
「ど…どうして…こんな私のことを…?」
「お前の…気さくな笑顔とか…!!!!みんなを囃し立てるその明るさとかが…!!!!俺は好きなんだよ!!!!!だから…俺のために生きてくれよ!!!!!死ぬなんて言わないでくれ!!!!!!!」
崖から垂れる霧矢くんの涙が、私の頬を伝った。
次の瞬間、霧矢くんは、私の腕を両手で掴んだ。
「一気に引くぞ!!!!!」
すると、霧矢くんは、私のことを崖から一気に引き上げた。
「危な!!!!!」
少しだけ崖先が崩れそうにもなったが、霧矢くんは、私の腕を離さない。
そして、私の目の中に、地上の世界が映り出した。
太陽のおかげか、少しだけ明るく見える…
そして、地面についた時に、力がふっと抜けた…
体に力が入らない…
でも、涙だけは溢れ出た。
「うわぁ…ああ……うわぁぁん…………あああああ!!!!!!」
でも、その涙を受け止めてくれるように、私のことを両腕で正面から霧矢くんは抱きしめる。
「良かった…!!!!!本当にお前が生きてくれて!!!!良かった!!!!!!!」
私のことを強く抱きしめてくれた霧矢くん。
霧矢くんの体があったかいせいか、冷たく吹いていた風は、なぜか暖かく感じた…
「うわあああ……ああああ………ああああ!!!!!!」
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「で…でも…私なんて生きてて…ユリちゃんに嫌われないかなぁ………」
「私なんてなん言うなよ!!!!!!それに…俺はわかる…」
「わかるって…何が…?」
「ユリは…お前に死んでほしくないと思う…」
「なんで…なんでそんなことが分かるの…?」
「俺も好きだった人が居てさ…告白したんだけど…フラれちゃって…諦めては居るんだけど…その人には幸せになってほしい…って思い続けてる自分が何処かに居るんだ…」
霧矢くんは、私の肩にズシン!と両手を勢いよく乗せた。
「だから、ユリの気持ちが分かる。ユリは多分…お前に幸せになってもらいたいんじゃないか?」
「し、幸せに…?」
「俺は、思うんだ…好きな人の幸福が、自分の幸福だと…だってそうだろ?カップルってさ、自分の恋人の幸せそうな笑顔見たら、喜ぶだろ?(知らんけど…)」
霧矢くんは、手を一度、あげて、立ち上がって言った。
「だから、本当にユリの事を想うんだったら、お前が幸せになれば良いと思うんだ。それがお前のできる、ユリへの気遣い…というか、償い…なんじゃないか?」
「そ、そんなことで良いの…?」
「でも、俺だったら、そうなって欲しい。ユリってやつがどんな人かわからないけど、ユリはそう思ってるんじゃないか?」
◇◇◇
「ねえ!!コンちゃん!!はい!ピース!」
そう言うと、ユリちゃんは、自分のお手製のカメラを私に向けた。
「え!?え!?あ、ピース!!!!」
そう言って、夕暮れ時の教室で、シャッター音が鳴った。
「わ!!!すごい良い顔!!!」
「え?そんなに笑顔?」
私はユリちゃんのカメラの画面を見る。
そこには、確かに両手にピースを作り、そして、にっこりと笑う私の姿。
でも、これはいつも見せてる私の顔だ。
「こんな顔だったらいつでも見せてあげるのに〜」
「でも、このコンちゃんの顔。私好きだよ?」
「え〜?」
「この幸せそうな顔がさ、私のことを元気付けてくれるんだ!」
「そうかな〜?」
「そうだよそうだよ!!!絶対そうだよ!!!」
ユリちゃんは、その場で飛び跳ねながら言った。
「だから、この笑顔を、皆んなに見せてあげてね!!」
◇◇◇
「多分…そうかも…」
「え?」
「霧矢くんの言う通りかも。私の笑顔には…不思議な力があるのかもね…」
そう言うと、私は、笑う…
目元からは涙が少し垂れてしまうが、気にしない。
これで良いんだよね。
ユリちゃん。
それで良いんだよ。
コンちゃん。
どこから聞こえた気がした。
「はは…やっぱり、俺はその笑顔、好きだな。」
「似てるなぁ〜」
「え?」
「写真撮ってくるとか、私の笑顔が好きだ〜とか、霧矢くんて、ユリちゃんに似てるね。」
「そうか?まあ、俺はユリって奴のこと知らないんだけどさ〜」
「へへ〜そうだよね〜」
私は背中を向けて崖を去る、霧矢くんの背中を追いかけて、横に並ぶ。
私の間違いを指摘してくれた人。
答えを教えてくれた人。
なんだろう…この人の隣に並ぶと…不思議と心臓がドクンと大きな脈を打つ。
頬が熱くなった。
「そういえば、さっきの好きって…」
小さな声で呟く。
「え?なんか言ったか?」
先ほどの私の崖を飛び降りたことについてなかったかのように気にしない霧矢くんは、私の言葉を聞き返した。
「いや…なんでもないや。」
私は、言わなかった。
本当の気持ちを。
「あそう。そんじゃ、行きますかね〜。森崎さんのとこ。」
___________
霧矢くんがそういうと、私は霧矢くんについて行く。
「はぁ…全く、心配したよ。」
森崎さんは、「ふう」と深呼吸をすると、そう言った。
いや、そう言ってくれた。
「ほんと、探し回ったせいで腹減ったよ〜!」
隆一くんが、ニヤリと笑いながらお腹をさする。
「奏音ちゃああああああん!!!!!!!!良かったああああああああ!!!!!!!」
泣き叫んで、私に抱きつくアズりん。
小動物感があって、小学生の時に戻ったみたいな感覚だった。
「ははは。アズりん、もう大丈夫だよー!」
私はアズりんの背中をさする。
「ほら、言うことあるだろ。」
少しだけ笑う霧矢くんが言った。
そうだった。私は思い出した。
この言葉を忘れていたことを。
「ただいま!」
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