第25話 分かりあいってのが大事だと俺は思う

「た、ただいま…」

宮殿のような家の中に少女の声が響いた。


アズリアはそっと扉を開く。

それに気づいたラングレー家の当主。


ヘルイニ・ラングレーは書斎から出て、階段へと向かう。

ヘルイニは書斎から階段へと行くと、扉を開け、そしてそっと閉めるアズリアの姿があった。


アズリアは退院して日比谷たちに送ってもらっただ。


「気は変わったか?」

ヘルイニが帰ったばかりのアズリアに問い詰めるように質問すると、アズリアはため息を吐き、ドアノブを握ったまま

「私は…社長になんてなれません…」


「まだそんなことを行っているのか…?そろそろ大人になったらどうなんだ?」


「でも…私は…責任の多い仕事なんて…やりたくないです…」


「大きな仕事に責任など付き物だ。だが、アズリアはその責任を背負っていく義務がある。」


「でも…私は…まだ学生です!!そんなことを…今考える必要があるんですか!?」

するとアズリアは急に口調を強くした。


まるで、病院の廊下で会ったあの鬱陶しい男のようだ。


「早いに越したことは無い。それだけだ。」


「お前は…アズリア自身の事をちゃんと考えてるのかよ…」


するとその時、見知らぬ…いや、聞き覚えのあるような声が館の中に響いた。


「お前は…」


「アズリアにとっては、今は人生で一度しかない大切な時間なんだ。その事を考えたことは無いのかよ!!!」


「これだから凡人は…!!!アズリアの事を考えてるからこそ、俺は未来に役立つ最善の手を提案しているんだ…」


「押し付ける事を提案なんて言わない…それはただの強要だぞ!!!アズリアの嫌がる事を押し付けて、何が提案だよ!!!何が将来の為、だよ!!!お前は、アズリアの今を考えたことはないのかよ!?今の幸せを考えたことはないのかよ!!!!?」


「………今の幸せ…か…」


『アズリアだけは…絶対に幸せに…してあげて……』

ヘルイニの中。

今は亡き妻の声が聞こえた。


「今のアズリアは、お前の所為で苦しんでるんだ!!!!!それでも…それでも本当に父親かよ!!!!!!?」


『アズリアの…父親として………』


「っつ……!!!!!!…………はぁ………好きにしろ………」

ヘルイニは頭を抱えながらそう呟くと、階段を登っていった。


__________________________________________________


「ふ、ふぅ…良かったな……アズリア。」

隆一くんは額の汗を手で拭き取ると、私の顔を見た。


「え…ほ、本当に出来た…の?説得できたの…?」


「ま、まあな。俺にはどこがヒットしたのかわからんけど…」


あんなに不動だった父がこうも簡単に動かされるとは…

や、やはり隆一くんは凄いな…


「あ、ありがと…!ありがとう!!!」

私はそう言いながら隆一くんに抱きついた。


とても強い力で、離さないようにして抱き締める。

「お、おお…アズリア…力強いな…」


隆一くんがそう言いながら背中に手を添えた。

「や…やったよ…やったよ…!!!!」


「ああ。やったな…」


「アズリア様?」


「ふぇ!?」

私は前触れもなく、出てきたその声にびっくりしながら隆一くんから離れる。


「その方は?」


私たちのそばに立っていたのはメイドの日比谷さんだった。

今日もブレないその真顔でその場に立っていた。


気配もないその人は、少し「?」を頭の上に浮かべている。


「あ、え、えっと…こ、この人は…」


「えっと…卜部隆一です…?これで良いのか?」


「隆一様…ですね。初めまして。ラングレー家のメイド長をやらせてもらっております。日比谷香織と申します。」


日比谷さんはペコリと頭を下げると、その真顔を崩さずに頭を上げる。

まるで機械のように決まった秒数の間、そして決まった角度で会釈すると、日比谷さんは、自身の中にあった疑問を言う。


「ところで、アズリア様と隆一様はどんな関係なのですか?」


これは多分…お父さんに何かを言われているのだろう…

例えば、私が男を連れてきたらどんな関係か、探れとか…


「え、えっとね…お、男友達!!!男友達ですよ!!!」


「え、俺らって…カップr…」

と、ここで私は隆一くんの口を押さえる。


「カップル、でしょうか…?確かに先ほど、抱き合っていましたね。」

表情も何も変えずにそう問い詰める。


圧を与えていないようで微妙に圧を与えられていることに気づいているのは私だけだろうか…


あまり隆一くんはわかっていなさそうだ…


「あ、そうそう!!え?そ、そうだよね…?」


これはもうダメかな…


「そう…だよ…うん…」


「そうなのですね。ですが、笹呉様とは浮気ということになるのでは…」


「あ、あいつなんか私、愛してないよ!!!!あんなキモいやつ…」


「そうなのですか?それでは、今はその方が許嫁様?」


「え?許嫁?俺が?まさかぁ…」


「そう!!!許嫁!!!」


「ゑ」


隆一くん私のいきなりの結婚宣言にちょっとした変な声をあげてしまう。

隆一くんて意外と押しに弱いところあるし、このままいけば多分いける!!!


私は絶好の機会を逃さないと、隆一くんの腕を取る。


ちょっと恥ずかしいけど!!!!!


「ね?そうでしょ?」


私は腕を胸に押し付ける。

多分、クラスの中では下から数えた方が早い程の胸の大きさだけども、でもちゃんとしっかり付いているわけで、弾力だってある。


まあ、なので隆一くん的には…


「ちょ…あ、アズリア!?あ、あ、当たってる…よ…?」

顔を赤くしながらいう隆一くん。


やっぱり押しに弱い!!!!!


「で!!!どうなの!!!?」


「え!?もちろんだよ…!」

少し弱気な瞳の奥…それでもしっかりと情熱が宿っている…気がした。


「アズリア様、いつの間にお色気術を習得したんですか?」


日比谷さん…今はそういうことは言わないほうが良いですよ…


「と、というわけで!!!私と隆一くんは許嫁ということで!!!!両者が認めたので!!!はい!!!」


「そうですね。ではお父上様にご報告します。」


そういうと、日比谷さんはポケットから時代遅れのガラケーを取り出した。


「ああ!!!!!ちょ、ちょっと待ってください!!!!!」


「どうなさいましたか?」


た、確かに先ほど自由にしろと言われた。

でも、だからと言って全てを打ち明けるのも危ない気がする…


「え、えっとさ!この話はサプライズで言おうかなって思ってさ!!!だから、もうちょっと待ってくれない…?」


「そういうことでしたら。」

そういうと日比谷さんはガラケーを仕舞った。


「は、はい!!!と、ということで!!!このお話はお終い!!!!」

私はその事を日比谷さんに言うと、隆一くんの背中を押して、館の外へと出た。


メイドの日比谷さんを置いて。


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