第24話 病室って色んな人が来るんだね。

学校が終わり、そして、道路を走り、歩道を走り、病院の廊下を走る。

2階にある病室の一つ、203番の部屋。

俺は、滑り込みで、その病室を開けた。


幾つかのベットがあったが、その中の一番窓辺の方。

俺は息を切らしながら、そのベットに向かってまた大きく一歩二歩と、踏み出した。


「アズリア!!!!!」


「うわぁ!」


俺はいつの間にか、アズリアを抱きしめて、そして涙を流していた。

「アズリアぁ…ぐすっ!!!!アズリアぁ…!!!」


「ちょ、隆一くん!力強いよ〜」


俺は、流れていた涙を拭き取ると、「ああ…ごめん…」と呟いた。


「でも…本当に無事でよかった…アズリアが…死んじゃうかと思った……」


「ふふ…大丈夫だよ〜私はここにいるよ〜」

そう言って、アズリアは涙目の俺の頭を撫でる。


「もう、体は大丈夫なのか…?」


「えーとね…まだたまーに目眩とか、吐き気したり…あと少し脇腹が痛むけど…まあ、交通事故の中で言ったら、軽症らしいし、私は大丈夫かな〜」


「よ、良かった…いや良くねぇ!!!!目眩とか吐き気とかって…それなかなか辛いじゃんか!!」

俺はアズリアを一度、両肩を持って寝かせると、「アズリアは少し寝ていてくれ。寝かせるから。」


「え〜?どうやって〜?」


俺は少し考えたが、やはりこの方法しか無いと思う。

「何って…子守唄だよ。」


「え…え…こ、子守唄?」


やはり寝かせると言ったら子守唄。

世の中の基本ルールだ。

「ああ。子守唄。嫌…かな…?」


「え…い、嫌じゃないよ!!!お願い、隆一くん!!」


俺は安心して少し頬の力を抜かすと、子守唄の歌詞を歌い始める。

「ねんね〜んころ〜りや♪」


「ふふ…」

俺はどこからか聞こえるくすくすと言った笑い声も気にせず、歌詞を歌い続ける。


と、俺が子守唄を歌い終わった所で、アズリアを見る。

すると、アズリアの瞳は瞼で遮られていた。


「アズリア…寝た?」


俺は目を閉じているアズリアに聞いてみると、「寝てるよ〜」とアズリアの口が動いた。


「寝てないじゃんww」

俺は笑いながら言った。


「ふふふ!!」

アズリアもクスクスと布団の中から笑った。


幸せだなぁ…これがカップルって奴か…

リア充サイコー……


俺がそんなことを思っていた時、病室の中に扉の開く音が響いた。

初めは他の誰かのご親族か何かか?と思っていたが、それも違う、なぜならそういえば、ベットは幾つかあるが、この病室にはアズリアしか居なかった…


と、思っていると、俺はアズリアの何か、気分が悪くなったように眉を顰めた。

俺はこんな顔初めて見る…


こんなに気分を悪くする相手…って誰だ?


俺は踵を返し、その顔を拝もうとした時、ほぼ同タイミングで来客1の声が放たれた。

「おお!!元気そうじゃんかアズリアくん!!」


そこには金髪の髪と紫色のスーツを着きて、たくさんの指輪を通す男が立っていた。


「さ、笹呉!!!!」

アズリアは、尖った目付きで睨むと、笹呉と呼ばれた男はその場で、ヘラヘラと笑って、

「そんなに僕が来るのが嫌だった?ごめんね〜」

と言って謝る。


何の謝礼も感じない。


「早く帰ってくれない…?貴方が居るだけで不愉快なんだけど…?」

敵をみるような目でアズリアは笹呉を睨むが、笹呉は、ふっ…と笑って「まぁ、今日は隆一くんって人に用があってさ。」


というと、俺の方を向く。

「え?俺?」

俺は自分を指して質問すると、コクリと笹呉は首を縦に振る。


「君さ、アズリアとずっと一緒にいるけど、不釣り合い…とか、思わないの?」


「え?俺のこと知ってるのか?」


「もちろん!アズリアからたくさん話は聞いてるしね。それで、どうなの?不釣り合いとか、アズリアは自分に合ってないとか、思わないの?」


俺は少し考える。

「え?思わないなぁ…」


「え?」


「どう考えても、アズリアは友達で、好きな人で…俺の大切な人だ。不釣り合いは…全くもって思わないな。でも、急にどうしてそんなことを…?」


笹呉はニヒルな笑い方を薄っすらと浮かべると、「アズリアはさぁ…類い稀なる才能を持っているからねぇ…!」


「え?ああ。まぁ、知ってるけど…」


「え?」

アズリアが鉄砲玉を喰らった鳩のように口を開けた。


「いや、だって…前テストで10点20点30点って並んで取ってたし…その前には全部55のゾロ目で全部テスト取ってたし…そもそも、授業中ずっと寝てるのに、平均値保ってたりするし…皆が気づいてることだと思ってたんだけど…」


「そ、そうなの…?」


「え?逆にそれ以外に、何があるんだよ。」


「ま、まぁ…そうだね…」


俺は、金髪男の方を向いた、

「で?それでお前、一体誰なんだ?」 


「え?は…ふ、ふふふふふ!!!!!」

男が口を隠しながら大袈裟な笑い声を上げる。


「僕?僕のこと知りたい?はははは!!!!僕はね!!天才___」


「自分で天才っていうんだ?」


「黙れッ!!!!!本当のことなのだから良いんだよ!!」


笹呉は咳払いをして、一度場を改める。


「僕は!!!二十歳にして!!!笹呉コーポレーションの社長となった天才!!!笹呉日向…そして!!!何を隠そう!!!僕はアズリアの許嫁だ!!!!」


「は!?い、許嫁!?」


笹呉の顔を見た後、アズリアの顔を見る。

アズリアは、いつ、その感情がいつ爆発してもおかしくないような顔。


「ほ、本当…か…?」


俺が恐る恐る聞いてみる。


「違う!!!!!」

すると、アズリアは声を張って言い放った。

「私の許嫁は隆一くんだもん!!!」

アズリアは、そう言いながらベッドの上で立っている俺に抱きつく。

というか、掴んでいる。


「うぇ…?」


「は!ふざけた事を言うじゃないか!!!じゃあその覚悟を証明してみろよ!!!!」


俺だけがその話に付いて行けずにいると、急にアズリアが、「隆一くん…こっち向いて…」と赤面ながらに、俺の頬を掴み取り自身の方向へと向けた。


「へ?あは、はふりあはん?」


「だ、大丈夫だよ…すぐ終わるから…」


そう言い、俺の唇にアズリアは、アズリアの唇を重ねた。


そして鳴る、チュッという甘酸っぱい音。


「え…」

そしてそれを見て顔色を悪くする笹呉。


って、ん?何か口の中に何かザラザラしたのが…


その時、俺の思考は一度止まった。


そのザラザラした物が、アズリアの舌だと気付いたからだ。


「│あ、あふりあしゃん!?《アズリアさん!?》」


「ん…んチュッ…│もっほ《もっと》…│もっほちょうらい《もっとちょうだい》!!!」


舌と舌が絡み合い、唾液と唾液が混ざり合う。

今までに感じたことのない程の甘い甘い絡み合い。


脳が本当にとろけちゃいそうだ。


でも、それは俺だけじゃないようで、アズリアの顔は既にとろけたように甘い顔をしていた。


「う…ああああああ…!!!!」

そして、それを見て膝を床に突き付ける笹呉。


「ぷはぁ…お、美味しかったぁ…」

アズリアは唇の俺の唾液を指で拭い、そして口へ運ぶ。


もはやこれはアウト…なのでは…?


「くっそ!!!せっかくもっと財産が増えると思っていたのに!!!!」


「ざ、財産?」


「ああ!!!そうだよ!!!そこのお嬢さんは次期ランゲリー社の社長だって言うから、そのランゲリー社を乗っ取ってやろうと思ったのになぁ!!!!」


「な、何かよくわからねぇけど…せ、せこいな!!!お前!!!!」


「まぁ…俺とアズリアの結婚はほぼ確定…!!ファーストキスがどうであろうが!!!カンケーねぇんだよ!!!!」


「とりあえず…さっさと出てってくれない?」

辛辣な目でアズリアは笹呉を睨むと、流石にこれには怖気ついたのか、「くっそ!!!まだ俺は完全に負けた訳では無い!!!!」と言い放ち、病室から出ていった。


するとアズリア、少しだけ入院服から肌を見せて、「じゃあ次は…私の初めてを…」と全てを言い切る前に

「それはまだだ!!!!!」

と、言ってアズリアの手を止める。


流石にそれはアウトだろう…



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