第23話 大切な人。

夕方6時、俺は手術中の赤い文字の下で、両手を合わせて祈る。

まだ40分ほどしか経って居ないが、俺にとっては生きている中で一番長い時間。


心臓がバクン!!バクン!!!と大きな鼓動を体に轟かせている。

早く、終わってくれ!!!早く!!!!!


周りには、霧矢と奏音、そして、スーツを身に纏った少し老けた男が、立っていた。


そして唐突に、赤いランプが消える。


俺は急いで立ち上がり、手術室の扉が開かれたと同時に出てきた医者の先生の両方を掴んだ。


「せ、先生!!!!結果は…!!!!」


少し小さめの背丈をした女性の先生は、マスクを外すと、

「成功です」

と一言だけ言った。


「よ…よかったぁ………」


俺は、その勢いで、床に膝を突いて倒れ込む。


「まあ、実に簡単な手術だったよ。肋骨の一部を人工移植するだけだしね。3週間後くらいには退院するさ。」


俺はその言葉を聞き、涙を床に垂らす。

そして、力の抜けた声で一言。


「はぁ…よかった……」


「まあ、今日は暇だったし、私が空いていてよかったね。一日遅れてたらユミーくんの手術でやばかっただろけど……」


先生の小言を気にせず、俺は涙を流す。


「本当によかった…」


「よ、よかった…」

すると、後ろに控えていた奏音が声を漏らし、霧矢も、「一時はどうなるかと思ったよ…」と小言を漏らす。


「アズリアにはまだ、やってもらわなければいけないことがある。そう簡単には死なせるわけにはいかないからな。」

そして、冷たい声で言う男が一人。


「あ、あなたは…」


すると、その老けた男は、俺に棘のある声で、

「お前みたいな低俗な奴に付き合っている暇はない。全く…アズリアはこんな奴らと構っているのか…どこまで腐ってるのか…」


「は…?」


急に出た言葉だった。


「アズリアは腐っていない…なぜそんなことが言える…?」

俺が、立ち上がり、そして、言う。


「おい!隆一!!!」


「アズリアは自分の才能を十分に発揮していない。そのせいで、お前らのせいで、アズリアの才能が腐っていくのは、見るに耐えないものだ。全く…あいつは馬鹿だ。」


「アズリアは…馬鹿じゃないだろ…!!!!」


「なぜそれが貴様に言える?」


「アズリアは頭の良い奴だ!!!お前がなぜそれを否定できる!!!!?」

沸き上がってくる怒り。

こいつの全てを見知ったような目は、アズリアのことを全て理解し、その上で言っているような気がした。


でも、アズリアを馬鹿にすることだけは、許せない!!!!!


「頭の良い奴?そんな根拠もない言い方で、よく反論できたな。アズリアは、自分の才能に気付いてながらも、その才能をちっとも使おうとしない。それが頭の良いやつと、果たして言えるか?否。そんなのは、馬鹿な奴のやること。世の中には、適材適所という言葉がある。天才は天才しかできないことをするべきだ。」


俺は、そこでプツンと何かが切れた。


俺の拳は思いっきり、自分のことなどどうでも良いかのように、爪を握り込む。


「お前!!!!どこの誰だか知らないが、アズリアはアズリア自身の物だろ!!!!!!アズリアが自分らしく生きてて何が悪いんだよ!!!!!!」


「効率という言葉を知っているか?無駄を省くという意味だが、アズリアのやっていることは、無駄そのもの。自分の人生の使い方を何もわかってない。時間とは有限。その中で頭の良い使い方を俺はしろと言っているんだ。」


「アズリアの人生はアズリアの人生だろ!!!!!!アズリアが、したいことをすればいいし!!!アズリアがやりたいことをすればいい!!!!アズリアを縛る権利は、誰にもないはずだ!!!!!人間ってのは、そういうもんだろ!!!!!」


「全く…お前もアズリアのことを何もわかっていない…アズリアは俺に従った方が、絶対に幸せになれるというのに…」


「人間を縛ってそれが幸せだと!?ふざけたこと言うんじゃねぇ!!!!!」

俺は、大袈裟に足音を立てて、男に近ずく。


「まあ、お前もそんなことを言っていれば良いさ。」


そういうと男は去っていった。


ああ!!!くそ!!!!!!!


「あいつは…何さまのつもりなんだ!!!!!」

俺はそのことを呟くと、その場にある椅子に座った………………



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