第22話 アズリアの家。
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「それじゃあバイバ〜イ!」
そう言われて、私は奏音ちゃんと道を別れて帰る。
今日は特に何も何もない日。
部活も塾もない。
家には帰りたくないから私は財布の中を開ける。
そこの中には1万円が入っていた。
これでどれくらいの時間を潰せるだろう…
でも、わかるのはそんなには潰せないということ。
それに今日はバイト組それぞれにやる事があるって言ってたし…今日は誰かとも遊べることは出来ない。
どうしよう…
家に帰りたくないな…
そう考えていると、いつの間にか、家の目の前に居た。
着いてしまった…
目の前に広がる大きな門。
黒い金属で出来た鉄の門の上の方にはバラの形に作られており、周りには白い壁が、公共の道路と、私の家を区切っている。
2mほどの壁は猫の出入りすら出来ない。
ここに入ってしまっては、今日はもう嫌な日になることは間違いない…
私は逃げ出そうと、門から一歩、退こうとしたその時。
「アズリア様。」
声がした。
声の方向。
そこには日比谷さんが経っていた。
メイド服を見にまとい、メガネを掛けて無表情を保つ彼女。
彼女は私と父の二人しかいないこの屋敷のメイド長だ。
最悪だ。
もし、ここで引いたりしたら、またあの時のように父に何か言われる。
絶対そうだ。
「おかえりなさいませ。どうぞ、ご入りください。」
そういうと、日比谷さんは門を開けた。
決して瞬きを一瞬たりともしない彼女には、油断というものがなさそうだ。
「は…はい…」
私は、やむを得ず門をくぐり抜けると、逃さないというばかりに、門が閉じられ、鍵が掛かった。
「あの…日比谷さん…今日ってお父さんはいますか…?」
「今日ですか?今日は仕事に行ってはいないので」
「わかりました…ありがとうございます…」
ああ…最悪だ。
よりにもよって………
「それと。許嫁様が来ております。ご挨拶されたらどうでしょうか?」
うぐ…あの人…来てるって…………
来るなら隆一くん…いや、こんな家見せられない…
「わかった…ありがとう…」
私が、日比谷さんに頭を下げて礼を言うと、私は、すぐにお花畑で囲まれた一本の道を辿って屋敷の玄関へと向かった。
まるでお城のような扉を開けると、学校のホールよりも広い玄関が現れる。
赤と黄色で彩られた、それこそ、中世ヨーロッパのような家の創りの中には、複数のメイドさんたちが、行き来をしていた。
今日は知らないメイドさんもいる…
ということは…笹呉家がいると言うことだ…
ほんと…笹呉家なんて…大っ嫌いなのに………
別に来なくて良いのに…………
私はメイドさんが行き来している中を、気にせずに階段を上る。
メイドさんたちは私の存在に気づくと、道を開け、そして私に向かって一礼したあと、再び仕事に戻る。
さすがは、メイド検定1級以上の人達と思いつつ、私は自分の部屋に行こうと、左の方の階段を上る。
「帰ったのか。アズリア。」
すると、反対の右側の階段から太い男性声が聞こえた。
私は振り向くと、そこには父の姿があった。
「お父さん………」
「全く…あの低俗学校からようやく帰ってきたのか。お前の学力ならあんな場所よりももっとふさわしい所があるだろう?」
「そうですね……それでは…」
私は父を振り解き、階段を登ろうとした時だった。
「おい待て。」
厳格な父の重たい声が聞こえた。
そして、階段を降り、私の方まで歩き寄ろうと、左の階段を上る足音。
そして、父が私の肩に手を置く。
そして、父は手に持っていた何かを私の目の前に掲げる。
「これはなんだ?」
私の目の前にあったのは、テスト。
第2テストだった。
「点数。10点、20点、30点、40点、50点………」
ふざけているのか?と言わんばかりの圧を肩にかける。
「お父さん…肩が痛いです。」
「お前…これだけ余裕があるにも関わらず、才能に恵まれているのにも関わらず、なぜお前はこんなふざけたことをいつまでもする?こんなテスト、満点など余裕だろう?アズリア。」
さらに力が肩に加わる。
そこだけ重力が重たくなったようだ。
「すいません…私には無理だったようで…」
「そんなことはないはずだ。」
即答された。まるで私が言う言葉をすでに知っていたように。
「狙ってやっているだろう?全く…お前…少し前にやった模試、全国一位だったじゃないか。いつまで平凡ぶっていれば、気が済む?」
父は「はぁ」とため息を吐く。
すると、父は肩から手を離す。
そして、私の前に立つ。逃がさないと言わんばかりに。
「アズリア。人間というのは、生まれた時から全てが決まっている。もし、名家に生まれたのなら、その役割を果たすべきだ。お前は特別に生まれたんだ。平凡な人間と絡んでいると、そのうちいつか、お前の才能が廃るぞ。」
「……そうですか…それでは。」
私は目の前の階段に立つ、父の横を素通りして自分の部屋へと向かった。
平凡…平凡………
「平凡で居て…何が悪いんだよ……」
私は自分のベットに飛び込み、そして毛布を握りしめながら、ベットに向かって呟いた。
父の口癖は生まれた時から全てが決まっている、だ。
「どうして………別に…役割を守らなくても良いじゃんか……」
「そうかなぁ〜?」
私は、全身を振り上がらせて、後ろを向いた。
そこには髪の毛を整え、紫色のスーツを着た金髪の男。
こいつが私の許嫁…
20歳にして、笹呉コーポレーションの社長になった逸材…
そして…私の嫌いな人間の一人だ…
「か…鍵……」
「鍵?ああ、掛かってなかったよ?」
そう言って人の部屋にノコノコと入り込む笹呉。
顔は整っては居るが、到底好きにはなれない…
「人間にはさ、天性の才能ってのがあるんだよね。才能ってのは、生まれた時点で決まっちゃてるから、どうしようも出来ない。」
そう言いながら笹呉は、私のベットの上に座り込む。
「だから、天才は天才しか出来ない役割を。凡人みたいな量産型はそこら辺の草むしりでもしておけば良い。君は草むしりをしたいのかい?」
私は笹呉を睨みつけて、一言。
「出ていって…!!!」
「そんな猫みたいな可愛い目しても、僕は引かないよ…?」
そう言いつつ、壁際にもたれかかった私へと近ずき、そして、私の頬を掴み取った。
私はその腕を両手で握り、どうにか離そうとしようとしたが、力が強くて離れない。
「だからさ、君みたいな美貌の子は、僕と結婚して、幸せな人生を進むのが定石だと思うんだけどな〜」
そう言って、顔を笹呉は近付かせる。
唇を近ずける笹呉。
私はそいつの顔面に向かって拳を叩き込んだ。
ぐちゃりと伝わる感触。
確実に入った!!!
そして、よろける笹呉と間合いを詰め、鳩尾に向かってアッパーを喰らわせる。
すると、その場に笹呉は倒れ込んだ。
「ぐっはぁ…て、抵抗的な所も良いね…きっと初めては拘束しながらやらないと…無理だろうね……」
腹を抱えながら、笹呉はそう呟やいた。
「キッモ!!!!」
私はサッカーボールのように蹴って、部屋の外へと追い出した。
そして、鍵を閉める。
今日も、私のファーストキスと処女は守られた…
これは隆一くん専用なんだから………
私は、スマホを開き、そして写真フォルダの中にある、少し前に撮った隆一くんとのツーショットを開く。
「はぁ…こんなこと…隆一くんに言えないよ………」
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