第21話 夕方の一時。

「それじゃあ、バイバーイ!!!」


「そんじゃ、また明日、バイトでな。」


「おう!じゃーなー!!」

俺が霧矢を見送ると、俺は自室へと戻った。


とりあえず、アズリア以外は全員帰ったことだし。


それじゃあ、俺はアズリアと何しようかな〜


俺が階段を駆け上がり、自室へと向かっている最中。

アズリアが玄関に居た。


自室の前で起立していて、特に何もしていない。


「ん?アズリア?どうしたんだ?」


「隆一く〜ん!ちょっとさ!お散歩しない〜?」


「お散歩?まあ、別にいいけど…」

俺は靴を履き替えて、少し前を行くアズリアに付いて行く。


「アズリアは今どこに向かってるんだ?」


「んふふ〜内緒〜」

そう言ってアズリアはごまかす。


俺は眉を顰めながらも、アズリアに付いていくと、いつの間にか、坂道を登っていた。


家から少し離れた場所。

坂道の先は、ちょっとした公園。


スマホの時計を見ると、そこには6時21分の文字。


そして、公園の丘の頂上。

そこに一つのベンチがあり、ベンチのその奥には、フェンス、そして、登ってきた起眞市の風景が広がっていた。


ベンチに座れば、夕日によって赤色に輝く起眞市を一望できた。


「ん!」

アズリアは、ベンチに座り、その隣をぽんぽんと手で叩く。


俺は、そこに座ると、「アズリア…帰らなくて良いのか?」と質問する。

アズリアは黙ったままだ。


「ねぇ…あのさ、隆一くん。嫌いな人が居たらさ…どうすれば良いかな…」


「え?嫌いな人…?」

思いもよらない言葉だった。

これはある種の相談なのか?


「そうだな…俺は率直に気持ちを伝えるとかするとか…?」


何を相談されているのかわからないが、俺は答えてみる。

「嫌いになる人ってのは…多分、どこか好きじゃない部分があると思うんだ…だから、その好きじゃない部分を本人に打ち明けてみる!もしかしたら…嫌なやつとか思われるかもしれないけど…嫌いな人だったら、嫌いっていうのが一番だったりするんじゃないのかな…?」


俺には嫌いな人がいないけど…嫌いなんだったら、嫌いってはっきり言った方が、相手の成長のためにもなるだろうし…


「だから、率直に言ってあげる方が、相手のためにもなるんじゃないかな…?」


「ふーん…」


「あ、あでも!!!その人の良いところを見つけたりするのも良い手だと思うぞ!!!!」

俺は、地面の方を見つめるアズリアを見て、すぐに言葉を付け足した。


俺のせいでアズリアが他の人から嫌われるのも嫌だ…


「あれ…てか…嫌いな人って俺じゃないよな!?!?」

俺は慌てて、アズリアに質問した。


すると、アズリアは、「ぷっ!!」と吹き出して、「隆一くんじゃないよ〜安心して!」と笑顔で言ってくれた。


「むしろ私は…隆一くんのこと…好きだな〜」


「え?」

「好き」というアズリアの言葉に俺の心臓が大きく鼓動を鳴らし始めた。

体の隅から隅まで、大きく響き渡るように大きく鳴る心臓。


俺はその音を聞きながら、アズリアに聞く。

「えっと…それってLOVE?LIKE?」


さすがにlike…だよな…

何考えてんだ俺は…


心の中で自分を嘲笑しながら聞いてみた。

すると、アズリアは、赤く輝く唇を大きく動かして、

「LOVE」

と答えた。


「私さ…隆一くんのこと好き。」


え?待ってくれ?いや、確かに、この夕日…そういうシュチュエーションだけど…さ?


「だからさ…私の事…独り占めにして…?」


「ああ…もちろん…大切にする…」


俺の口は勝手に動いていた…


呼吸を深くしないと、生きていられなさそうだ。


心臓が破裂しそう。

でも、それでも、心地良いこの感覚。


これが幸せってやつなのか…?


「私の事…好き?」


「だ、大好き!!!!ずっと好きだった!!!!」


初めて…でもないかもだけど、はっきりとわかる。

自分のアズリアに対する気持ち。


そういえば、こんなに心臓が高鳴るのは、それほど久しぶりでもない…


そういえば、ずっと昔からアズリアに会うと、少しだけ、気分が良くなっていた気がする…


ふん…

これはそういう事だったのか…


「すご…頑張っちゃってるね〜」


そう言っているアズリアの顔も…めちゃくちゃ赤いぞ…


言葉にならない言葉。

言える勇気がなかった。


「そんな頑張っちゃってる隆一くんにはプレゼ〜ント!こっち向いて…」


「え?」


俺がアズリアの方向を向いた次の瞬間、アズリアは俺の顔をほっぺを両手で持って抑える。


そして、次の瞬間、唇に柔らかく、暖かい感触が広がった。

全身を痺れるような精神安定剤を注がれたように、その優しい感触は体、全体を伝って、広がる。


「ん!!!!」


急な事に驚きを感じながらも、俺はアズリアの唇をしばらくの間味わう。


そして、6時半のチャイムが街に響いたのをおきに、アズリアは俺の唇を離した。


「んぁ…はぁ……キス…しちゃったね…」

顔を赤くしながら、つぶやくアズリア…


俺は、アズリアの顔を見ながら、自分の顔が火照っている事に気がつく…


「うん……」


「じゃ!そろそろ時間だから!先帰るね!!!バイバーイ!!!」

アズリアはその言葉を言い残すと、ベンチから降りて、すぐに、公園から出る。


俺の中には、アズリアの口の感触だけが残っていた。


「あ…アズリア…送らないと!!!」

そこで、送り届けないといけない事に気づく…


そして、俺がベンチから降りようとすると、唐突に襲いかかる抱擁とした感覚。

心臓が弾けそうな幸せの残り香を噛み締めて俺は、アズリアの後を追う。


_________________________________________________


キスしちゃった!!!!!キスしちゃった!!!!!!!!!!


私は隆一くんを振り払うべく、大急ぎで、坂を下る。


自分のできなかったこと、したかったこと、言えなかったこと、全てを打ち明けた私は、恥ずかしさで死にそうになりながらも、隆一くんの唇の感触を思い出して、心臓の鼓動を無理矢理早くしてしまう。


流れでしてしまった事だけど…結果的に付き合えたし?結果オーライ…なのかな…?


「はぁ…はぁ…」


不思議と、坂を一気に下った私は、いつの間にかガッツポーズをしていた。


これからも、もっと隆一くんと!!!

そう思いつつ、私は青色になった信号を歩いて渡り始める。


やった!!!これならあの人と居なくて済むし!!

隆一くんともっと触れ合える!!!!


恋って楽しいな!!!!!!


「アズリア!!!!!!!!!!!!!!」

すると、私は大好きな人…隆一くんの声で、前を向いて、踵を返した。












でも、そこには焦った顔色をした隆一くんの姿。

「どうしたの隆一く_______」








キィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!


真横には信号無視をして突進してくる大きなトラックの姿。

気づかなかった。


幸せだったから。


嬉しかったから。


隆一くんのことで頭がいっぱいだったから。


一瞬で理解した。

これ私…死んじゃうかも。


バァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!


衝撃が体を埋め尽くし、すぐに吹っ飛ばされる。

目の前には赤い液体で染まる道路と、そして涙目になった隆一くんの姿。


痛い………

まだ…死にたく……ない………


いやだ…………


瞼が重い…

目を開けていられるのにも限界が近い…………


私は、必死に手を隆一くんへと伸ばす………


隆一くんの右手を私の手は掴み取った。


あったかい………




まだ死ねない_________

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