第18話 奏音と服コーデ

「どう?可愛い?」

更衣室からカーテンを退かして、姿を現した奏音は、少しへそ辺りを曝け出すようTシャツを着て、その上に黒い少し小さな上着。

足の長さを表すように、ジーンズのズボンを着てた、いわゆるY2kと言われる服装だ。


「可愛い…けど…なんか、ちょっと奏音がお出かけするときには、似合わないんじゃないのかな………」


実際…今少し浮かれているような気がする……


「え〜…そうかなぁ?」


「でもまあ…奏音が着れば大体可愛いと思うから…なんでも大丈夫だと思うけど?」


「じゃあ、また違う服選んでこよ!!」


奏音がそう言いながら、更衣室のカーテンを閉じた。


なんか違うんだよなー…………




俺たちはイオンから外に出て、他のショッピングモールへと向かう。


「って!!!あれ!!!クレープあるよ!!!!」


「え?食べたいの?まあ…良いけど。」


「やったー!!!」


そういうと、道端に作られていた、キッチンカーに駆け寄った。

俺はすぐ側にあるベンチでスマホを弄りながら待つ。


うーん…奏音に合う服装か…難しいな………

奏音って何系だ?清楚?


とりあえず、『女子高校生 ファッション』と調べてみる。


うーむ…


学生服やらジャージなどが基本的に多い…

俺は思ふおもう。これを着てお出かけというのはどうなのだろうか…


とりあえず今度は『清楚系ファッション』と調べてみた。

すると、モコモコの生地で作られた服などが出てきた。


おお!!なんか、今時の女子っぽい服装だ!!!!

こういう感じだろ!!!!


俺は奏音がそんな清楚系の服を着る姿を想像する。

うん!!多分似合ってるでしょう!!!!


とここで、俺がそんなことを考えていると、奏音がクレープ屋から戻ってきた。

その手には二つのクレープを持っており、二つとも、まるで扇のように広く、そして美味しそうだった。


「はい!これ!」


そう言いながら、奏音はその手に持っていた内の一つを差し出してきた。

「え?」


「これあげる!二人で食べた方が美味しいしね!」

そう言いながら、差し出すクレープを俺は両手で受け取った。


「え?あ、ありがとう…え?いくらだった?」

俺がお金のことを聞く前には、もうすでに何も気にしない様子で、クレープにかぶりついていた奏音。


「え?あ、いや大丈夫だよ!!私が勝手に買ってきたんだしね!」


「え、いやでも…悪いなそんなの…」


「え?うーん…じゃあ、これから服選びに行くしさ!そのお手伝いの報酬ね!」


そう言いながら、奏音はクレープにまた一口、齧り付く。

頬にはクレープが付いていた。


「まあ…そういうことなら…いいか…」


そして俺も右手に持ったクレープに齧り付く。

口の中でクリームが優しく広がって、舌触りが最高だ。


クレープの中にはマンゴーが入っており、マンゴーは俺の大好物なので、さらに美味しく感じた。


「いつもマンゴージュースばっかり頼んでるからね!霧矢くんの好みくらい知ってるよ〜!」

と得意げに奏音は言った。




クレープを食べ終わると、俺と奏音は、再び歩き始める。

次に向かう場所は、とりあえず、起眞シティモールだろうな。


そこには最新のファッションなどを取り揃えている大型の服屋だ。


メンズもレディースも売ってるし、そこに行けば、合う服がきっと見つかるはず。


起眞シティモールの中に入ると、まず1階にはレディースの店が広がっていた。


「うぉー!!!!すごいよ!!!すごい!!!早く行こ!!!霧矢くん!!!!」


「ちょちょちょ!!!」

俺は目をキラキラに輝かせる奏音に手を引っ張られる。



「それじゃあ、こっちはどう?」


「うーん…可愛い…けど…やっぱりDJみたいだな…良いとは思うんだけどな…」

今回も奏音はY2kのコーデを選び、俺に見せてくれる。


「うーん…じゃあ、どういうのが良いかな…」

黒い帽子を被って奏音はあごに手を添えて悩む。


「あ!そうだ!!!それじゃあさ!霧矢くんが私をコーディネートしてみてよ!!!」


「え?俺?」


奏音がこくりと頷く。






「ま…マジか…」


目の前には、カバンを両手に握って白いTシャツを下に、ふわふわとしたカーディガンを着込み、少し短めのスカートを履き、白い足を出す奏音の姿。


「ど、どう…かな?」


実際…自分でもこんなに上手く行くとは思わなかった…


「ひ、控え目に言って、めっちゃ似合ってる!!!!その、すごい!!雑誌の表紙に飾れるくらいのレベルで似合ってる!!!!」


白い肌とそれに合うように成されたカーディガン。

羊のようにふわふわなカーディガンは、奏音から落ち着いた雰囲気を醸し出す。

「え?そう?ありがと〜!!!!」


自分でもやっぱり奏音は清楚系だよな!と再確認した。


「じゃあ、この服装で行くことにしようかな!可愛いし!!」

そういうと、奏音は、更衣室の鏡の前で、一回転しなら言った。


「あ、ああ。いいなそれ。」

なんでこうも固まると変なことしか言えなくなるんだ…


でも…これだけは思った。

絵になると。


そう思うと、俺はいつの間にか、スマホを取り出していた。


「えぇ〜?今撮るの?タグとかいっぱい付いてるよ…?」


「ああ…まあ、わかってるさ…」

そう奏音に返しながら、俺は、スマホのシャッターを押した。


パシャリ。

俺はカメラに向かって、短いスカートを少し摘む、まるでお嬢様のような奏音の姿を眺める。


奏音はとてもにこやかに笑っていて、この一枚からは幸福が読み取れるくらいだ。


「どうどう?良い感じに撮れた?」


「ああ!雑誌に載っけたいくらいだ!!」


俺はそう言いながら、画面の中の奏音を眺める。


「ほんとだ…すごく…良いね…」


「ん?どうした?」

少し暗めに言う奏音…


あれ…まさか引かれた?


「あ…ご、ごめん…この写真…嫌だったら消すよ?」


「あ!!いや、良いの!!!消さないで!!!!絶対に…!!」

俺の手元を抑える奏音。


「あ…そう…か…」


なんだろう…写真の中にいた奏音は幸福だったのに…今の奏音は…まるで…苦しみ…のようだ……


「その…ありがとう!!良い写真撮ってくれて!!ありがとね…」


「え…ど、どういたしまして……」








帰りの電車。

人は少ないし、座席はスカスカだ。

それでも、奏音は隣に座っている。


「そういえば…今日アズリアいなかったけど、どうかしたのか?」


「えっとね。アズりんはもう誕プレ買ってたみたいだったし、今日は他に予定があるから!って言って、今日は来なかったの!」


「そういうことか…」

なぜか…写真を見せてから、奏音の様子がおかしい…


まるで、幸せを取り繕うようだ。


「そのさ…大丈夫か?」


「え?」


予想外の言葉に迷う奏音。


「その…あの、写真を見せてから…しばらく変…と言うかさ、なんか、少し楽しそうじゃなかったなと思って…」


「そ、そんな!楽しくわけないじゃん!今日は一日中とっても楽しかったよ!!」


「そんなはずないよ…今だって少し笑顔を作っているみたいじゃんか…」


「べ…別に…これは心から出てる笑顔だよ…」


苦笑いで応える…

やっぱり、何かおかしい…


本当に作り笑顔のようだ。


「何か、辛いこととか…苦しいことでも…あったのか…?」

写真を見て何か思い出したのか…


わからない…けど…

もしかしたら、フラッシュバック急性ストレス障害のようなものかもしれない…


「大丈夫だよ…もう…」


「大丈夫ってことは…過去に何かあったのか…?」


「まあ…ちょっとね…でも…本当に大丈夫だから…もう…大丈夫だから…」


額に汗を溜めて、呟く奏音。

さっきまでは幸せそうだったのに…

そんな言葉が頭に浮かぶ。


「そ…そうか…でも、無理はするなよ?その…一応俺も相談とか全然大丈夫だからさ…」


「う…うん…ありがとう…」


こんな苦しそうな奏音を見たことなかった…

何が過去にあったのかは、不用意には聞けない…


どうすればいいのか…


帰りの電車では、俺はそんな疑問にずっと囚われていた…

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