第16話 ゾンビの世界でもドキドキタイ〜ム!

やあ…みなさんこんにちは…

どうも…隆一です…


僕は今、銭湯に来ていて、これから風呂に入ります…彼女でもない…女子と一緒に…


スルリ………背中では、服が肌を擦れている音がする…

そして、両手には金属バット…


真後ろでは友達の女子…アズリアが今、裸になっている…

「今…裸になったよ…」


その含みを入れたアズリアの言葉の言い方に心臓の鼓動が早くなる…

「了解…」


俺がそう言うと、アズリアが「じゃあ…後ろ向いてるね…」と言った。


なんでこんなことになったのか…それは少し前に遡る…





「ん…あれ?なんで寝てるんだ…俺…」

目を擦ってベットから飛び上がる俺。


なぜかデジタル時計の示す時間は17時35分。

外を見ると、夕日が自室の窓に差し込んでいた。


「ふわぁ〜さてと、今日の晩御飯はなんだろうな…!」

俺があくびをしながら階段を下る。


そしてリビングにたどり着いたが、そこには誰の影もなかった。

「ん?あれ…今日お母さんって遅い日だったっけ?」

妹も居ないし…


家には俺しか居ないようだ…

すると、テーブルの上に乗せられている一つの物が俺の視界に飛び込んだ。


「これ…グロック17?」


グロック17。

それは少し前にユミー先輩が自慢気に説明していた銃の名前だ。


確か、オーストリア原産の銃…だったとかだった気がする…


多分これはそのエアガンか何かのだろう。


妹は妙にそういう男の子っぽいものに興味があるし…


俺はそれを掴み取り、構えてみる。

やはり、四角いボディには妙に目を引き寄せられる魅力がある。


「重さは…辞書よりちょっと軽いくらいかな…?」

少し前に持ってみた国語辞典より少し軽いくらい。


それくらいの重さのこの拳銃。

ちょっと試し打ちしてみようかな…


俺はそう思って、外に出る。

すると、そこには、肉が緑色に変わった人型の化け物のような奴の姿。


「う、うわあああ!!!!」


まさに、それはゾンビと言って良いほど、映画に出てきそうな見た目。

俺は、反射的に、持っていたグロック17の引き金を引いてしまった。

次に俺の腕に強い衝撃が走った。


そして、ゾンビに向かって放たれた弾はゾンビの頭を貫き、ゾンビと思わしきものは床に倒れた。


そして、飛び散る緑色の血。


この一瞬の間にわかったことが二つ。


俺は今、ゾンビを殺した…と言うこと…

そして、この持っていた銃…

これはエアガンではなく、本物であること…


「な…なんだこれ…夢か…?」


俺は頬をつねってみるが、いつも通り、痛みは感じる…

夢ではない…多分…


俺は、次に、ゾンビを見てみるが、ゾンビからは緑色のペンキのようなドロドロとした血が流れ出した…


妙にグロいな…


俺は靴で皮膚を触ってみるが、ちゃんと皮膚の感触はするし…何よりも、グチュグチュと音を立てている…


気色悪い感触が足を駆け巡る。


コスプレでもなさそうだし…まさか…ゾンビウイルスが広がったのか…?


遠くの通りにも同じような影を確認できた…

俺は直ぐに、家に閉じこもり、鍵を閉めた。


「え…ま…まじか…」


俺は、一度、リビングに戻り、冷蔵庫の中に何か食料が無いか…それだけ確認するが、ほぼゼロ。


調味料だけが哀れにも残っていたが、それ以外の食料…それどころか材料までもが無い…


「えぐぅ…」


俺は一度騒いだ心を落ち着かせようと、自室に戻ろうしたが、ふと、隣の妹の部屋に目が止まった…


まさか…無い…よな?


俺は唾を飲み込み、妹の部屋の扉を開けた…

扉の先は、漫画のフィギアや、クリアケースに入れられたプラモデルなどが並んでいた。


そして、妹の勉強机。

その上に、銃のマガジンが二つ転がっていた。


ま、マジか…


俺はそっとその二つのマガジンを取ると、グロックのマガジンと交換できるか試してみる。

形的に拳銃であることは確かなどだが…果たしてどうだか…


カチッ!


すっぽりとマガジンがグロック17に入った。

なるほどな…


俺は、そのマガジンを服のポッケへと入れると、昔使っていた金属バットを持ち出して外へと出る。


まずは学校へ行く…

もしかしたら友達とか…居るかもしれない…

そう思ったから。


俺は走りながら、なぜかアズリアの顔が脳内に浮き上がる。

「無事で居てくれ!!!!!」


そう思いながら、学校に行き、そして、誰も居なかったので森崎喫茶に行った。

そしたら、アズリアが居て…

色々あって今はこうだ。


俺は着ていた服を全て脱ぎ去ると、銭湯に備え付けてある洗濯機に入れた。

そして洗濯機を起動させる。


どうやら電気類やガス類、そして水などはまだ正常運転しているみたいだ。

「隆一くん…それじゃあ…入ろ…?」


俺は背中越しで「ああ…」と答えた。


「ふぅ…ふぅ…」


温泉の霧が銭湯の中を舞っていて、少しだけ先が見えなかったのは運が良かった…

「隆一くん…体とか…洗わないの…?」

俺が、ぼーっと風呂場の真ん中に立っていると、急にアズリアが声を掛けてきた…


「いや、自分で、洗うよ…」


俺は、アズリアの方から反対に向き、そして、石鹸を取った。


すると、背中に小さな手が触れる感触が体に広がった。


「うわ!!!!あ…アズリア!?」


「背中…洗ってあげる…」


まずい…逃げられない!!!!


いや…逃げちゃダメだ!!!アズリアを守るために…!!!


「あ…ありがと…」


「じっとしててね…」


「あ…前は大丈夫だからな…?前は自分で洗えるから…」


前は流石にやめておいて欲しい…

流石に。


「わ…わかった……」


背中をさする小さな手…

生暖かい、生きているという感じの感触。


時々くすぐったくて、身震いしてしまう…


まずい…破壊力がアズリアの手の破壊力がエグい……


どうにかしてアズリアの手を離させなければ体が保ちそうに無い…

どうすれば…あ!!!


「そ…そうだ…アズリアの背中も洗ってあげようか…?」


「え…?」


あ、まずい…

女子の背中を流したい…ってただの変態じゃないか…!!!!


こ、これは俺のイメージダウンの可能性が…!!!


「良いの…?あ、ありがとう……」


ま…マジか…


「それじゃあ…よろしく……」


そういうと、アズリアは俺の背中を指でチョンチョンと突く。

「大丈夫だよ…」


「わ…わかった…後ろ…向くぞ?」


俺は踵を返して、アズリアの方向を向いた。

もう、後には戻れない…


大丈夫…正面は見えてない………

だから…大丈夫…


俺はバスタオルを腰に掛けて、大事な部分が見えないように隠した。

それに比べて、アズリアは全くの無防備。


横に置かれているバスタオルがどうしても気になったが、俺は、石鹸を手につけて、アズリアの小さな背中を白い泡で包むべく、洗おうと手を伸ばした。


石鹸を纏った手がアズリアの背中に付着すると俺は、手を動かして摩擦で汚れを落とす。

「ん……っくすぐったい……でも…ありがとう……」


「ど、どういたしまして…」


くそ…理性が吹っ飛びそうだ…


このギリギリの感じの所為で、心臓がどうにかしちゃいそうだ…

早く終わらせなければ…!!!!


俺は焦ってしまい、少しスピードを早くして手を擦る速度を上げる。


「ん……隆一くん…その…ちょっと早いかも…ん…」

アズリアが自身の腰あたりで俺の両手を抑えつけて俺の手を止めた。


「あ、すまん!!!」

俺は慌てて手を離そうとした。


そして、逆にそれがよく無かったようで、俺の手は暴走し、アズリアの………小さな…その…………胸に当たってしまう……………………

「あ…りゅ…隆一…くん……」


顔の真っ赤になった俺は慌てて、手を離し、距離を取った…


「す、すみませんでした!!!!!!!!!!!!!!」


銭湯の中に俺の、焦りと羞恥の混じった声が響いた。





「俺は最低な奴だ…………」


全裸で銭湯の隅っこで丸くなる俺。


「りゅ、隆一くん…」


「ごめん!!!俺はアズリアと生きる価値なんか無いのかもしれない………」


俺は最低な奴だ…

アズリアの背中をベタベタと触って…そして挙句果てにはアズリアを背後から襲ってしまうような最低な奴………


俺は果たして俺にはアズリアを守る資格があるのだろうか…


「そ、そんなことないよ!!!!」


「え?でも…俺は…」


「じゃ、じゃあさ…隆一くん…その私のお願いごと…聞いてもらえる?」


「ね、お願い事?」

体育座りで蹲っていた俺が顔を上げる。

アズリアの周りは温泉の水蒸気の所為でアズリアの顔が見えない…


「そう!お願い事!!!」


「お願い事…ってのは?こんな俺ができることなんて少ないけど…」


アズリアは一度、静かに深呼吸をした。

静かって言っても、もちろん俺には聴こえている物ではあったけど…


「い、一緒にお風呂入らない?」


「お風呂?もう入ってるじゃ…」


「湯船に浸かろうよ…?その…ここに…さ?」


「え…それって…」


すると、アズリアの入っていた浴槽近くにいた俺は、無理矢理アズリアに腕を掴まれ、浴槽の中へと引き込まれた…


「ちょ…アズリア!?」


俺は暖かい湯船の中に無理矢理引き込まれると、アズリアが逃がさない!と言わんばかりに俺の腕を両手で抱きしめてくる…


「ちょ…まずいって!!!!」


その不味いという意味には色々な意味が含まれている…


まずは自分の体が持ちそうにないこと。

次に、俺とアズリアが一緒の風呂の中にいるということ。


そして最後。それはアズリアの胸が腕に当たっていて…脳がオーバーヒートしそうなこと…


「私…隆一くんになら…何されても大丈夫だから………」


「え?」


聞き間違い???

そんなことない…だってこんなことされたら、どんな女子でも、流石に…


「今…胸当たってるでしょ…?」


「あ…!!!!ごめっ…」


「当ててるんだよ…?」


次の瞬間、脳が限界を迎え、鼻血が止まらなくなる…

ちょ…まじでヤバいって!!!!!


アズリアは今、恥ずかしいかったのか、耳を赤くして目を瞑っている。

あ、これ気付いてない…!!!!


でも…無理矢理、引き剥がしたら絶対に嫌われる!!!!!

こんなムードで手を引き剥がすバカがどこにいるんだよ!!!!!!!


ああ!!!!クソ!!!!!!

アズリアといい感じになれたのに!!!!!!


ここで……おさらば…か……………


「って!?りゅ、隆一くん!?!?だい……じょ………ぶ……………」






「ってはああああ!!!!!!!!」

目を開けた先…そこはフラスコの大量に並ぶ部屋。


見覚えがある…


壁に取り付けられていた札を見ると、そこには理科準備室と書かれていた…


っていうか…鼻血えぐ…


と、ここで気づく、俺がベットの上で眠っていたということに…

それも、ヘルメットのようなものを被って…


ヘルメットのようなものは、頂点に管が取り付けられていて、その管が、変な装置につながっている…


そして変な装置にはもう一つの管がついており、その管の先には変なヘルメットをつけているアズリアの眠っている姿が…


理科準備室…変な装置………


これ…まさか………


「お、起きたのかね…」


「は?」


俺は理科準備室に入ってくる一人の女子に目が行った。

熊田芽依…いや、メガネをしている…ということは発明家のエム…


「エム…これは?」


俺はその謎の機械の方に視線を配って質問した。


「ああ。これは仮想世界を作り出す装置でね。君とアズリアがちょうど放課後に理科準備室前を通っていたもんだから拉致ってこの、ちょうど開発を進めていたVRMMOの開発の依頼が来ていてね。」


淡々とした口調で喋る熊田芽依の第二人格のエム。


「簡単に拉致って…どういうことだよ!!!!」


「だから…ちょうど良い実験体を探していたら君たちが通っていた。最初の数10分はリアルのように信じていたし、どうやら開発は成功したらしな。それより君、その鼻血どうしたんだい?」


「え?これは…」


アズリアに興奮した…とは絶対に口が裂けても言えない…


「そ、そんなことよりも!!!!!早くアズリアを起こしてくれ!!!!!」


「え?あ、そうだね…」


さすがに…この様子だと俺らの銭湯の出来事を把握していないようだが…


「これは…どうやって仮想空間の俺らを観察するんだ…?」

念のため、恐る恐る聞く…


「ん?これはこの観察用のヘルメットをかぶることによって観察できるようになるんだ。やってみるかい?」


「え?ああ…そうだな…」


俺はエムから変な形のヘルメットを受け取ると、それを被る…


そして、次の瞬間、映ったのは、俺の脱力し、ほぼ死骸の俺の体と

アズリアの全て……………


と、ここで俺は何も見なかったことにするべく、ヘルメットを直ぐに外した。


「もう良いのかい?」


「ああ…それよりもアズリアがゾンビに怖がってる…早く解放してあげてくれないか?(紳士)」


「え?ああ…うん…」





「んん…りゅ…隆一くん………ってここは?」


俺がアズリアの上半身を持ち上げながらアズリアは目を開ける。


「おかえり…アズリア。」


「君は今までフルダイブのVRゲームをしてたんだよ。今ちょうど強制中止した。」


「そう…なの?って!!!隆一くん!!!!!!」

そういうと、アズリアが俺を抱きしめるように手を首後ろに回した…


そうか…ゲームの中では俺は死んでたのか…


「よかった…!!!!よかったよぉ!!!!!!!!本当の気持ち…言えずに死んじゃうなんてやだよぉぉぉぉ!!!!!!!」


「ああ…大丈夫…俺はここに居るから…………」


泣き喚くアズリア…それを優しく抱きしめる俺…そしてそれを気まずそうに見守るエム……………


「その…君たちはカップルにでもなったのかな?」


「カップル…?」

その途端、俺たちは直ぐに抱き合っていたのを辞めた……


そして、両者ともに、先ほどまでやっていた事を改めて振り返ってしまい…またさらに顔を赤くする……


(アズリアと生きる価値が無いって何!?)


(当ててるんだよって何ぃぃぃぃぃ!?)


なぜか俺は恥ずかしさと、そしてちょっとだけの幸せを感じながら、鼻血を再び垂らしてしまう………









「え?マジで君たちなんなの?これ見る為に君たちを実験体に選んだわけじゃないんだけど…?」

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