第10話 夏だ!!!海だ!!!水着だぁぁぁぁ!!!!!
「うぁ〜っつい…暑くて干からびそ〜動いてないのに暑いよ〜」
森崎喫茶のカウンターにへばり付き、某おじさんのセリフを連呼する隆一。
俺はそんな隆一を横目に、久しぶりにすっからかんの森崎喫茶を眺める。
「今日は誰もこねーなぁ〜」
「夏休みだったら、誰か来るって、私は思ってたんだけどな〜」
そう。ついに俺らはなんと夏休みに突入したのだ。
なので、7日間のうち、5日バイトという学校と大差ない生活をしていた。
森崎さんは、席の椅子に腰を下ろし、テレビを眺める。
テレビが今日は猛暑日ということを告げた。
「起眞市の温度、今36度だって。」
「ちょうど、熱中症特別警戒アラートを発令してるみたいですね…」
「特別!?そんなもんあるのか!?なんか、プレミアム感あって良いな!!!」
もう、ツッコめる体力の無い俺は、「あ〜そうだな…」と適当に横に流す。
「今日は誰も来ないし…みんなでどっか行く?」
と、森崎さん。
「え!?どこかって!!どこですか!?」
毎度の如く、奏音は、子供のように目を輝かせて聞く。
「そうだな…海とか、どう?」
「「海…?」」
真夏の太陽が、日本人に向かってスポットライトを当てる!
白い水が砂浜に攻めては、引いてを繰り返す!
そして、そこにガヤガヤと湧く、子供や大人の数々!!!!
「スゥー…!うm…」
「海だーーーー!!!!!!!!!!」
「うるさ!!!!!!!」
俺が海だー!!!と叫ぼうとすると、横にいた隆一が、俺が想定した100倍近くの
声を放つ。
「暑いよ〜…奏音ちゃん…どうにかして〜」
「私に言っても、ドラえもんじゃ無いんだからどうにもできないよ?」
「スイカも用意したし!木刀も持ってきた!それにテントも持ってきたし!う
ん!みんな!これでスイカ割りの準備はできたよ!!!」
サングラスをかけ、口元をニヤリと曲がらせ、左手には丸いスイカ。右手には木刀を握ったおじさん…森崎さんが何故か一番、はしゃいでいるように見える。
〔起眞市、南区、起眞砂丘〕
「それじゃあ、まずは何する?」
隆一が、海を見ると、その後、アズリアが、少し不満そうな顔で隆一のことを睨んだ。
「その前に何か…いうことがあるんじゃ無いかな〜?」
隆一は、小声で、「そうか…?」と言いかけると、何かに気づいたようで、視点を
少しずらす。
「あ…水着…似合ってるな…」
隆一が、小さく言うと、アズリアが少し微笑んで、「ありがと〜」と言った。
「霧矢君も!私のどう思う?」
「え?お、俺に聞くんだ?」
ついてっきり、隆一だけに聞いて終わりなのかと思っていたら、奏音が顔色ひと
つ変えず、聞いてきた。
「え…ま、まぁ…良いんじゃないか?」
と、俺は曖昧な反応を見せる。
「ええ〜ここは似合ってるよ!とかでしょ〜」
少し、笑いながら、奏音は言った。
でも、実際本当は、今すぐに、奏音の水着姿を写真に収めたいところだ。
はたから見れば、それはとんでもない変態行為になることはわかるのだが…
それでも、奏音の水着姿と海の組み合わせは、パズルの最後のピースが綺麗にハ
マるように、まさにベストと言える組み合わせに近いのだ。
白くひらひらの布が付いた水着は、とても可憐で、奏音には、もってこいの水
着。
彼女を白い砂浜の上に立たせて、背景をぼかしながら、奏音を撮る。
これはきっと、良い絵になるぞ…!!
と俺が、写真の構想を考えていると、
「とりあえず、泳ぐか!!!」
と言いながら、隆一は、真っ先に目の前の海に飛び込んで行った。
ああ!!ここは大事なムーブなのに!!!!
あっという間に、大勢の人がガヤガヤと密集する海に飛び込んでしまうと、とて
もじゃないが、きっと逸れてしまいそうだ。
それが隆一なら尚更。
「おい待て!!!!」
俺は直ぐに隆一の後を背中を追うように、走る。
「あ、じゃあ、私たちも日焼け止め塗ったら、すぐ行くからね〜!!」
と、後ろから奏音の声がした。
俺は「オッケー!」と返すと、すぐに、隆一の方へと向き直す。
「もっと右!!!右!!!!そこだ!!!!やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ霧矢ァァァぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
バゴン!!!!!!
目隠しを外し、俺の突いた木刀の位置を見える。
俺の今居る場所から数m離れた所にスイカがあった。
「なんでそうなるんだよ!!!!」
スイカ割り。
それは、一人が目隠しをして、他の人の指示通りに動き、スイカを割るという単純な遊びだ。
何故か、このスイカ割りだけは、食べ物をおもちゃにしない!と言う注意を受けることがなく、できると言う謎のシステム。
俺は、次の人、もとい、隆一に木刀を授けた。
「後は頼んだぞ…」
「おう!!!!任せろ!!!!」
そう言って隆一は、木刀の柄を握ると、おでこに掛けていた目隠しを下す。
「右だよ〜もっと右〜」
「隆一君!!!左だよ!!!ああ!!違う!!もっと左だよ!!!」
青く輝くビーチ。
隆一は森崎さんとアズリアの両方の声が混じり、とても焦っているように見える。
「ねぇ、霧矢君はさ、夏休みの課題のテーマ、決まった?」
俺が、隆一に木刀を託した後、テントの影に腰を下ろすと、先客だった奏音が、俺に語りかける。
「え?部活の絵のテーマか?俺は…まだかな…」
「私も…まだなんだよねー…テーマ決まったら参考にしようと思ってたんだけど…」
「……こうやって、はしゃいでる姿を描いてみたりとか?テーマは…夏の思い出とかさ。」
奏音は俺の方を向いて笑うと、人差し指を立てて言った。
「うーん…ありかもね!」
「それならよかった。俺はどうしようかなー…なんか良いアイデアとか持ってないか?」
「え?アイデア?うーん…そうだなぁ…」
「あ!じゃあ、なんかテーマとして美しい物とか描きたいな」
「美しいもの…」
すると奏音は少し考えた後に、ある言葉を口にした。
「愛…とか?」
「え?」
意外だった。
いや、V先輩とかユミー先輩でカップルとか、デートとか言ってる時点でそれってほど意外ではないかもだけれど、それでも、何故か奏音から「愛」というとかでるとは思わず、俺は少しフリーズした。
「あ…え、えっと…それってどういうこと?」
「私さ、思うんだよね。愛って、この世で一番美しくてさ、一番、歪んでる物だと思うの。」
奏音は、隆一やアズリアや森崎さんではなく、何故か遠くの方を見た。
それも、少し斜め上の方向。
何故かそこには、笑っている奏音の姿があるはずなのに、瞳だけが、感傷の色に染まっているように見えた。
言葉が詰まる。
この悲しみの雰囲気は、なんでだろう…
俺にとっても息苦しくなるな…
「ちなみに、なんでか聞いても良い?」
「………好き同士だったらさ、それは鮮やかな幸せを彩ると思うの。でも、違ったらさ、不幸せになっちゃうでしょ?だから、幸せな日々か…不幸せな日々か…どっちかに転げ落ちちゃうと思うんだ。愛ってのはね…」
告白して…成功すれば、幸せの日々。
告白して…失敗すれば、不幸の日々。
地獄に落ちるか天国に落ちるか
俺が中学の卒業式に染み染みと味わった事だ。
「うん…良い…かもな…」
俺は言葉を細々としながら、言った。
「ありがと。」
なぜか、奏音は礼を言った。
俺が言う側なはずなんだけど…
「あ、スイカ割れてる!!!」
「お、ほんとだ」
家に帰ったら描こうかな…
「あ〜疲れた…」
揺れる帰りの車の中、俺は今日の思い出語りをしていた…
今日撮った写真を見ながら。
「やっぱ奏音は絵になるな〜」
「えー?そうかなぁ?」
隆一は外を見て、赤く染まった海を眺めた。
「そういえば、俺が一番最近に海に行ったのって、アズリアと行った時ぐらいかな〜」
「え?お前、アズリアと最近にいつ行ったの?」
「まあ…10数年前かな〜…大体俺が小学生くらいの時。」
「小学生!?お前らってそんな長い付き合いだったの?」
「あれ?言ってなかったけ?」
「私と隆一くん。同じ塾に通ってるんだ〜」
「え?そうなん?」
「あれ?言ってなかったけ?」
「え?まじで?」
そ、そうだったんか…と地味に初めての情報に、驚くばかりの俺だった。
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