振り子

@psyleaf_

キンキンくるくる

振り子があった。糸で繋がれた鉄の球は重力により地へと引っ張られ、その存在を固定されている。自由に動き回ることも出来ず、地面に落ちて転がることも許されていない。また、神のような力で球が持ち上げられて弄ぶように放されれば、キン キン キンと音を立て、球と球が延々にぶつかり合う天命を授けられる。天命を授けられた球は何度も何度も同じように、何度も何度も繰り返すように、たったそれしか出来ないというように、互いを弾き続けた。


 私は、振り子の鉄球だ。精神が肉体という紐に縛られて、授けられた天命によって同じことを繰り返している。己には力も意思もない。天命を行動理念として同じ罪を繰り返してきたのだ。何度も何度も傷つけられて、何度も何度も傷つけてきた。他に私に出来ることなど、何も無かった。


 重力がなければどうだろうか。重力さえ無ければ地面へと引っ張られることもない。引っ張られることがなければ、ぶつかり続ける必然もない。傷つけることも、傷つけられることも無いハズだ。そうだ、私はきっと、無重力を生きていくべきなんだ。


 無重力の世界に振り子があった。糸で繋がれた鉄の球が神に指で突かれ、少し動いたと思えば延々と円回転を始めた。方向を変えることも出来ずに円を描いてぐるぐると、同じ道を何度も何度も、たったそこしか歩けないというように、独りで廻り続けた。


 私は振り子の鉄球だ。痛みを避けて、変化を避けて、自己の平穏を保ってきた。不変な価値観を作って、同じ景色に同じ想いを抱き続けるようにしてきた。最初は寂しかった。遠い過去の、本当の意味での時間の共有が出来ていた時を思い出しては自己嫌悪に陥っている。しかし、孤独だっていつかは慣れてしまう。私は慣れることが出来た。出来ていた、つもりだった。


 この世はなんなんだ、地獄なのか。神に与えられた運命を天命なんて仰々しい言い方をしたが、その実は呪いなのではないか。重力があれば傷ついて痛い。傷が嫌で無重力になると虚無で寂しい。それならどうしたらいい?紐を切れば良い?いいや、それは嫌だ。それで良いのならばこんなに悩んだりすることも無い。


 結局この世は地獄だ。生きるということは耐えるということなのだろう。精神の紐、肉体の鉄球、どちらもいつかは朽ちて消える。どちらが先であろうと同時にもう片方も崩れ、果てを迎える。脆い私はどれほど時間を耐えられるのだろうか。まあ、とにかく、できるだけ長く生きるために、好きな地獄を選び続ける。私に許可されているのはそれだけなのだから。

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