お金

山岸タツキ

一話完結「お金」

 俺は何故、金に追われる。簡単な問いだ。まともな仕事をしていないからだ。ただ、その答え以外にも要因はある。例えば、定期的に起こるトラブル。今目の前にあるのは。覚えのない利用履歴が八件。合計で一〇九三七円。クレジットの不正利用だ。利用国はルクセンブルクとなっている。乾きかけていたコンタクトが文字を読むことを憚る。今から多くの文字を読まなくてはいけなくなるだろう。


 しばらくの対処の末、何とか目処はたった。手元にカードがある場合の不正利用は大抵の場合補填されると、知恵袋で書いてあった。信憑性の薄い言葉に若干の安心を得つつ、どうしても残る不安を誤魔化し続ける。今日は思いがけなく疲れた。一気にストレスを受けたのだから、当然だ。まあよくよく考えてみれば、失っても一万程度。…いや大金だ。俺は一体いつまで、このレベルの生活で生きていくのだろう。毎月配達代行で稼いだ金は、クレカ、家賃、社会保険に消える。生活を安定させる為に配達代行を増やすという選択をしているようでは、一生この沼からは抜け出せないだろう。抜け出すためには、退職代行なんかしなくても食っていけるぐらいモノを作って売るしか無い。金があればしたい事なら山程あるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お金 山岸タツキ @_zxcvbnmTK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る