「虫の庭」~(『夢時代』より)

天川裕司

「虫の庭」~(『夢時代』より)

「虫の庭」


 私は若年に戻り昔よく通った三階建ての教会の様な場所に居た。夢ながらに場面は二転三転する。大体の舞台は夜だったように記憶する。私は眠る前、TV で「ルパン三世 Second TV『サンフランシスコ大追跡』~『ブラックパンサー』」、又、ネット(携帯での)で「(大阪の)三菱銀行人質事件」の詳細、を見てから眠った。電気を消して「(大阪の)三菱銀行人質事件」の項目「詳細・一月二十八日」という箇所までを見て、自然と、急に、睡魔が襲って来て、知らず内に眠って居た。

 私はその教会の三階に駆け上った。すると目前には大きい様だが少し場所を変えて眺めるとちゃちく小さくも見える水槽が床に置かれて在り、中にはサソリやムカデ、毒蛇等、猛毒を持った類の害虫がびっしり入って居り、その虫達の内に、まるで人間の様に私の気持ちが読めるのか、私の嫌な予感を的中させながら内の毒虫を水槽の外へ飛ばして来る狡猾な奴が居た。確かサソリだった様に思うが、どうもその「飛ばし方」はカブトムシが己の角を相手の腹下に入れ、仰け反って思い切りポーンと飛ばすあれに似て居り、サソリとカブトムシとのあいのこかと思われたが、よくよく見ると確かにサソリだった様に記憶する。そいつは沢山群れが集まった中で一つ小高い土と砂が盛り上がった丘の様な所に腰を据え、実に生き生きとし、まるで私の動向を探って居るかの様だった。その水槽は唯入口近くに在った為、出ようとすれば接近を感じた虫達の行動が恐ろしく、私はこの部屋から逃げる事を躊躇する。階下の仲間が私を助けに来る頃には、その水槽は入口から離れて部屋の中央の辺りに移動していた。

 空間は電気が灯ったり暗闇に成ったりして、昼と夜とを繰り返している様だった。それが瞬時にやって来る。その中、私は水槽を中央にして何を敵として居るか、恐らくその水槽の内の毒虫を敵として居て、どうにかして水槽の中の殆ど無数の毒虫を一網打尽にする様に退治(駆除)出来ないものかと算段していた様子だった。私の応援は来る様で未だ来なかった。その水槽の周りには、いつでも人が寝そべっても良い様にと、一面布団が敷かれてある。どの部屋からでも大抵見える水槽を中央にして、部屋は三面一続きに成って居た様子で、その三部屋を私は戦い(闘い)ながら逃げながら、行ったり来たりと往復していた。私には少々、色々な武器が在った。散弾銃の様な物や、単発のピストル、バズーカの様にでかいマシンガンや、細い槍をモチーフにした竹まで在り、専ら散弾銃に私は頼って居たが、相手が近くて確実に仕留められる、と悟った場合に限り、より確実に仕留められるとその時思えた単発ピストルと竹槍に頼った。しかし、危ないので、大体遠くから水槽の中の様子を窺い窺いして近寄らず、距離が微妙に空いて居た為、竹槍等を使ったのは一~二度である。

 その丘に居た少々威張った奴が又少し大型のサソリの様なものを昆虫の行動に隠れて私の近くに飛ばして来た。飛ばしたその距離は結構なもので狙いもなかなかいい。私はあわよくば危なかった。〝やっぱりあいつは私の言動を聞き、見て居る、あいつには人間が解って居る〟等と虫相手に、毒を持って居て自分に危険な為か本気で想像し、「オイオイ、サソリは投げて貰っちゃあ困るなァ、」等と、独りボソボソ余裕の振りして呟きながらもとにかく、目前に投げ落とされた虫の駆除に先ず躍起に成った。落ちた正確な場所を確認する為、私が居た部屋からその又奥に在る部屋まで行き、布団の上に仰向けになって節足の足をワラワラとジタバタさせているサソリを見付けた。そこで改めてサソリだと確認出来た。私は持って居た竹槍をそいつの丁度胸部の中央に突き立ててぐりぐりぐりと力を込めて崩す様に押し通し、その行為、努力、を何度も何度もした後で、その布団に放られた私へのサソリは仰向けになったまま終ぞ起き上がる事もなく絶命した。しかし又、いつあの狡猾が同様に私を狙って来るか知れないと身構えた矢先、又やはりその狡猾は次の〝私を悩ます算段〟をして居り、色々と、着々と周りの虫を使って準備を進めて居た様だった。私は早く〝応援〟が来ないか、とこの頃から段々本気になって心配し始めた。何か階下で、私の仲間らしい人間達がバタバタやっている雰囲気が以前から在った。今回ばかりは〝夢の力〟を以て事を全て上手く運ぼう、という私の算段は叶いそうになかった。

 次は、さっきのサソリよりももっと毒の強力そうな奴、もっと大きくて処理に困る奴、もっと多数を、狡猾・ずる助は投げて来そうで、その水槽の中で最後の算段をして居るのが見て取れた。私は、この場所とタイミングでそれは流石にヤバい、と思った。幾ら何でも完璧な勝利には身が保たぬ、仲間よ早く来い!等と少々憔悴し切った心を振るって、〝仲間よ早く来い〟ともう一度心中で叫んだ。虫はその時、人の目が利かない暗闇という牙城に堂々と自分達のテリトリーを構えた難攻不落に根を張る主の様にも見えた。〝私に勝てるのか?〟とほんの僅かながらに疑問を感じた処で、まるでレスキュー隊の様な赤い格好をした同志・仲間が階下から駆け付け、三階の部屋に入る入り口のドアをギィ――…と静かに開け上半身を見せて私を安心させ、彼等と私は目を合わす事が出来た。奮闘して居て大丈夫だ、という事を彼等に知らせる事が出来た後、私は安心から嬉しくなり、活気・勇気が湧いて、持って居た一番大きな爆弾を奴等の水槽へ投げ込む準備をし、投げ込むのに良い位置を探し回った。瞬時にポイントを見付け、〝いや待て、ここでこんなどデカイ爆弾なんかで発破掛けたら、運良く爆風で飛ばされただけの奴がもしかすると私の周りで、又彼等の周りでも、生き残るかも知れない。それでは余計に危ない〟等と考えては居たが何分それまでの異常な興奮の疲労と妄想も相俟って正しく考える手段が付かず、私は勢い余って手に持って居たどデカイ爆弾を水槽目掛けて力一杯に投げ込んで居た。そして我々に都合良く爆発させた後、更に追い打ちを掛ける様にしてピストル、竹槍、マシンガン等武器に出来る物は全て武器にして虫達を攻め立て、又、応援に後から駆け付けた彼等にも催促し、手持ちの武器は今こそ〝こいつ等退治〟に一気に使い果たす様にとの指令を出した。彼等は薄暗い闇の中で、はっきりとは確認出来なかったが頷いて居た様で、目的を同じにする事が出来た。木っ端微塵になったもの、手足が弾け飛んでかたわになり仰向けになって藻掻いて居るもの、煙の中で姿を現さないもの、やはり爆風によって飛ばされ生死の確認が取れないもの、等が居た様子だった。私は暗闇の中で同志達と共々〝退治出来たのだ〟と早く胸撫で下ろせる結末が来るのを待った。


(随分間を掛けてから寝た。携帯電話で一九七九年~八一年までの出来事なんかを延々見て居てなかなか寝付けなかった。)


 随分沢山の夢を見たが、一番後の憶えて居るものを記す。


 私は試験を受けて居た。数学と物理の試験だった。思っていたよりも更に難しかった様子で私の周りでも、受けながら何かザワザワと「お――っ!?」「こんなん無理やわ―」等小声で聞こえて居た。冷静に考えると決して解けない問題ではなく、ちゃんと予習しておけば解けるものだったと用紙に並べられた問題は私に言う。私は一生懸命になって解くが空欄も多かった。私も予習して居なかったのである。それでも何とか浮き上がろうと必死になった。けれど未知なものは未知であり、答を知らない私には書き込んだ答に自信がなかった。

 どういう訳かその試験には、色々その試験範囲のものを調べて良いようにと電子辞書の持ち込みが可だった。謂わば、英語の試験時に英和辞書持ち込み可と同じ様なものである。私はその際インターネット機能付きの携帯電話と、何か使い慣れて居ない比較的(携帯よりも)大きな、スマホよりもやや更に大きく思える電子辞書(それもインターネット付き)を持って居り、始めこんなもんでどうやって化学や数学の問題を解けば良いんだ、等思って居たが途中で閃き、その問題には動物の習性についてなら動物の名前がきちんと明記されて居たり、国についてなら国の名前、火山についてならその鉱物や構成要素までも、又数学にしても〝□+6C=a…〟の様な訳の分からない式が問題の内で在ったが、その使用出来る辞書にもそういった数学の問題に対応した機能が付いていた様子で、私はその事に暫くしてから気付いた。そう、その試験は数学の試験の様であり、物理の様であり、地学の様でもあった。夢ではよくある事である。そして良問の様子だった。問題の内からヒントを得てその電子辞書なりで調べれば必ず解ける様子なのである。

 私はそれ等を以て、例えば途中の問題で〝リリル〟等という動物の名前が出て居る問題が在り、その動物の習性を調べ上げれば解答出来る問題であった様子だったが、さて、その試験でインターネットを使用しても良い、という御達しはなかった為、インターネットで調べようとしていた私は焦りながら迷った。一応そういう機器の持ち込み可という事もあり、一生懸命になって〝書きながら、何かを調べながらインターネットを使う〟という姿勢を見せれば、試験官にはバレない様な様子があり、以前に私は別の試験時や講義時にそういった姿勢を見せて試験官、教授、等から誉められずとも良い印象を持たれた事が在り、そういった経験が後押しする程で、汗水垂らしながら少々ズルをしてネットで調べたものを書き込んでも大丈夫なのではないか、等の思いが芽生えて居た。試験官は前方の教団の上と、あと一~二、二~三人位私の後方に恐らく居る。私は、いつぞや早稲田大学の試験を受けた時と同様に教室(試験会場)の右側の方で前から五~六番目程の席に座って受けて居た。どういう訳かその試験官の内の一人には、私の元職場で看護婦として働いて居たYMが居た。小さい形(なり)に白い大きなオーバーオールの様なものを着て、試験後には持ち前の多弁を発揮し周りの者と団欒を持って居た。

 私は焦りながらも仕方がなかったので、その〝リリル〟の問題についてはインターネットを使って解いた。問題は習性を事細かく訊くもので、調べたサイトにはこれでもかという程のその習性が見事に掲載されて居り、その内から該当する箇所を抜粋し解答欄に書き込んだ。それだけでも死に物狂いで試験官の目を掻い潜り、バレない様に算段した姿勢を擁したものだった。その他の問題で同様の事をして行くには、カンニングで退出(退場)させられる覚悟が要る、と密かに固く思わなければならず、他の問題とその使い慣れないインターネット機器を眺めながらどうしようかずっと悩んで居た。このやや大き目のインターネット機器はまるでカラオケによく置いてある最近のリモコンの様子で、携帯に較べればかなり頑丈な造りになって居た。私は使い慣れて居ない所為もあり、左腕で固くその機器を試験官の目から隠している最中に誤ってマナーモード解除の釦(ボタン)をどこかで押してしまったらしく、小さいながらも静まったその会場ではしっかり聞える位の音を出してしまった。丁度私の近くを試験官がきちんと受けて居るか見廻って居た所であって、何か後方から人が群れるとよく聞こえて来る特有のざわつきが聞えて居たもののその音は聞こえた様子で、ズボンの右ポケットから自分の時計か携帯電話を取り出して〝自分の音か?〟といった様に確認をし、それ以上調べる事をせずに又そのまま歩き去って行った。私はその機器を又マナーモードに設定しようと試みるが、どこにその設定釦が在るのか、又マナーと書かれた釦が在るのか必死にずうっと探し回ったが全然見付からず、一度その機器の下部の方に〝マナー〟と書かれた左右スイッチ式の切り替えが在ったがそれをどうこうしてもマナーモードには全く成らず、一々機械音は出続けた。ホトホト弱り果てた私は投げ遣りに〝もういい!こんなん使わんでもええわ!使(や)ってられるか!〟といった具合に放り出して次は旧式の携帯電話を手に持ち、同様の算段を試みようとしていた。しかしもう試験時間が少なくなって居た。空欄ばかりの解答用紙で、それでも何とか体裁を繕おうと出鱈目でも自力の解答をそれぞれの欄に書き込み、又同時にネットを使って改めて書き直そうと試みて居たが、あと一分、一分もない位で試験は終了しそうだった。成程横から佐野四郎の様な試験監督者がゆっくり歩いて出て来て傍に二人位の助監督の様な者を従えながら、教壇の上に大き目の茶封筒の様な物を持って落ち着いた。恐らく用紙を回収して入れる為のもの(茶封筒)だったのだろう。

 結局、インターネットをその試験で使えるか否かの確認も出来ないまま、又、正しい解答を調べた上で欄に記入する事も出来ないままで無残にも試験は終了した。YMが私の目前で他の恐らく良くやった受験生や他の試験官達と何か駄弁って居る。〝この場所(試験場)がもう少しあの場所(恐らくYMの次に行こうとしている目的地)に近かったら二〇分で(指で2のサインをする)行けるねん。惜しいなァ、何でこの場所に在るか、っちゅーことやねん〟等と持ち前のエンターテイン気質を発揮しながら面白可笑しく話し、周りを沸かせていた。

 私はその時の自分の結果に気落ちしながらも仕方がないと諦めて、そそくさと会場を後にする様だった。

 その辺りで目が覚めた。それ迄にもおよそ沢山の夢を見て居たが、やはり寝起き頃の(後になった)夢が頭を占領するのか感情の後押しも相俟って、最後に見た夢しか浮かんで来ない。何か、全く別の夢を見て居た気もするが…。

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「虫の庭」~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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