「桜島」~(『夢時代』より)
天川裕司
「桜島」~(『夢時代』より)
「桜島」
私は以前していた職種である介護士に又戻っていた様である。否戻っていたというよりは戻らされていた、という方がやはり適切なのかも知れない。私はかつての仲間と一緒に或る京都に在る施設で働いていた。幾つかの施設と掛け持ちで働いていた様子で私は二軒、否二施設を掛け持ちしていた。それも京都と九州は鹿児島に在る施設である。まるで暖簾分けした様に点在する介護施設は日本中各地に在った様だがその時私の頭に浮んだのは信州、関東辺りから九州までの地区だった。何故か関東より上の東北、北海道の方へは思いは湧かず。遠かったからかも知れない。
堤(四十六歳)、ゆかり(女性)(二十四歳)、長谷川(三十五歳)、野村(女性)(四十七歳)、本庄(女性)(四十七歳)、古井(女性)(二十四歳)、森口(女性)(四十四歳)、森(女性)(三十五歳)、等が介護士仲間に居た。彼等は元々皆、京都は出町柳に在る山奥の施設で働く者達で、相応に優秀だとされていた。朝から夕方にかけて働き、夕方から朝にかけて働く。
ある時、鹿児島に在る施設から〝苦しいから早う来てくれ〟というTELが向こうの施設長さんによりうちに入った。うちの施設はそれでも〝回っているから〟と、何人か職員を派遣する事になった。その内の一人に挙げられたのが私である。私は何か可笑しな魔術の様なものを使えた。その辺りが功を奏して〝使える人材だ〟とでも思われたのかも知れない。しかしその事を知っていたのはうちの施設長だけで他の職員、他の施設の職員も知らずに居た様子だった。私は抜擢された事を素直に喜び、掛け持ちして利用者を介護し、職員の役に立とうと試みた。
途端に何かTVゲームの様なものが始まる。私は手元操作でその中の主人公やキャラクター、環境に至るまでプレイして支配し、殆ど思い通りにしていた様である。その夢想の様な空間と、これから行こうとしていた鹿児島の施設までへの飛行の現実がごっちゃに成った様子で、私はその現実ででもゲームで使っていた魔術の様な超能力を使っていた様だった。これは私の空想なので他の職員、従業員、利用者も、誰も知らない。当然の様に私と施設長(私の職場の)だけが知っている。施設長は何故か終ぞ姿を現さなかった。その魔術とは、一つは、ブロック仕立ての形容を好きな場所に瞬時に構築出来るといったもので、その都度その都度描く世界を、自分と、ついでに他の職員、利用者にも都合が良い様に作っていた様子で、他の職員、利用者はその作られた世界の内で、〝これからしようとしていた事が調子良く行く世界〟を用意して貰った事にも気付かず、そこで成功を収めた当人は気分が良くなり、その時目前に居る私に褒める様にして喜びをぶつけて来るのだ。私も気分が良かった。だから、私の行く所、する事、等には失敗がなく何をするにせよ他人と私の内で光った。
夢の中故に京都―九州間はすぐ行ける。ロープウェーの様なものまで使って通(かよ)ったが山の景色を見る間もなく、鹿児島の施設に着くのは早い。まるで車で往復出来る距離だ。派遣は私の他にも何人かされていた様子で、野村や堤、長谷川なんかも入っていた様な気がする。後、森とゆかりと古井はずっと京都の施設に動かずに居た様だ。
折口さん(女性、七十八歳)という利用者が確か京都の施設に居た。私は常に二つの施設間を転々とする為か、移り変わる内容を余りはっきりと覚えちゃいない。半ば、どっちにしても利用者には変わりないとして同じだともしている様で、どちらの施設に居ても相応に介助をし、特に周りの職員の為に上手く仕事が回る様尽力していた。長谷川は常に私に同意してくれて居る。私が何かしても常にその先先を読んで丸く落ち着けてくれる。私にとってはその場だけでも仲間だった。〝私の丈夫さ〟を周りにアピールしてくれて私とユニットを組みながら一緒に歩き走ってくれる。それ故周りもその二人の勢いに少し後押しされる様にして輪を作り、私の思惑通りに事を運んでくれる節がある。私はその時、折口さんにとって必要な介助をしなければいけないのに自分のゲームに夢中になり、そのゲーム内の事の成り行きを上手く進めた上で折口さんの介助に取り掛かろうとしていた。介助とは大した事ではなく日常に纏わるものであり、折口さんの生活はそれでも上手く行った。まぁ私の夢ながらに陰で〝力〟が働いて全て上手く行くのだが。
私は色々とあっち行きこっち行きしながらその二ヶ所に居る利用者を助けて居たが、古井、ゆかり、もう一人その二人の女友達が居る所へは余り行かない様にしていた。どうも女と私は折合いが悪く、彼女達の我儘を仕事の故受け入れる事が出来ず、喧嘩してしまうからである。過去に女性職員とは色々なすったもんだがあり、その影響がここでも出て居た様だ。当然彼女達はそんな私の心境を察知する事等せず(出来ず)我が道を行く。私は又、それも許せなかった。母を見る故の女性に対する暴力への躊躇は劣等に見る女から余計に噴悶を覚えた。故に彼女達に仕事の都合、成り行きの都合、で出会っても廊下ですれ違う程度の内容で止(とど)め、余計な感情と言葉が出ぬ様私は一人で心掛けていた。
次第に夕方近くなり、美しく懐かしい黄金の夕日が差す出町柳の風景はやがて青白く色褪せ始め、後に来るのは夜だけと成った。「俺ちょっと(鹿児島の施設まで)行って来るわ。向こうがどんなになってるか知りたいし上手く回っているか確認したいから。今一七時一五分やろ?もうすぐしたら野村さんも(鹿児島の施設から)帰って来る頃やし、本庄さんも出勤して来る筈。…そうやな、一八時一五分、否一七時四五分には野村さんも帰って来るやろ。まぁその時間内に帰って来てくれな困るしな。」(後は任せた)という様子を以て私は又、陰の〝力〟を利用し皆を納得させた。その後私がどこへ行ったのかはわからない。
「桜島」~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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