第2話 *悪夢とは いざという時のVR特訓らしい



 まあよくあるただの悪夢です。


      ◆◇◆◇◆◇



 悪夢というのは、嫌なことや怖いことを仮体験することで、実際に起きた時のストレスに耐性を作るためだというのをテレビで言っていた。

 そういやその前にもカクヨムで某氏から聞いた事がある。

 耐ストレス説、けっこう定説なのだろうか。


 それなら出来れば見たくない悪夢も、役に立つ必要悪というもの。

 ちょっとくらい見てもいいんじゃないのか……なんて、やっぱり思えない!!


 そうなのだ、出来れば見ずに済ませたい! どうせ見るなら当事者じゃなくて、シネマ見てるみたいな距離でいたいのよ。

 無情な言い方だが、対岸の火事でいいんだよ。それで自分も気を付けようと心構えが出来れば。


 なんだけどいつも『こちら現場です!』 のアナウンサー並みにがっつり現場入りしてるんだよねえ。困ったもんだ。


 夢なので、気がついたらこんなとこにいた――という状況は当たり前で、逆に言うと予測なし待ったなしということなのだ。

  

 で、これは今年の春先、自室で夜見た夢である。


 私は薄暗い知らない洋室に立っていた。

 部屋は細長く、真ん中に片側10人くらい座れそうな長いテーブルが一組置いてあるだけだ。


 床は木板だが軋むどころか、はなんの物音もしない。

 部屋には私1人だ。


 天井にはシャンデリアではなく、蛍光灯らしき照明があるが、その明かりは弱い。

 長い壁の片面に幾つかの窓もあるのだが、鎧戸でも閉まっているのか真っ暗だ。


 ただ、細長いこの部屋の長いテーブルの先、短い辺の壁に、開いたドア枠があり、これまた薄暗い部屋が見える。


 思うに窓もちゃんと調べておけば良かったかもしれない。後からこうやって反省できるのも夢の良いところだ。

 その注意点を起きた途端に忘れなければだが。


 閉まった窓と長いテーブルと椅子、その他には何もない部屋。

 そして何の気配もしない。

 彫像とか飾りオブジェも何もないが、ただなんとなく見た事ある雰囲気。

 

 これはアレだ――バイオハザードの序盤に似てるんだ。

 実際にはあちらゲームはもっと明るく照明はついていたし、屋敷らしくしっかり調度品のある食堂だったのだが、長テーブルのみというポイントで何故かゲームのVRと瞬時に思い込んでしまった。


 どうやら私はバイオハザードVRの中に入っているらしい。

 冷静に考えたら、視覚や手だけでなく全感覚で体験するバーチャルって、もうマトリックス並みの高度な技術なんだが、とにかくアトラクションと考えたことで気持ちがだいぶ落ち着いた。


 何しろ青田は怖がりだ。力もメンタルもヘッポコである。

 歩くお化け屋敷なんか絶対NGだ。というくらいの臆病者なのだ。

 弱い犬ほどよく吠えるというが、あれと同じで怖いから咄嗟に手が出てしまうだけである。堂々と落ち着いて対処出来ないのだ。


 だけどゲームなら現実じゃないから、いざとなったらリセット出来るだろう、なんてどこか気が楽になったりする。

 それでもこの薄暗い部屋に1人でいるのは落ち着かない。またこのまま留まっていて、向こうから何かがやって来る可能性がある。


 いつもなら窓から脱出できるかどうか確認するのだが、この時はうっかり八兵衛、ゲーム進行的に先に進むことを考えてしまった。


 さて1つだけ向こうに繋がっているドア――扉は向こう側に完全に開いているのか、こちら側からはドア枠しか見えない――に近寄って覗くと、ガランとした部屋には家具は椅子1つなさそうだし、おまけに他にドアらしきものが見えなかった。


 ただ、突き当り正面の壁だけが天井まで届いておらず、個室トイレのパーティションのように上辺部分開いている。

 ウチの梁くらいあるな。あれなら通れるだろう。


 それにしても序盤から難度が高いぜ。

 壁の上縁はまずジャンプしても届かない高さだ。

 八村塁選手なら余裕で届くかもしれないが、ウィングスパンが身長より短そうな青田じゃ無理だろう。


 ゲームなら梯子か脚立くらい何処かに用意しておいてほしいものだ。(もしかすると探せばあったのか?)


 しかし幸いなことに、ここにはテーブルと椅子(背もたれ付き)がある。

 椅子を使えばなんとか昇れるのじゃないのか、と思った。

 それにここには棒の1本もない。いざとなったら椅子を武器にするしかない。


 とか書いてはいるが本当はこの時、そこまで深く考えもせずに足場が椅子しかなかっただけなのだ。


 いかんね、私。まず武器の確保と周囲の確認は最重要なのに。冒険者としての心得が出来てないよ。って、冒険者ですらないけどね。


 でもそうやって色々と見直し出来るのも、やはり実践の良さなのか。

 とにかく椅子を1つ掴んで、隣りの部屋に行くことにした。


 椅子の脚を先に突き出しながら、そろそろと中に一歩踏み入れた。

 そこでふと、開き切ったドア扉の方、右手の壁の隅に顔を向けた。


 その暗がりに、半ズボンを履いた小さな男の子がポツンと座っていた。

 こちらに背を向け足を抱える姿は淋しそうだが、その横顔の青白さからしてこの世の者とは思えない。


 ギャアアアァァァーーーーッ!!!


 咄嗟に声こそ出さなかったが、頭の中は絶叫モードだ。

 バイオハザードと勝手に思い込んでいたが、呪怨じゃねえか!


 リセット! リセット! リ ィ セェトォォォ ーー !!


 即座に椅子を抱えたまま、元の部屋に駆け戻った。


 気がつくと、自室の布団の中にいた。窓からの明かりでもう朝なのがわかる。

 良かった、無事にリセット出来たらしい。


 いや、ホントに勘弁してください……(;´Д`A ```

  

 私は『呪怨』は見た事ないが、もうCMだけでお腹いっぱいです。

 第一さすがに子供をぶっ飛ばすのはちょっと……。


 確かに勝手にバイオハザードモードと思っていた私も悪いが、想定外の方向から来ると耐性ができる前に心臓がしんどいです。


 そう考えるとホラー物のヒロインって叫ぶばっかで五月蠅いと思っていたけど、結構逞しいんだなあ。

 こんな状況に2時間(映画時間)近くもいられないもの……。


 っていうか、こんな状況が想定されてのことだったら、そっちの方が恐ろしい……。

 せめてバディを、そう、人じゃなくても良いから、出来れば頼もしいバディが欲しい。


 もうリベンジもしたくないのだが……。



      ◆◇◆◇◆◇



 今回は追っかけられなくて良かった。

 でももちろん追っかけられる夢もあるわけで……

 都市伝説の女に追っかけられたのが、もう最恐だった(;゚Д゚)

 次回は気が向いたらそれを書くかも。

 いや、本当は悪夢ばっかのエッセイじゃないはずなんだけど……。

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