こんな夢 Zzz… (-ω-●)…。o○ と 遭遇した

青田 空ノ子

第1話 *山降りるバスに揺られて


 これは昔、会社の慰安旅行での帰りのこと、山中なのに思ったより車が多くなり始めた。


 多分秋だったと思う。   

 場所によっては紅葉が染まり始めるところもあり、日曜の午後とあって皆同じ頃帰りが重なったのかも知れない。


 渋滞と云う程ではないのでバスは止まることなく、緩急のリズムを繰り返しながら進んでいく。

 また山道にありがちな蛇行のおかげで絶妙な具合に横揺れも入り、隣りに座っている友もすでに船を漕ぎにいっていた。

 喋らないので私も眠くなってきた。


 ウトウトとし始めると、まだ起きて話をしている同僚たちの声がさざ波の音のように遠くなっていく。

 

 こうしてうたた寝するのは気持ちいい。完全に寝入ってしまえば味わえない感覚だ。

 背もたれに横向きにもたれていた頭が、揺れで下に垂れた。

 

 その反動で薄っすらと目を開けると、足元にポッカリと穴が開いていた。


 まるで足元の鉄板が外れ落ちてしまったかのように穴は四角く、ちょうど椅子のシートと同じくらいの大きさでバスの底まで抜けて下が見えていた。


 けれど下に見えたのは舗装された地面でなく、何故か裸の硬そうな枝が無造作に絡まり合う雑木林をすぐ足元に見下ろしているといった光景だった。

 それが面白いことに、バスの速度に合わせて後ろに次々と流れて行くのだ。


 う~ん、このバスは何処を走っているのかな?

 いやそれよりも、エンジン音でない妙な音がソコからしていた。


 ザザザザザ…… ギィギィ ギシギシ キィキィ……


 どうやら枝同士が擦れている音のようだ。

 風が強い時などに良く聞くが、その割に風のピューピュウする音は聞こえない。

 その代わりに、どうにもそれだけではないモノが混じっていた。

 

 ……ギャッ ギャア ギャア キィア ギャアァ ――――

 

 これは音じゃないなあ。

 獣が騒いでいるような甲高い声。しかも一つではなく、いくつかいるようである。


 それはバスのスピードが落ちると大きくなり、再びバスが加速すると小さくなる。


 この声は ―― 餓鬼 ―― か  

 自然とそう思った。


 餓鬼がこのバスを追いかけている ―― 猿とかではなく、姿も見ていないのに何故かそう思えた。


 密集する枝々は穴のすぐ下に見えていて、足を降ろしたら踏めそうである。

 だから樹々を渡ってくれば、きっと奴らにも手は届くはずだ。


 捉まれたら嫌だなあ……、などと思いつつ、私は足を少し引っ込めた。


 ガ クン、と大きめのカーブで体が揺れて思わず顔を上げた。

 他の人も今の揺れで目を覚ましたらしく、目をしばつかせている。


 右側の窓には灰白色の擁壁ようへきと、その上にまだ葉を蓄えた樹々が見える。

 もちろん走る山道もコンクリートで舗装されている。

 当然ながら足元は、しっかりと木目板調の床がはってあり、穴などどこにもない。


 当たり前の車内の風景だった。妙なモノを見たなあ。

 しかしまだまだ山道は続く。

 すぐにまた眠けが覆い被さって来た。


 ザザザザザ…… ギィギイィィ ギャッ ギャ……

 ブロロロロロ…… ギャア ギャッ ザザザ…… ギイギイ……


 バスのエンジン音に混ざって、再び枝の擦れる音と騒ぐ小鬼たちの声が混じる。

 目を落すとまた足元には、後方へ流れ去っていく枯れ木の群生が四角い穴の向こうに見えた。


 またかよ……と、思った。

 しかしバスはゆったりと左右にカーブを繰り返しながら、気持ち速度が落ちてきた気がする。

 餓鬼たちの声が一層大きく、近くになって来る。


 ヤダなあ、このままじゃ追いつかれちゃうよ。運転手さん、もう少しスピード上げてくれないかなあ。餓鬼が追っかけて来てるんだけど。


 いつ足元の雑木林の間から、ナニカの顔が覗くのではないかと、だんだんと不安になってきた。

 けれどハッキリと起きるには眠すぎた。


 そんな不安を引き摺りながら、半眠状態のまま数分経ったか、急にガイドさんのアナウンスで目が覚めた。

『皆さま お疲れ様です。もうすぐ○○PAにつきます。ここで少し休憩を――』


 う~ん、伸びをする。隣りやまわりの同僚たちもみな同じ動作をする。

 まだ山道だが、やっと人里に下りてきたんだなあ。なんだか座りっぱなしも疲れるものだ。


 念のために下を見たがもう穴なんかどこにもなかったし、奇妙な音も聞こえなくなっていた。

 

 妙な夢だったなあ。

 ぼんやりしているようで結構鮮明だったし、面白いぐらいにバスの速度とぴったり連動していた。

 もしあの時、追いつかれていたらどうなったのだろう……などと考えた。


 まあもしものその時は、蹴り落す一択しかないのだがやはり見たくないものだ。


 そうこう考えるうちにバスは開けた場所に入って行った。

 バスを降りてトイレに向かう時にはもう夢は遠くに去っていたが、たまに思い出す夢の一つである。



     ◆◇◆◇◆◇  

  


 あらためて読んだら、もしかしてオカルトエッセイのネタだったかな? と思ったりしましたが、まっいいか。

 ということで始めてしまいました。


 拙作『異世界★探訪記――悠久のアナザーライフ』 第40話の一部の描写に、この穴の雰囲気だけをちょっぴり使いました。

 いつかあらためて創作に膨らませてみたいネタであります。

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