097 『伝説の竜姫、真相を語る(7)』
アリーヤとヤンアルが竜面を外すと、そこには彫刻と
男性の容貌が秀れた様子を眉目秀麗と指すが、その顔の中で高い比重を占める眼を閉じていて尚この誘引力である。この美少年が瞳をさらした時には一体どうなってしまうのか想像もつかない。
「————な、なんなの、この子……⁉︎ めちゃくちゃカッコいいじゃない……! なんちゃってイケメンのベルとは比べ物にならないわ……‼︎」
「オイ……、誰がなんちゃってイケメンだ」
心の声がダダ漏れなアリーヤにベルはすかさずツッコミを入れる。
「ヤンアル、キミからもなんとか言って————」
「…………」
ベルはヤンアルに助けを求めるが、ヤンアルもアリーヤと同じくロンジュの素顔に惹きつけられているようで上の空であった。
「————そ、そんな……ヤンアルまで……⁉︎」
ひけらかすことはないが内心では自らの容姿の良さを自覚していたベルは、ヤンアルまでもがロンジュに眼を奪われていることにショックを受けて、ソファーに崩れ落ちてしまった。
「……ホントにこの子、キレイね……! あたし、立候補しちゃおうかしら……⁉︎」
「何に立候補するんだ……?」
ベルの冷たいツッコミにも反応せずアリーヤは続ける。
「今でも充分カッコいいけど、あと5……いや、3年待てばより完璧に……それまで養ってあげれば、情が移ってくれる……?」
「ダメだ、ダメだ! ヒモなんて俺は許さんぞ!」
「さっきからゴチャゴチャうるさいわね。アンタ、ロンジュくんのパパなの⁉︎」
「————もういいだろう! 貸してくれ!」
醜い嫉妬に駆られたベルはアリーヤの手から竜面を奪い取ってロンジュの顔に戻してしまった。
「あっ、何すんのよ! まだ拝んでいたいのに!」
「きっとロンジュもこうやって騒がれるから素顔を見られるのが嫌なんだ!」
「そんなこと分かんないでしょ!」
「うるさい! この話はこれで終わりだ! いいね!」
ベルが強引に話を打ち切った時、『クウー』という小動物の鳴き声らしき音が室内に響いた。
「————何、今の音? ワンコでも迷い込んだ?」
キョロキョロとアリーヤが首を振ると、ヤンアルがおずおずと手を挙げた。
「……すまない、私の虫だ。腹に住んでいる……」
「アハッ! ずいぶん可愛い声で鳴く虫を買ってるのね、ヤンアル!」
「そう言えば俺も腹が空いたな。夕食がまだだった」
同調したベルが腹をさすると、アリーヤは何か閃いたように指を立てた。
「だったら、
「いいね。じゃあ、三人で行こうか」
「あたしはいいわ。もう晩ゴハン食べちゃったし、これ以上食べたら、あたしの自慢のプロポーションが崩れちゃう。遠慮しないで二人で再会の祝杯でも上げてきなさいよ!」
「お、おい、アリーヤ……」
満面に笑みを浮かべたアリーヤはベルとヤンアルの背中をグイグイと扉の方へ押し込んでいく。
「分かったよ。食べ終えたら、ロンジュが目覚めた時の軽食でももらって来るから、キミはロンジュの様子を見ててくれるかい?」
「はいはーい♪」
アリーヤはやけにテンション高く手を振って見せた。その様子にベルは念を押すように指を突きつけた。
「……言っておくが、俺がいないからってロンジュの素顔を見るんじゃないぞ?」
「うっさいわねえ。そんなことしないから早く行きなさいよ」
シッシとばかりにアリーヤは手を振って二人に退出を促す。
「その言葉、信じたからね。行こう、ヤンアル」
「あ、ああ……」
二人が部屋を出ていくと、持ち上がっていたアリーヤの口角がゆっくりと下がっていった。
「…………あ、ダメ……」
つぶやいたアリーヤは何を思ったのかテーブルの上に残された燕面を手に取って、自らの顔を覆った。
燕面によってその表情は隠されていたが、空いている面の下方から二筋の雫が流れ落ちる。
「……お面って便利ね。こんな情けない
アリーヤが肩を震わせた時、背後のベッドで眠っていたロンジュが
◇
————食堂に着いたベルは椅子を引いて手を差し出した。
「どうぞ、ヤンアル」
「ありがとう」
ヤンアルが席に着くと、笑みを見せてベルも向かいの席に座った。
「何を食べようか?」
「肉料理がいいな」
「分かった。じゃあ、俺に任せてくれ」
注文を終えたベルは水を一口飲んで喉を潤した。
「————さて、料理を待つ間にフランチェスコのことを聞いておきたいが、その前に……」
「その前に、どうした? ベル」
「……うん、ロンジュのことなんだが……その、そんなに格好良かったのかい?」
「……?」
小首を
「いやホラ、キミもロンジュの素顔を食い入るように見てたみたいだったから……」
「ああ、私が見ていたのはロンジュの顔色だ」
「顔色?」
「うん。私もそこまで医術に通じているわけではないが、ロンジュの顔色はまるで死人のような青白さだった」
「そうなのか。それはやっぱり、あの『氷の腕』の影響なのかな……?」
「おそらく……」
心配そうにうなずくヤンアルを励ますようにベルは笑顔で手を広げた。
「————それじゃあロンジュにはこれ以上、あの技を使わせないようにしないとだね!」
「ああ。だが、ロンジュは興奮してしまうと、さっきみたいに見境が無くなってしまうんだ……」
「大丈夫さ! しっかり説明してあげれば、きっとロンジュも分かってくれるよ!」
ベルの励ましの声を聞いたヤンアルは微笑を浮かべる。
「……そうだな。ベルの言う通りだ」
「そうか、そうか。ロンジュの顔に見惚れていたわけじゃなかったか……!」
ベルはウンウンとうなずきながらホッとした顔つきになった。その様子に気付いたヤンアルが眼を細めて尋ねてくる。
「……ベル。もしかしてだが、ロンジュに焼き餅を焼いていたのか……?」
「う……。そう……かも知れない……」
眼を逸らしながらベルが答えると、ヤンアルはフッと笑みを漏らす。
「安心しろ、ベル。ロンジュは弟みたいなものだ。お前が思うような感情はない」
「そうか、良かった……!」
安心した様子のベルは懐から1枚のコインを取り出した。
「これをキミに返しておくよ」
「これは、私が残していった……?」
「ああ。今すぐじゃなくていい。ロンジュやフランチェスコの件が片付いた時に、ラトレの泉でキミの返事を見せてくれ」
「……分かった」
穏やかな表情でヤンアルがコインを受け取った時、注文した料理が運ばれてきた。
「おっ、ちょうど来たね! さあ、食べよう!」
「ああ」
二人は食前酒のシャンパンを軽く打ちつけ再会の祝杯とした。
◇ ◇
————食事を終えた二人はベルの部屋に戻りノックをする。
「アリーヤ。戻ったよ」
しかし、部屋の中から返事はない。
(……トイレにでも入っているのか……?)
首をひねりながらドアノブを回すが、鍵は掛かったままである。
「アリーヤ! 何かあったのか⁉︎ 返事をしてくれ!」
先ほどより力強くドアを叩いてみるが、やはり返事はなかった。
「……ベル。何か嫌な予感がする」
「ああ。お上品に構えている場合じゃないな……!」
ベルは腕に真氣を巡らせて鍵を破壊し部屋に躍り込んだが、アリーヤの姿は見当たらない。
「————ベル!」
ヤンアルの声に顔を向けてみれば、ロンジュが眠っていたベッドはもぬけの殻となっていた。
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