080 『弱小領主のダメ息子、“燕“に出逢う(4)』
振り返ったベルの
女はロンジュと同様の紫色の制服らしきものを着用しており、さらに同じく、その顔は何かの生き物を模したような仮面で覆われていた。ロンジュの『
だが、ベルはそんなことなど気に留めず、
「……キ、キミは————」
「————ロンディーネ。迎えに来てくれたんだ」
ベルが口を開いたと同時にロンジュが親しげに仮面の女に近寄った。
「……あ、ああ。フランチェスコが呼んでいる」
「えっ? フラー様が?」
「急いで帰ろう」
「————あ、待って。ロンディーネ」
ロンディーネと呼ばれた女が手を差し出したが、ロンジュはその手を取らず振り返った。
「ベル。おしゃべり出来て楽しかったよ。またね」
「…………ああ」
ベルは空返事をしながらもロンディーネという女から片時も眼を離さない。ロンディーネはその視線を避けるようにロンジュに再度、帰宅を促す。
「ロンジュ、もういいだろう。早く帰るぞ」
「うん————」
「————待ってくれ!」
背を向けたロンディーネをベルが大声で呼び止めた。
「……キ、キミなんだろう……? ヤンアル……‼︎」
「…………ッ」
震える声でベルが呼びかけるが、ロンディーネは背を向けたまま黙して語らない。
「ヤンアル……、俺だよ。髪が短くなったけど、キミがよく知っているベルだよ……! キミが命懸けで治療してくれたから、助かったんだ……‼︎」
「…………残念だが、お前など知らない。私の名はロンディーネだ」
「————嘘だ。そんな仮面を着けていたって、その声、背格好、雰囲気、全てが俺の知っているヤンアルのものだ……‼︎」
「……しつこいぞ。お前のような軽薄な男は知らないと言っている」
突き放すようなロンディーネの言葉にベル顔を歪めて左胸を押さえたが、強いて笑みを浮かべた。
「……怒っているんだね。俺がキミを守れなかったから、俺がダメ息子だから……」
「…………」
「キミが俺のことを見限ったのなら、知らないふりなんかしないでハッキリそう言ってくれ。その仮面を外してキミの素顔で、キミの本心を聞かせてくれ……‼︎」
「…………」
「キミに拒絶されるのは悲しいが構わない。だが、キミに『知らない』と言われることだけは、堪えられない……‼︎」
「————ッ」
ベルの魂の懇願に揺り動かされロンディーネは振り返ったが、ベルの
「……ヤンアル……?」
「————言ったはずだ。私の名はロンディーネだと。私とお前では住む世界が違う。喧騒とは無縁の世界でその女と静かに暮らせ」
「ち、違う! 彼女は————」
ロンディーネはベルの制止を聞かず、ロンジュの手を引いて飛ぶように丘を降りて行ってしまった。
「待ってくれ、ヤンアル————ッ‼︎」
追いすがろうとしたベルだったが、突然左胸に強い痛みを覚えてうずくまってしまった。
「————ベル! どうしたの、大丈夫⁉︎」
「…………ッ」
慌ててアリーヤが声を掛けるが、ベルは呼吸を荒くして何も答えない。
「ベル! 落ち着いて深呼吸するのよ!」
アリーヤに背中をさすられ深呼吸を繰り返したベルはようやく口を開いた。
「…………ありがとう、アリーヤ。もう、大丈夫だ……」
「良かった……!」
ベルの返事に安心したアリーヤはニコリと微笑んで、ロンディーネたちが去って行った方へ顔を向けた。
「……今の
「間違いない。仮面をしていたって俺には分かる。絶対にヤンアルだ」
「でも、『私はロンディーネだ』って……」
「……何かワケがあるはずだ。もしかすると、また記憶を失くしているのかも知れない」
「とてもそんな風には思えなかったけど」
「…………」
ベルが答えられないでいる中、アリーヤが続ける。
「なんか……、ヤンアルさんに誤解させちゃったみたいね」
「……行こう。ヤンアルたちはロムルスの方へ帰って行った。きっと、ロムルスのどこかに滞在しているんだろう」
やはりベルはアリーヤの言葉に正面から答えない。アリーヤは一瞬、瞳を曇らせたが、すぐに乾いた笑みを浮かべた。
「そうね。あのロンジュって子とお揃いの服を着てたし、きっとどこかのグループに入ってるんでしょうね。仮面同好会とか」
「…………」
からかうようなアリーヤの物言いにベルはジロリと視線を投げた。
「な、何よ、冗談でしょ。そんな怒らなくたっていいじゃない」
「……いや、すまない。確かにそうだ。ロンジュはともかく、ヤンアルまで何故あんな仮面を……?」
「行って訊いてみたらいいじゃない。ここでアレコレ考えてたってラチがあかないわ」
「そうだな」
ベルは丘を降りながら先ほど起こった出来事を思い返す。
(————『
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