079 『弱小領主のダメ息子、“燕“に出逢う(3)』
こちらを振り向いた少年?の顔はなんと、怪物を模したような仮面に覆われていたのである。
『…………‼︎』
そのあまりに滑稽な出で立ちにベルとアリーヤが言葉を失っていると、少年?の方から声をかけてきた。
「お兄さんたち、僕に何か用?」
仮面によって少しくぐもってはいるが、声はやはり少年のものであった。声をかけられたベルは石碑の脇から出て軽く頭を下げた。
「————失礼。俺たちは観光で有名な『ロムルスの
「別に謝らなくていいよ。気分を悪くなんかしてないから」
仮面の少年の真っ当な返事を聞いたベルは抑えていた好奇心がムクムクと湧き上がった。
「それは良かった。その、ちょっとした好奇心から訊きたいんだが、
「————
「え?」
「これは竜の仮面だ。怪物なんかじゃない」
「…………」
言われて見てみれば、確かに少年の仮面は竜を模した物のように見える。しかし、ベルが訊きたいのは『何』ということよりも『何故』だったのだが。
(……さっき、この子から感じた
再び問い直そうとした時、アリーヤが裾を引っ張って小声で話しかけてきた。
(————ねえ、ベル。もう放っときましょ。中二病の子供が面白がって変な仮面を着けてるだけよ)
(……そうだな、陽が暮れる前にロムルスに着きたいしね。石碑に祈りを捧げたら先を急ごう)
ベルとアリーヤはそれ以上、竜面の少年に構わず石碑の正面に回った。
石碑は所々苔むしており、ヒビ割れも目立つ。この場所に置かれてからいったいどれほどの年月が経っているのか想像もつかない。正面には碑文が刻まれており、所々表面が欠けて読めない部分もあるが、どうやら魔獣を退治したロムルスの偉業を讃えているものらしい。
(————聖ロムルスよ。これから私たちはあなたが
十字を切って祈りを捧げたベルが立ち去ろうとした時、竜面の少年が再び声をかけてきた。
「————お兄さん。その眼、変わってるね。左右で瞳の色が違う」
「え? あ、ああ。これかい? ちょっと前に大怪我をしてね。その後遺症ってヤツかな」
「……そうなんだ。その怪我っていうのは左胸のこと?」
「————!」
この左胸の傷のことは家族と医者、そして刺した犯人しか知らないはずである。ベルはアリーヤを背中でかばって竜面の少年へ問い掛ける。
「……服の上からは傷痕が見えないはずだ。どうやって分かった……⁉︎」
「あ……、当たり? やっぱりね。
竜面の少年は自分の予想が当たり手を叩いて喜んだ。
「
「それは僕も知りたい。知ってたら逆に教えて欲しいくらいだ」
「……馬鹿にしているのか……!」
「馬鹿になんかしてないよ。僕は本気で悩んでるのに……」
「…………⁉︎」
表情は窺い知れないが、竜面の少年はうつむいて落ち込んでいるようだ。どこまで本気か分からないその様子にベルはまたしても言葉を失った。
「————ベル! こんな子に構うことはないわ! もう行きましょ!」
「ま、待ってくれ、アリーヤ。この子がさっき言っていた言葉に引っかかるんだ。もう少し話を聞きたい……!」
ベルはアリーヤの制止を聞かず、再び竜面の少年に声をかける。
「口調がキツくなってすまない。名乗るのが遅れたが、俺はベルティカ=ディ=ガレリオという者だ。良かったら、キミの名前を教えてくれないか?」
「……ロンジュ」
ベルが先に名乗ってくれたからか、竜面の少年————ロンジュはうつむいたままだが名を教えてくれた。ベルはうなずいて続ける。
「ロンジュか……。美しい響きだね。歳はいくつ? 俺は22だけど」
「歳は……分からない。僕、記憶がほとんど無いんだ……」
「————記憶が無い⁉︎」
驚いておうむ返しするベルにロンジュは小さくうなずいた。
(……『氣』という言葉を知っていて、記憶が無いだって……⁉︎ まさか、このロンジュという子は……‼︎)
「ベルティカさん……?」
急に黙り込んだベルを不思議に思ったロンジュが呼びかけてきた。
「……あ、ああ。俺のことはベルでいいよ。知り合いはみんなそう呼んでるんだ」
「それ、知ってる! 愛称ってヤツでしょ?」
「ああ、そうだが……?」
「愛称で呼べるなんて、なんか繋がりがあるみたいで嬉しいな!」
そう言ってロンジュは嬉しそうに肩を揺らす。ベルは改めてロンジュの姿を注視してみた。紫色を基調にした何かの制服らしきものを着用しており、背丈からすると、14、5歳くらいに見えるが、中身はそれよりも幼く思える。
「ロンジュ。さっきも訊いたが、どうして竜の仮面を着けてるんだい……?」
ベルに尋ねられたロンジュは仮面が落ちないように手を添えて答える。
「……どうしてだかは分からない。でも、この仮面を着けていると安心するんだ」
人には色々な拠り所があるものである。ベルはこれ以上、仮面については追求しないことに決めた。
「それじゃあ別の質問をしたいんだが、キミはヤンアルという女性を知っているかい?」
「……ヤンアル? 誰それ?」
ロンジュは初めて聞いた名前のように首を傾げた。残念だが、その様子にベルは嘘はないと判断した。
「……そうか。それじゃあ————」
「————ロンジュ。そろそろ帰るぞ」
その時、ベルが聞きたくて聴きたくて仕方なかった澄みきった声が脳内に飛び込んできた。
血相を変えて振り返ったベルの瞳に映ったのは————。
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