第7話 小雨と筆と

「この後予定とかある?」

「なっし」

「じゃあ泊まる?」

「急wなら1回帰る。着替えとか欲しい」

「一緒に行こ?母さんからおつかい言われてるからついでにお菓子とか買おうぜ」

「おk」

 食器をお盆に乗せ台所に向かった。



 

 午後5時頃、パラパラと雨音を響かせながら自分の家の前に着いた。

「久しぶりに来た気がする」

「家には入らんけどな」

「ゑ?」

「こっち」

 ちょいちょいと手招きをして家の裏に回った。裏には小さな車庫みたいな小屋がある。

「小屋?倉庫?」

 不思議そうに首を傾げながら傘を畳んでいる凌空をよそに俺も傘を畳んでポケットから取り出した鍵で扉を開けた。ギギッと鈍い音…後で油指しとかないと…

「どーぞ、散らかってるけど」

「おじゃましまー、オオッ」

 驚くのもわかる。いい反応で思わずふっと笑ってしまった。倉庫に見える建物とは違い普通の家と何ら変わりはない内装をしていた。まぁ驚いたのは内装じゃないだろうな。入った瞬間視界いっぱいに写った物は1枚の大きな絵画。

「すげぇ!アキ、これどしたん?買った?てかここ家あったっけ?」

「もともとじいちゃんの作業小屋だったんだけど自分で改造して家にした」

じいちゃんの知り合いにも手伝ってもらったけど俺がやったと言っても過言じゃないから!嘘はついてない!

「この絵は?」 

「俺が描いた」

「ん?」

「俺が描いた」

「え!マジ!?すげえ!」

 めっちゃいいリアクションと嬉しさで思わず笑みが溢れた。

「…ッ、ふふふふふふふ」

「めっちゃ笑うじゃん」

「だって、小学生、みたいな、、はははは」

「誰が小学生だ!」

「リアクション、がそんな、感じだもん」

「本当のことなんだからいいだろ!」

「ははは、不用意に触んなよ」

 倒れたら危ないからと凌空を置いて奥の方に向かいタンスに手を伸ばした。

「しっかし、でかいな…あ、コレキャンパスじゃなくて木の板…?」

「層総草僧」

 亡くなったじいちゃんの将棋仲間のじいちゃんが趣味のDIYで切り間違えて捨てる予定だった木の板を貰った。特にあの時は何も考えず身体が動くまま貰った。持って帰って何の意味もなく板を真っ黒に塗りつぶして、気づいたら筆と絵の具用意して…

 カシャンカラカラカラ

 何かが落ちた軽い音が響いた。

「どしたー?」

「わりい!筆入れ落とした、」

「怪我とかないならいーよそのままで」

「これくらい拾うよ。勝手について来て散らかして帰るのはさすがに失礼」 

カチャカチャと筆を拾う音が聞こえた。

「あと、アレ、あのー立つ鳥音を残さず」

「立つ鳥跡を濁さず、な」

「……」カチャカチャカチャ

「wッオイ何か喋れや」

「ワハハハハハ」「アッハハハハッハ」

 ふーーっ   ジーーーーーー   コトッ

 笑いが引くのとほぼ同時にリュックのチャックを閉める音と筆入れを机に置く音が聞こえた。

「準備できた」

「、多分全部拾えた」

「あんがと」

俺が玄関のドアに手をかけた時声を掛けられた。

「…あ、ちょい待って」

「どした?」

「1本拾い忘れてた」

 正面の絵の隣にある机の下に赤い小筆が落ちていた。

「いいよ放っといても」

「後でモヤモヤすんの嫌だから片すよ、あとそれ入ってきたときの鍵と違くない?」

 自分の左手にある鍵は本を読んでる猫のストラップがついていた倉庫の鍵だった。玄関の鍵は座布団で丸まってる猫のストラップ。取り間違えたみたいだ。

「え、あ、コレ倉庫の鍵!」

 バタバタバタと玄関の鍵を取りに鍵をしまってる引き出しにダッシュした。

「……?どした、凌空」

鍵を取って玄関に戻ると筆入れの前に落ちていた小筆を持って突っ立っていた。

「ん?ああ、なんでもないなんでもない」

「?そっか」

 カコンッと筆立てに差してタタッとこっちに来た。

「スーパー行くか」

「何かうんだっけ?ダッツ?」

「食いたいだけだろ(笑)」

「ゑ…ダッツ嫌い?」

「クッキークリームこそ頂点為」

「買わない選択肢は?」

「ある?」

「俺は奢って貰えるから…」

「よっしゃスーパー行くぞ!」

「おー」

 何か流れでアイス奢って貰えることになった。ラッキー(笑)

 電気を消して扉の鍵を閉めたことも確認した。

「よし!行くか」

「おう」

 スーパーに向かうべく家に背を向けた。このとき、できなかった。視界の端に写った凌空の表情に違和感を覚えることに………

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