第2話 妹の花鈴ちゃん
少女、RINは今をときめくアイドルである。連続ドラマで主演を務める事も決まり、芸能人人生は順風満帆である。
「賢太郎も変な仕事辞めたら良いのに」
仕事終わり、電車からも降り。
イヤホンを右耳に嵌め、兄と連絡を取りながら帰り道を歩く。それがRIN──津継花鈴──の帰宅ルーティンである。
『変な仕事ってな。回収屋だ、回収屋』
「だからそれー。それが変な仕事なんじゃん。回収屋って何よ」
『割と依頼あるんだぞ』
「ただのパシリだし、あんまり儲かってないでしょ?」
『そりゃお前と比べたらな』
天下のトップ芸能人と比べては、ほぼ全ての人間は儲かっていないとなるだろう。
「別にお爺の遺産もあるし、私も充分稼げてるから養ってけるし」
祖父の遺産を相続したのは賢太郎と花鈴であり、その遺産も相当な物であった。
『おい。俺の仕事を無駄な努力とか吐かす気か、愚妹』
「……いやいや、そんなつもりは。ただ私は心配なだけだよ」
こんな事を続けていつか大変な事に巻き込まれるのではないか、と。
『有田さんにも気をつけろって言われてるし、少なくともお前には心配かけるつもりはない』
「だーかーらー! それやってる事自体が心配なの!」
花鈴は少し声を荒げた。
『あー、分かった分かった。気をつけるから』
その返しは何も分かっていないだろう、と賢太郎に見えてもいないのに花鈴は膨れっ面になる。
『そうだ、花鈴。スーパーに寄るつもりあるか?』
「んー? ……まあ、別に良いけど。何買えばいいの?」
『いや、俺も行くから』
花鈴は周りを見渡して、近くのスーパーマーケットを教えると『了解』という答えが返ってきた。
「ねえ、どれくらい待てば良いの?」
『そんな待たせないって。直ぐだ、直ぐ』
花鈴は外にあるベンチに座り、スマートフォンのゲームアプリを立ち上げ賢太郎の到着を待つ。
「ほら、直ぐだ」
聞き慣れた声がして花鈴は顔を上げる。
「ねえ、まだ終わってないんだけど」
「待たせないつったのに、お前はさぁ」
賢太郎は呆れを含んだ目で花鈴を見つめる。花鈴はゲームを止める。
「良いのか?」
「家帰ってからで良いでしょ?」
ベンチから立ち上がり花鈴はスマートフォンをポケットにしまう。
「で、何買いにきたの?」
「寿司食いたいな〜、って」
「スーパーので良いの?」
花鈴は財布を取り出して『お金ならあるよ』と言った風にアピールする。
「おい、止めろ。俺を誘惑するな。それに有田さんの飯も必要なんだよ」
賢太郎は花鈴の悪魔の様な誘惑を断る。
「有田さんの?」
「金魚の餌は不満なんだとさ」
「有田さん、グルメだからね。もっと美味いのが良いって前も言われてなかった?」
「だから高いのにしたんだけどな」
「金魚の餌だからね、結局」
スーパーマーケット内に入り、鮮魚コーナー前「刺身のが良いのか」と賢太郎が呟く。寿司となれば惣菜にあるが、刺身の方が良い気もしてくる。
「どっちもじゃ、ダメかな?」
「ダメだ。どっちかにしなさい」
「何で何で〜?」
「それはね、高いからだよ。分かるだろう、花鈴」
下らないやり取りをしながら刺身の盛り合わせを購入して帰路に着く。これであればシャリとネタを分けて水槽に入れる必要もない。
「────ほ〜ら、有田さん。鮪だよー!」
水槽内に入れられた鮪を『びゃぁああ! くっそウメェ!』と喜びを叫びながら有田さんが喰らう。
「……共食いじゃねぇか」
賢太郎が思わず突っ込んでしまったのは仕方がないだろう。
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