009 未来の魔法は衰退?進化?

転移で自分の家の玄関に戻ると、神様が待っていた。


「先程のラノベは、まだ良くなってないぞ」

「えっ?! 本当ですか?!」

「ああ。王の前で王子達を詰問したのは良かったが、アホが多すぎてお前の事を完全に信じて居ない様子」


マジか。そこまでアホだったのか。


「いや、違うでしょ。多分ですけど、作者の力じゃないんですか? どうしても主人公を他国の王子とくっつけたいんじゃないですか?」

「それはそうだろう。アホを捨ててイケメンと結ばれるのが作品の流れだからな」

「じゃあ俺のせいじゃないですよね?」

「いやお前のせいだ。作品の流れは押さえた状態で、改善するのが仕事なのだから」

「え~、そんなの聞いてなかったですよ? アホな主人公を矯正するって話でしたよ?」

「今回の場合、アホな主人公だったか?」


えっ?

そう言われると、アホなのは主人公の周りの登場人物だった。


「で、でも、あの主人公は悪役令嬢になりきろうとしてましたよ? それで婚約破棄されたがってました!」

「欲望に忠実だっただけで、アホとは違う」

「そう言われればそうですけど……。じゃあどうすれば良いんですか?」

「主人公は他国の王子と出会えるようにしろ。結ばれなくても問題は無いので、出会わせろ。その上で、変な設定等を潰せ」


んな無茶苦茶な。

世界の決まりをイジるのは無理ですよ。

それこそ神様の出番でしょ。もしくは作者か編集。


「どうやら分かってないようだ。

 では練習として、他のラノベに行って来い。こっちは世界が分かりやすく変になっているからやりやすいだろう」

「途中で違う事をさせるのは悪手ですよ?」

「練習だと言ってるだろう。それにお前はまだ自分の力を分かっていない所もある。それの修練も兼ねている」


俺の力? と言っても神様から貰ったチートだけど。


「お前には『必ず主人公以上のチートが付くようにしておく』と説明したはずだ」

「あっ、はい、覚えてます」

「だが貰った能力は4つと考えているようだが?」


えっ?

“ページ飛ばし”と“アイテムボックス”と“転移”と“ペテン師”……本当だ!

これに“主人公以上のチート”が入って5つだ!

貰ってて知ってたのに、何でだろ?


「なおかつ、どうやらその世界限定だと考えているようだな。誰がいつ『その世界限定で、戻ったら無くなる』と言った?」

「…………言われてない! と言う事は?」

「そうだ。本の世界に行くほど、お前はチートだらけになっていく」


マジか!

じゃあ、最初のラノベでアホみたいな魔法を使えるようになってて、次のラノベで治癒魔法という名の各種の補助魔法を使えるようになってる。

その次のラノベで植物を操れる木剣を入手してて、さっきのラノベで悪役令嬢の能力を入手してるのか。

…………悪役令嬢の能力って何だよ!


「そうやって集めたチートも使って矯正するのだ」

「は、はい、理解しました」

「では行って来い」

「え? は? 今帰って来たばっ……」



はい、強制的に送られました。

今までのラノベを読み返す時間も与えてくれませんでした。

ちゃんと能力を知っておきたかったのに!

戻ったら……ダメなんだろうなぁ。また強制的に送られるだけだろう。

下手すれば、自分で戻る事を禁止されるかもしれない。

諦めてこの世界で修練するしか無いようだ。



で、どんなラノベですか?

どうやらどこかの屋敷の敷地内っぽいけど。色んな人が居るなぁ。子供から大人まで。

スキルを与えるとかギフトが貰えるって感じではなさそう。

まだイベントが始まらないようだし、書籍を読んでみるか。


……あ~~~~~、これ、ダメなヤツだ。

魔法を極めた主人公が未来へ転生、その未来は魔法が衰退してる、っていうクソテンプレ。

で、この場は「子爵家の選抜会」と呼ばれるもので、雇い入れる部下を探すやつらしい。

そこに親と共に来てる子供になった主人公が、衰退したと言われてる魔法を見せつけてイキる話。


この世界の常識を変える? どうやって?


って悩んでたら何かイベントが始まった。

と言っても、子爵家の娘が主人公に難癖付けただけだが。

何で必ず娘なんだろうな? 息子で、後に親友になるとかでも良いだろうに。

どうせ強い主人公に惚れるとか、脳みその無さそうな事にしたいんだろうなぁ。


「魔法使いなんて最弱の職業よ」


あっ、子爵家の娘がトリガー引いたわ。

これ聞いて主人公がキレて模擬戦始めるんだろ、読まなくても分かるわ、テンプレだもん。

よし、邪魔しよう。とりあえずはテンプレ破壊だ。


「失礼。今魔法職は最弱の職業と言いましたね? 他に才能が無い者が仕方なくやる職業だと」

「え、ええ、言ったわよ。貴方誰よ?」

「本来はお忍びだったのですがね。変な事を言う子供が居たのでつい表に出てしまいました。

 私はこの国の公爵家の1つの当主の弟です」

「こ、公爵家?!」


この子供、デカイ声で言いやがった。

何で周知させようとするのだろうか? お忍びって言っただろ?

子爵家当主である父親も頭下げるな! 誰が見ても事実だってなるだろ?!

ほら~、周囲がわざわざし始めたじゃん……。子爵なのに無能か?!

もう良いや。このまま行こう。主人公の出番を潰す事は出来たし。


「魔法使いは最弱の職業ではありません。

 この場で言うのは少し違う事ではありますが、他に才能が無い者が仕方なくやる職業でもありません。

 その考え方は間違っています。もっと勉強しなさい」

「何故ですか?!」

「こらっ! 黙りなさい!」


おっと、娘よりも上の立場の人間にまで反論するか。

父親の方はまだ常識があるようで、娘を止めようとしているけど。

ここで「無礼者が!」とやってやりたいが、実際には俺は公爵家の人間ではないので出来ないんだよね。

なので寛大な心があるように振る舞おう。


「良いですよ、お忍びですので、無礼とか非礼とか思いませんよ。事実を教えてあげましょう。

 そもそも、魔法が使えるとして、何故戦闘職に就かなければならないのです?」

「えっ? だって魔法戦士って職があるし……」

「それは努力の結果です。剣を振るいつつ魔法を使うのが魔法戦士、つまり戦士兼魔法使いな訳です。

 剣だけを使う者を『他に才能が無い者』と言うのですか?」

「け、剣が使えるなら護衛の仕事が出来るわ!」

「なるほど。では魔法が使えるなら護衛の仕事が出来ない、だから最弱だと。やはり戦闘職が上位だと考えているのですね。

 貴方は護衛や兵士が上位職で、宿屋の仕事や治癒師、メイドや執事や料理人は下位職だと思っているのですね」

「え? あ……そ、そんな事無い! だって魔法関係無いじゃない!」


ちょっと気づいたようだが、まだ反論してくる。

まぁ、魔法の話だったもんな。


「全ての職で魔法が使えれば重宝されますよ? 何で魔法使いは無能扱いですか?」

「だ、だって! 使えないもの!」

「ほうほう、つまり貴方は使える魔法使いに出会ってないのですね。

 まぁ貴方の家が雇っている魔法戦士も魔法使いですが。まぁそこは良いでしょう。

 では、魔法使いは万能な所を見せてあげましょう」


これは主人公が模擬戦でやる事なのだが、俺がやりましょう。

主人公は俺を見て「魔法が衰退してる世界じゃない!」と認識してもらおう。

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