008 悪役令嬢

「し、しかし、事情を話せば父上も分かってくれるはずだ」

「事情、事情ねぇ……。ま、聞いてあげようか。ほら、話してみな?」

「イデアに対して嫌がらせをしていたのだ!」

「ふ~ん、詳しく聞こうじゃないか」


王子が話す内容は、くだらない、の一言に尽きる。

何故なら、ほぼ全てが男爵家の娘イデアの主観だからだ。


唯一違うのは、王子に「あまり他の女性と懇意になさらないように」と言ってきたというもの。王子に言わせれば嫉妬だとか。

これ、嫉妬とかではなく、常識じゃね?

婚約者が居る男が他の女とイチャイチャしてるの見たらどう思う? ダメ人間だと思うよね?

一夫多妻制だとしても、結婚もしてない内から妾というか側室を作ったらダメでしょ。


おっと嫌がらせの話だったわ。

え~と、何だったかな?

あぁ、教科書が破られていた、階段から突き落とされそうになった、周囲に悪口を言われた、等々。

それらを全部イデアから聞いたらしい。


「分かった分かった。もういい。王子の言い分は聞いた。では次はアリーシャに聞こうか。事実かい?」

「違います」

「嘘を付くな!」

「王子はうるさい。黙ってろ」

「な!」

「今は相手の反論を聞いてるの。お前が口を出してたら話が進まないでしょ。だから黙ってろって言ってるの。

 自分が正しい、俺は王子の味方をするに決まってる、そう思ってるなら信用して黙って聞いてろ。それとも不安なのか?」

「そんな事は無い!」

「なら黙ってろ」

「くっ……」


ほんと、いちいち面倒な王子だわ。

どんな教育を受けてきたんだろうね。

こんなのが王族って、俺が王なら幽閉して再教育するわ。


「では次にイデアに聞く。王子の言った事は事実か?」

「は、はい」


まぁそう言うよな。


「では次に、会場に居る者達に聞く。その場に居て目撃した者は居るか? 居るなら挙手してくれ」


何人かが手を挙げようとしている。

その前に釘を刺しておく。


「言っておくが、目撃だぞ。その場に居て声だけ聞いたとか、破られた教科書だけ見たとか、そういう曖昧なのは却下だからな。

 私が言ってるのは、アリーシャが教科書を破っている所を見たとか、アリーシャがイデアに対して何かをしてる所を見たとか、そういう事だぞ。

 ついでに言えば、王子や公爵家が関わっている事案だから、嘘を言えばどうなるか…………分かるよな?」


うん、挙手をする者が居なくなったね。

分かってた事だけど。


だってラノベを読めば分かるけど、結局はイデアの狂言だもん。

ぜ~んぶ自作自演。

ついでに言えば、この娘は他国のスパイみたいな立場。


「第三者による証拠や証言は無しか」

「な、何故だ! お前達も共感してたじゃないか!!」

「わ、私が嘘を言ってると言うのですか?!」


王子は他の参加者に文句言ってるし、イデアは嘘泣きを始めた。そして参加者達は目を逸らしている。

王子に取り入る為に共感してたんだろうな。もしくは洗脳みたいな感じ。

王子よりも権力のある王様の側近(という設定)の俺に言われて反論しにくかったり、言われて「そう言えば変だな」と感じたんだろうか。


ところで、肝心の主人公であるアリーシャだけど……こっちも悔しそうな顔をしている。

うん、分かるよ。物語的には婚約破棄してくれないとダメだもんな。

話通りに進めば、低能の王子から離れられるし、出会ってたイケメンの他国の王子とハッピーエンドだもん。

それを全て邪魔してる俺。婚約解消出来ず、下手すればこの王子と結婚しなきゃいけない。


ちなみに物語通りに進むと、イデアの作戦が成功して、この国はイデアを送り込んだ国により占領されるんだよ。

王や王子は処刑され、国民はクーデターに参加したり内戦に駆り出される。多数の死者が出てるだろうが、この辺は書かれてなかったので不明。

「国は乗っ取られました。王族は処刑されました。内戦が続いています」くらいしか書かれてない。“ざまぁ”を演出したかったんだろうな。

つまり主人公は、このままだとイケメンとも恋愛出来ず、アホと結婚してポンコツの国を支えなきゃいけない。


……読者からしたら、そっちの方が面白そうだ。

是非とも現代知識でも使って国を発展させてください。

あっ、この主人公、転生前は普通のOLだったわ。現代知識無双は無理か?

いや大丈夫! 何故か異世界に行く一般人はポンプの作り方とか知ってるから! 頑張れ!


「さて、どうやら冤罪とまでは言わないが、何やら誤解や流言やすれ違いがあるようだ。ついでに言えば王族や貴族としての心構えも怪しい。

 通っている学校に問題がありそうなので、そっちにもテコ入れするとして、王子とアリーシャとイデアは陛下の前で再度話し合うとしよう。

 当然だが、全員の親も呼ぶし、事実関係を細かく調べる為に学校関係者も呼ぶ事とする」


そうなんだよ。学校にも問題がある。

お前ら、何を勉強してんだ? ラノベによるとそこは王侯貴族しか入れない学校じゃないか。

王侯貴族としての振る舞いや考え方とか学べよ。アホしか生産しない学校なら不要だぞ。




って事で、やってきました、王城です。

イデアをフリーにさせると他国に連絡される可能性があるので、あのまま連れてきました。

ついでに主人公もイケメン王子に会うかもしれないので離れないように一緒です。

当然王子も一緒。そうじゃないと城に入れないからね。


警備してる兵士には「私は王子の従者、王子が陛下に大事な用があるそうだ。取り次いで欲しい」と伝えました。

実はノープランです。どうしよう?!


王様にあった時に何と自分の立場を説明すれば良いんだ?


…………王よりも立場が上になるしかないな。うん、やはりここは神の使いで行こう。事実だし。



ほどなくして、謁見の間のような所に通された。

よく見るタイプのだ。左右に柱があり、中央には赤絨毯が引かれていて、その先にある一段高い所に王様が座っている。

王の横には偉そうな人が立っている。宰相と言われる人かな? 左右には貴族っぽい人達と兵士が並んでる。

主人公とイデアは顔を伏せて礼を取っているが、王子と俺は立っている。

本当は俺も礼を取るべきだが、立場が上って作戦で行く気なので、ビビりながらも立ってる。


「クラムよ、何事だ? その人物は誰だ?」


第二王子ってクラムって名前なのね。流し読みしてたから知らなかったわ。

おっと、それどころじゃない。王子に喋らせるとややこしいので、俺から発言しなきゃ。


「彼らには王の使いと説明したが……実は私は神の使いだ」


あれ? 誰も納得してくれないな。

それどころかザワザワしてるし、兵士は武器に手をかけてる。ヤバい?

えっと、えっと、何か能力で神の使いっぽさを演出しなきゃ!


主人公よりも上の能力を得られるって話だったけど……この主人公はたいした能力持ってないし!

どどど、どうしよう?

“ページ飛ばし”を使おうにも、現状のページが存在しないので、未来に行っても過去に行っても意味無いし!

後は“アイテムボックス”と“転移”のみ!

アイテムボックスに入ってるのはキャンプ道具と食料と水しかないので、役に立たないな。

当然のように魔法のある世界なので、アイテムボックスじゃあ驚いてくれないだろうし、LEDランプ出しても魔法と思われて終了。

となれば転移しかないか。


「私は空間を自由に出来る。過去にも行けるし未来にも行ける。だがそれをここで披露しても誰も信じないであろう。

 なので瞬間移動を披露してやろう。その能力を持って私を神の使いと信じるが良い。

 もし、そこまでやっても信じぬのであれば諦めて帰るが、その場合この世界はどうなるのだろうな?」


脅迫みたいになったけど、本来のラノベのストーリーに戻れば、少なくともこの国には不幸が訪れるので、嘘とは言えないでしょ。


って事で、俺は謁見の間を10回ほど転移してみせた。

最後の1回は王の座る椅子の後ろに転移してやった。


「今のでわかったであろう? もし私が他国の間者であれば、先程王を殺害する事も出来た。

 と言うか、この場に居る全ての人間を殺す事も出来た。それをしないのは何故か。間者ではないからだ」


さあどうだ? 信じたか?


……うん、疑いの目はまだあるけども、少なくとも話を聞く姿勢にはなったようだ。


全員の代弁者として、宰相?が質問するようで挙手している。


「それで神の使いである貴方は、何をしに来たのですか?」

「この国の未来に不幸が訪れるので、それを救いに神が私を送り込んだのだよ」

「ふ、不幸ですか? それは穏やかではないですね……」

「信じなくとも良い。だが信じて行動しても損は無い話だ。しっかりと聞くが良い」

「わ、わかりました」


俺はここぞとばかりに、全てを話してやった。

王子のアホさ、学校の役立たずな所、他国の狙い、スパイのイデア、無能な貴族の子供達、この手のラノベにありそうな設定の不備全て。

中には関係無いのもあったかもしれないが、ぶっちゃけたかったんだ。後悔は無い。


あぁ、ただ1つだけ言わなかった事がある。

それは主人公の事。転生者とバラさなかったし、イケメン王子と出会って他国に行きロマンスってのも言わなかった。

ここからこの国で活躍するのが主人公なんだ、他国に逃げられちゃ困る。頑張って立て直して良い物語にしてくれ。

俺は言うだけ言ったから帰るから。


酷いとか思わないでくれよ、俺も被害者なんだ。

文句があるならラノベの作者にお願いします。

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