007 作業途中はダメ!

2日後。動画の編集作業をしていると本の世界に飛ばされた。


休みが必要という俺の言葉を汲んで、2日後にしてくれているのは優しいと思いますよ。

でもね、編集作業の最中に飛ばすとか、鬼ですか神様!

誰にでも分かるように説明すると、LINEの返信を入力中に授業や仕事が始まってしまい、それらが終わった後に続きを入力するようなものですよ。

何を書こうとしてたか思い出しながらやり直さなきゃいけない。超面倒!


これは後で絶対に神様に抗議してやる。




気を取り直して……で、今回はどんなラノベですか?


って、ここは……舞踏会? それとも会食?

ようわからんけど、貴族の子供ばかりが居る華やかな場所っぽい。

あ~、なんか嫌な予感がしてきた。これ、女性向けのラノベでしょ?

いわゆる悪役令嬢とかのやつ。

まぁ、書籍を読んでみるか。



はい、読みました。読んだ事のあるヤツでした。

えっ? だったら題名で分かるだろって?

無理ですよ。どれもこれも「最強」とか「悪役令嬢」とか「婚約破棄」とか「伝説の~」とか「無能」とか「無双」とかばっかじゃん。似すぎて判別出来ん。

それにタイトルが長すぎる!

『最強の魔術師 ~追放されたけど拡大解釈魔法チートで成り上がってざまぁしてハーレム作って金儲けしてウハウハ人生~』

みたいな長いサブタイトル要らんわ! それ見ただけで全部のストーリーが分かるから読まなくても良いよね!ってなるくらい長いわ!


おっと、誰に怒っているのだろう、俺。

気を取り直して……これはアカンやつだ。

ゲーム世界で婚約破棄されるパターンのだ。


要約すると……

貴族の子供達の成人の儀の場で、公爵家の娘が第二王子に婚約破棄を言い渡される。

第二王子は男爵家の娘に惚れてて、その娘は影で公爵家の娘の悪い噂を流してた。

公爵家の娘は後日他国の王子に見初められ、そっちと付き合う。

その他国の王子は、実は市民のフリをして街に出てて、そこで公爵家の娘と出会ってた。


って感じ。

うん、テンプレ過ぎて読んでも頭に残らんわ。


まぁいいや。

どうせ今から断罪が始まり、婚約破棄するんだろ。


しかし、困る点がある。

ここは成人の儀の場。俺は32歳。周りは成人した貴族の子ばかり。

はい、場違いです。親とかも居ません。大人は給仕係か護衛の兵士だけ。

え~と、どうやって介入しろと?


幸い、過去3回もそうだったのだけど、現状周りの誰からも認識されていない。

多分だけど、俺が喋るまでは認識されないのではないのだろうか?

さっきもテーブルでラノベを読んでいたのに何も言われなかった。

ほら、今も歩いて物語に出てきそうな階段(登ったら左右に分かれてるヤツ)を登ってるが誰にも咎められない。

よし、このままそこら辺に隠れててイベントが起きるのを待とう。



「アリーシャよ! 俺はお前との婚約を破棄する!」


お? 始まったな。


「アリーシャがイデアに対して嫌がらせを多々した事は既に分かっている!」

「そのような事実はありません」

「嘘をつけ!」


アリーシャと呼ばれた公爵家の娘は毅然と反論してるな。

まぁどうせ中身は転生者なんだろうけど。

さて、介入しますか。


「話は聞かせてもらった!」

「お前は誰だ?! 何故壺の中から出てきた?!」


いや、壺しか隠れる所が無かったんだよ。

階段の踊り場に置かれてて、丁度良かったんだよ。

まさか第二王子が踊り場で、公爵家の娘が階段の下に居るとは思ってなかったんだよ。


壺の件は流して、話を進めよう。


「私は陛下に仕える、この国の隠密。結構な権限を与えられているので、あまり反論しないように」

「な、なんだと……?!」

「陛下に仕えているので、王子相手だろうと色々言えます。それくらいの権限を持ってます。ええ、持ってますとも」

「そ、そうなのか……」


あっ、信じるんだ。

ってか、王子以外の貴族の子供達も信じてるわ。

“ペテン師”の力が凄いのか、バカばっかりだからなのか、不思議だね!


「私の事はピーと呼んでくれたまえ」

「ピ、ピー?」


ペテン師のPですよ。

あまり伸ばして呼ばないようにね。禁止用語言ってるみたいになるから。


さて、中身が転生者の公爵家令嬢には悪いが、婚約は継続してもらおうか。

まぁ王子がアホ過ぎるので、破棄する事にはなるかもしれないが。


「陛下に話を持っていった所、王子に伝える事がありますとの事でしたので、私が代弁します」

「父上に?! いつの間に?!」

「今です、今。私は優秀なので、一瞬で行って返答を貰ってきました」


嘘です。貴方の父上は何も聞かされていません。

後でちゃんと話はしに行きます。事後承諾させます。


「陛下の言葉を伝えます。『お前、何勝手に婚約破棄とか言ってるんじゃ! イテコマスぞ、ワレ!』です」

「い、いてこま……われ…………何?」

「約すと、『勝手な事するな、王族から追放するぞ?』です」

「な、何?!」


すみません、心の声が漏れてしまいました。


「分かりやすく説明するとですね、陛下が決めた婚約な訳です。それを陛下の許しも無く、勝手に破棄とか許される訳ないでしょ?って事です。

 王子は陛下の決定を覆せるほど偉いんですか?って事です」

「……!」


おいおい、王子様よ、言われて気づいたのか?

周囲の貴族の子達もざわざわしてるな。聞こえてくる声には「陛下の許可が無かったのか?」ってのと「何故破棄に反対なの?」ってのが半々。

つまりバカが半数は居るって事か。こいつらが次期当主とか国の要職に付くの? この国終わりじゃね?

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