006 3つのお告げ
教会に居る人達が驚いている間に、俺は像から降りる。
ヨタヨタと降りたが、誰もそれどころじゃ無いようだったので、助かった。
だが、降りるとすぐに神官っぽい人が駆け寄ってきた。
「か、神はなにゆえにそのような事を……?」
あぁ、理由を知りたいのね。
ってか、普通は分かるだろうに。
さすが全世界に知能デバフをかけられているだけはある。
「それも分からないとは嘆かわしいな。では教えてやろう。細かい事はおいといて、大体が3つの事に集約される」
「み、3つも……ですか…………」
「まず1つ目。今お前達がやっているのは『神器鑑定の儀式』だな?」
「は、はい、その通りですが」
「鑑定してねぇじゃねぇか! 『貴方はこれを授かりましたよ~』って言うだけじゃねぇか!」
そうなのだ。
何故か神像の前には宝箱みたいなモノがあり、儀式に参加する若者がそれに触れると、その中から神器が出てくるといった仕組み。
で、出てきたモノの名前を全員に発表するだけ。
「出てきた神器を鑑定して『この神器は~~の効果があります』とかやるのが鑑定の儀式ってもんだろう?」
「い、一応やっておりますが、毎年出るモノをいちいち説明するのも……」
「そもそもだな、何で公開でやってるんだよ。個人が授かるモノだから、公開する必要は無いだろうが」
「……そこは国からの要請でして…………」
「へ~、この国は神よりも国の方が偉いんだ?」
「そ、そういう訳では……わ、分かりました、来年から個別でやるように致します!」
「おう。で、ちゃんとその時に鑑定結果を詳しく教えるんだぞ?」
「は、はい!」
公開でやるのは、単純に“作者の都合”なんだろうな。
ショボい物を貰った主人公を晒し者にしたいから。そして比較対象のヒロインとかモブが良い物を貰って称賛されてる所を見せたいから。
「2つ目は重要だぞ」
「じゅ、重要ですか……」
「そうだ。これはお前だけではなく、全人類に伝える事だが」
「全人類?!」
「そうだ。何でお前らは神から授かった神器に優劣を付けて称賛したり貶したりしている?
神からの授かり物だぞ? どんな物でもありがたがるべきだろう!」
「!!」
神官っぽい人は気づいたようだ。
そうなんだよ。神から与えられし物に優劣を付けるって普通に考えたら失礼だよな。
「ここには貴族も居るようだから質問しよう。
この国の王の前で、王から安物の剣を貰った者が居るとしよう。
お前達貴族は、その場で『あいつ、安物の剣を貰ってるよ、プークスクス』とか言うのか? 貰える事自体が名誉であるのに? 貴族の誰か答えてみよ」
「「「…………」」」
会場は静かになった。
どうやら全員が気づいたようだ。
誰も答えてくれないようなので、主人公の父親を指名してみよう。
「オーランド家の当主よ、答えてみよ」
「わ、私ですか?!」
「そうだ、お前だ。今息子のゲイルが木剣を授かっただろ? それについてどう思っている?」
「……………………ありがたく思っております」
長い沈黙の後に、絞り出して答えたなぁ。
まぁ良いや。言質は取った。
「ふむ。では木剣を貰ったからといって勘当にしたり家から追い出したりしないだろうな?
もし、万が一、そのような事をしたら、神から授かった物に優劣をつけているという事で、今後二度と人類に神器を授ける事は無くなると思え」
「そ、そこまでですか……い、いえ、そのような事は決して致しません!」
まぁそんな事は俺には出来ないんだけどね。
こう言われて実行出来るヤツはいないだろう。
全人類が今まで享受してきた事が、自分の行動で終わるかもしれないんだから。
「ついでに聞いておこう。ゲイルよ、お前はその剣について説明を受けたか?」
「い、いいえ、説明は受けておりません」
説明“は”受けてない、ね。
そうだろうな。書籍によるとゲイルは転生者で、ここはプレイしてたゲームの世界だと知っている。
そして貰った木剣がレアアイテムと知っているのだ。
だから“説明は受けてない”という答えになる。説明されてないけど知ってるよ、って事。
「神官、何故鑑定して説明しない?」
「……そのような木剣を授かった者が今までいませんでしたので…………」
「つまり分からないと? それでは鑑定では無いだろ。それに、未知の物が出たのに『知らない木剣ですね。はい帰って良いですよ』とするのか?
常識的に考えれば『未知の木剣が出ました! それが何か調べるので協力をお願いします!』となるのではないか?」
「……!」
考えた事も無かった!って顔してるわ。
作者による知能デバフ恐るべし! 常識も無くなる。
「ではゲイルに協力してもらい、どのような力を持つのか調べるように。勿論協力して貰っている間は滞在費用等を支払うように」
「……貴方様からお教えしてもらう事は出来ないのでしょうか?」
「愚かな。今回はたまたま私が居るが、いない時はどうする? 今後も知らない神器が出てくるかもしれないだろ?
それに最初の頃は知らない物ばかりだったはず。それを調べる手順もあったはずだ。何故やろうとしない? 本部?に問い合わせろ」
「は、はい! 失礼しました!」
理解してくれたようだ。
ま、今後の展開としては、主人公が隠れて木剣の力を使って楽するのを知ってるので、それの邪魔くらいしておくか。
「理解したようなので、今回だけは特別に少しだけ教えてやろう。その木剣は植物を操作出来る力を持っている」
「おおっ! そのような力が!」
「おい、オーランド当主。今『戦闘に使えないのか、不要だな?』と考えただろ?」
「い、いえっ! そのような事は決して!!」
知ってるんだよ、貴族なのに何故か戦闘力が必要っていうラノベ特有の謎システムを。
貴族が一騎当千の力を持ってどうすんだよ、普通は指揮能力とか分析能力とかをありがたがるだろ、っていうツッコミが入らない不思議。
「植物を操作出来るのだから、根を地表に這わせて行動を阻害したり出来るぞ。それも戦闘だ。
戦闘力重視のようだからついでに言っておく。
3つ目だ。当たり前だがどのような能力も戦争となれば重要だからな。
水を発見出来るだけ、種火を付けられるだけ、など、ショボいと思っても行軍では重要な仕事になる。授かった神器による力をバカにする事は許さん」
全員が理解したようだが、主人公だけ不服そうな顔をしてる。
まぁね。ゲーム内だと話は別だからねぇ。
例えるならドラ○エ。魔法のホ○ミが使えます、となってもレベルが上がったらベ○イミが使える方が重要。ホ○ミしか使えないなら不要となる。
でも、現実では回復量は違うがどちらも回復出来る事には変わりはない。ホイ○しか使えないんだ~ってバカにするヤツは居ない。
最後にもう1つ主人公の行動の邪魔をして帰るか。
主人公にとっては重要で、この話の肝となる部分だけど、独占して良い事じゃないから。
「理解したようだから、脅すだけではなく良い事も教えてやろう。
この街の近くにあるダンジョン、ダンジョンがあるのに何で近くに街作ってんだよ!というのはおいといて。
そのダンジョンの行き止まりと思われている所の壁は壊せる。そしてその中にはモンスターの来ない地底湖が存在する。
ゲイルの授かった木剣があればその道が開けるであろう。試してみよ」
主人公を優位を消すお告げを残して、俺は転移して家に帰った。
あの場所を主人公はホームとして、木剣の力で農業するからね。木剣に頼らずちゃんと働け、主人公。
しかし、自分で帰る、これが当たり前なんだよ。神様による強制転移の方がおかしいんだよ。
しかも今回はすぐに終わらせたし、良い事ばかりだね!
あの世界がちゃんと変わったのかは分からないが、そこは後日書籍を読んでみようと思う。
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