004 荷物持ち兼治癒魔法使い

「俺たちは『三角』っていうパーティーで、自分はリーダーのジャックです。こっちが魔法使いのディネ、こっちが槍使いのシルク。で、こいつがエラです」


おっと説明口調だね。そういうラノベなのかな? まぁ助かるけど。

つまり4人でパーティーを組んでいるって事か。

で、危険な所で戦うのにつばの広い三角帽子を被ってる防御力ゼロなのが魔法使いのディネで、槍の刃の部分に不便そうな装飾がされている槍を持ってるのがシルクと。

リーダーのジャックだけはちゃんとアーマー着てるな。その格好で酒場に来るのはどうなんだ、とは思うが。

エラってのが今からクビになる主人公ね。了解了解。


「自分は職員の拓人。タクトと気軽に呼んでくれ。で、何度も聞くけど何を揉めているんだ?」


揉めてる事情を聞いたのに、自己紹介をしてくる謎。不安になってきた。


「い、いえ、こいつがあまりにも役立たずだからクビにする所だったんです」

「ふむふむ。ではエラと言ったかな? 君の言い分は?」

「自分は荷物持ちをしています。ちゃんとパーティーに貢献してる!」

「なるほどなるほど」


よくある話だ。

俺的には大体2パターンに分けられる。

1つは自分の能力をパーティーに隠して発揮してるパターン。

もう1つは追放後に能力に目覚めるパターン。

どちらも決まってるのは、後に追放したパーティーに“ざまぁ”させる事。

今回はどちらのパターンかな?


「エラだっけ? 落ち着きなさい。ほら座って。では、自分が双方から話を聞く。不快な事を聞くかもしれないが、そこは我慢してくれ。話が進まなくなるからね。どちらも良いね?」

「は、はぁ」

「話しても無駄だと思うけどね」

「まぁまぁギルドの顔も立てようじゃないか」


魔法使いと槍使いがうるさい。お前らはモブなんだから黙ってろ。


「ではまずリーダーのジャックに聞こう。エラはどう役立たずなんだい? “役立たず”だけ言われても誰も納得しないだろう?」

「戦闘中もウロウロするし、荷物の入ってるリュックを汚すし、戦闘に加わらないのに意見は言ってくるし、治癒魔法しか使えないし」

「そんな事は!」

「はいはい。エラは黙ってて。今こっちから話を聞いてるから。そうやって邪魔すると心象悪くなるよ」

「ぐっ……」


多分だけど、これは能力を隠してる系だな。治癒魔法ってのがキモと見た。


「じゃあクビ……そもそもパーティーを辞めさせる事をクビって言うのか? 雇ってるのか? まぁそこはいいや。

 クビにした後は、どうするつもりなんだい? まずは荷物の事から聞こうか」

「荷物ですか? 自分達で運びますよ」

「あっ、荷物持ちを雇う訳じゃないんだ? じゃあ邪魔な荷物を持っていきなり戦闘になるような場所に行くつもりか~。

 それって急襲されたら荷物が邪魔して動きを阻害しないか? 勝利したとして、その後は戦って疲れててもまた自分達で運ぶんだろ?」

「そ、それは……確かに。なら荷物持ちを雇いますよ」

「だったら現状と大して変わりはないね。確かにウロウロしたりリュックを汚すのは問題だけど、そこは改善の余地があるね」


戦闘中にウロウロするのは多分だけど能力のせいだろう。何かをこっそり使ってるんじゃないの?


「次に意見言われるのがムカつくって話だけど……これは後回しにしよう。治癒魔法の話だね。治癒魔法無しで、戦闘に行くつもりかい?」

「いや、ポーションがあれば問題無いですよ?」


こいつ頭大丈夫か??


「戦闘中に怪我したらポーション飲むの? その間、敵は待ってくれるの? さっき荷物の話をしたけどさ、大量のポーションって荷物だぞ?

 そもそも、ポーションもタダじゃない。治癒魔法ならタダみたいな物だけど、それをポーションに変えるの? どれだけ金持ちなの?」

「あっ? えっ? でも…えっ?」


言われてやっと気づいたようだ。

魔法使いも槍使いも、確かに!みたいな顔してる。

作者の強制力ってすげーな。疑問に思わせてないんだもん。


「荷物持ちを雇うお金と、ポーション代。両方合わせた金額と、エラに支払う金額、どっちが得かな?」


そう言ったら黙り込んじゃったよ。

じゃあ次はエラの話を聞くか。


「次はエラ、君の番だ。リュックを汚したから怒られてるってのは理解出来るね?」

「でもそれはモンスターから隠れる為で!」

「中には君達の食料や水が入っているんだろう? 汚したらダメなのは分かるよね? 荷物持ち兼治癒担当なら、それくらい考えて行動しようか」

「で、でも……」

「なにより、君は皆に黙って何かしてるだろ。そうじゃないと戦闘中にウロウロする訳無いからね」


俺の言葉を聞いて全員がこっちを見た。

エラは何故知ってる?!って顔で。他のメンバーはマジで?!って顔で。

分かれよ。疑えよ。そして聞けよ。そして言えよ。


「……戦闘中にも治癒魔法をかけてました」

「それは本当に治癒だけ?」

「そうです」

「治癒と称しながら、他の効能は無い?」

「えっ? 各能力が少しだけ上がるけど、それって治癒魔法では当たり前ですよ?」

「と言ってるが、魔法使いのディネ、そこはどうなの?」

「…………聞いた事無いわ」

「という事はだ。君は戦闘中に各能力が上昇する治癒魔法という名の別の魔法をパーティーメンバーに使う為に戦闘中にウロウロしてた。

 勿論戦闘中に受けた傷や疲労も治癒魔法で回復させていた。そういう事だね?」

「そうですけど……でもそれは普通じゃないですか!」


出た! 主人公の勝手な“普通”理論!

何も言わずに勝手に“普通だから”“当たり前だから”と決めつけ、メンバーにも言わずにやって怒られる。


「さて、今回の件だけど。3:7でエラが悪い」

「何でですか!」

「勿論パーティーメンバーに何も言わないからだよ。例えるなら「クエスト先で偶然拾った石が実は高価な宝石で、それを売却して儲けた事を皆に黙ってる」ような感じ。そいつには腹が立つだろ?」

「そんな事しません!」

「だから例えだって言ってるだろ? 仲間なんだから黙ってるのは良くない。

 ついでに言えば、独学で勉強したのかもしれないけど、勝手に普通とか思うのはやめなさい。折角魔法使いが居るんだから相談しなさい。

 そういう事をせずに意見だけ言われるってのはイラっとするから。君が能力上昇かけてるのに『ちゃんとしろ!』って言われてイラッとするのと同じ」

「……」

「こっちのパーティーメンバーも悪いからね?

 何でウロウロしてるのかとか、ちゃんと相手に聞きなさい。決めつけたりしないように。

 後、もっと計画性を持ちなさい。荷物持ちや治癒魔法が無くなったらどうなるのか、不便じゃないのか、少し考えたら分かるでしょう?

 分からないなら、一度簡単なクエストをエラ無しで受けてみたら良い。エラの貢献度が理解出来るから」

「……」


双方黙り込んじゃった。

ってか、酒場全体が静かになっちゃった。

客の全員が冒険者だったのか。皆下向いてる。能無しばかりなのかな?

まぁ日雇い肉体労働者みたいなものだもんなぁ冒険者って。

でも個人事業主でもある訳だから、もっとちゃんと考えないとダメだよ?

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