002 ラース

10分後。

何故か使い方を知ってたアイテムボックスに色々詰め込んでたら、森の中に飛ばされた。

う~ん、現実世界と変わらない。


主人公の近くに送るという話だったが、出会う前にやる事はたくさんある。

まずは能力の確認だ。


アイテムボックスは使ってるから問題無い。

これは目の前にデカい段ボール箱が出る。その中に入れるだけ。出すのも同じ。

出したい物を考えるだけで出てくる、なんて夢のような物ではなかった。


ページ飛ばしは、頭の中にある知識によると、アイテムボックスに入れられている書籍と連動しているらしい。

行きたいページを開いて、そこを指でトントンとすれば行けるようだ。

しかしクソ小説のコミカライズ作品を知りながら読まなくてはいけないのは苦痛だな。まともなコミカライズ作品に行きたい。


転移の使い方も何故か頭の中にある。強制インストールされたんだろう。

行きたい場所を思い浮かべて「転移」と言うだけ。

試しに目の前の岩の上に転移してみたが上手く行った。

帰りたい場合は、家を思い浮かべるだけ。靴を履いているので、玄関を考えるのが正解だろうな。


ペテン師は自動的になるようなので、誰かと会話しなきゃ確認のしようがない。




さて、まずは書籍を読む事から始めようか……と思ったけど、何か音がするなぁ。

そうか、主人公が居るのか。…………しょうがない、向かいますか。


音がする方に向かうと、そこには洞窟があった。

その前に一人の若い男が座っている。アレが主人公かな? 洞窟の前に座って何やってんだろ?


「やったぜ! やっと初歩魔法を覚えたぜ! これで入学出来る! 俺って使えない魔法ばかり覚えてるからなぁ……」


うわ、独語してるよ! キッショ!

う~ん、喋りの内容からしてこれは勘違い系かな? 厄介だな、常識を教えなきゃいけないのか。

こういう世界って、世界全体が低能だからなぁ。大変だぞ?


面倒だけどしょうがない、行くか。


「やあ、こんにちは」

「誰だ?!」


いきなり剣を抜いて警戒された。

おい神様、相手を上回るチートをくれてもさ、剣持ってる相手に素手ってのはどうだろう?

剣くらいくれてもよくない? いや、対人戦とか出来ないけどさ。ってか動物相手でも無理だけど。現代人には喧嘩すら無理だって!

くそっ、どうすれば良い?


そうか、自分がやられた事をやれば良いのか。


「あたしゃ神だよぅ」

「ウソつけ! そんな神が居るものか!」


スベった……。

だ、だが、こんな事ではくじけないぞ!


「いや、これがマジ、本当なんだって」

「信じられるか!」

「では証拠を見せてやろう」


そう言って俺はアイテムボックスを出し書籍を取り出す。

これだけでもすごかろ? 信じても良いんやで?


書籍のあらすじページやキャラクター紹介ページを開き、そこに書かれている情報を読む。


「お前の名前はルース。現在15歳。今、初歩魔法のステータス魔法を覚えたばかり。両親が行方不明になったダンジョンに挑む為に探求者学校に入学しようとしている。

 その為にこのダンジョンで修行をしてた…………ダンジョンに挑む為にダンジョンで修行?! 意味わからん!!」

「な、何故、俺の事を知ってる?!」

「そりゃ神だからだよ。この神の本には何でも書かれてるんだ」

「じゃ、じゃあ、それには両親の事も書かれてるのか?!」

「いや、お前の事が中心に書かれている。両親の事は作者が書いてない……じゃなくて、設定されてない……じゃなくて、他の本に書かれてるんだ!」

「?? よく分からないけど、そ、そうなのか?! その本は?!」

「今は無い。お前に会う為に来たんだから持ってきてない」

「持ってきてくれるのか?!」

「いや、お前に用があって来てるから! ってか、作者はそんな事まで考えてないわ!」

「さ、作者?!」

「作者ってのは………………この世界を作った神の事だよ! とにかくお前の話をさせろよ!」

「いや、大事なんだよ……」

「ってか、俺、お前より年上だよ?! ついでに言えば神だよ?! 敬語使えよ!」

「探求者は敬語を使っちゃいけないんだ、知らないのか?」

「アホか! もしそうだとしても、TPOというか使う場面とかあるだろ? 常識で考えようぜ?

 って、そう! お前には常識を教えに来たんだ!」

「な、なんでだ?! 俺は常識あるぞ?!」


無い無い。基本的にクソラノベの主人公は常識が無い。

下手すれば世界自体に常識が無い。


「じゃあ問題! デデン!

 的が5個あります。それに魔法を当てる試験が学校で始まりました。貴方はどう攻略しますか?」

「そんなの簡単じゃないか。ファイヤーバーストを撃てば全部の的を同時に壊せるぞ。まぁ俺の魔法じゃあ威力は弱いかもしれないけどな」

「はい失格~。常識無~し」

「何でだよ!!」

「お前、一人暮らしだよな。肉切る時に包丁使うだろ?」

「当たり前じゃないか」

「今、お前が使った魔法はな、その手にしてる剣と同じなんだよ。肉切る時にその剣で切ってるようなものなんだよ。

 的が5個あるってのはな、全部壊すのは前提として、個々を最適な威力で正確に撃ち抜けるか、って試験なんだよね?

 それをデカい魔法を使って全部を同時に壊す? 常識が無いって言われてもしょうがないと思わないか?

 しかも学校だぞ? 何故か町中にある探求者学校。そこでファイヤーバーストを撃つ? 危険だと思わないか?

 思わないって言うんなら、俺がお前の家の前で練習と言ってぶっ放すからな? 危険だと思わないんなら大丈夫だよな?

 そもそも、もしかしたら崩れるかもしれないダンジョン内で、デカい魔法を撃つな」

「…………」


どうやら反論も出来ないようだ。

少しは理解してくれたみたい。理解する知能はあったのか、良かった。ペテン師の能力のお陰かもしれないけど。


「そうそう、最初にもツッコんだけどさ、ダンジョンに挑む為に探求者学校に行く必要無いから。だって今、ダンジョンに挑んでんじゃん」

「何故だ! 行かなきゃ認定がもらえないだろ?!」

「認定に意味が? ダンジョンに入るのに必要ってのなら分かる。でも現状ダンジョンの前に居るけど誰にも止められないぞ?」

「認定が無いと侮蔑されるんだ!」

「認定持ってるヤツよりも実力があれば侮蔑なんかされないわ。入学費用もダンジョン攻略して稼いだ事も知ってるぞ。

 それを売る時に侮蔑されてなかったよな? そこは表記が無いが、されてれば買い叩かれてたとか言ってるはずだもんな。

 つまり探求者だけの決まりってか慣習なんだよ。んなもん無視してりゃいい。

 そもそも、学校に行くってのは習いに行くって事だ。攻略で習う事なんかもう無いだろ。

 お前が行かなきゃいけない学校は、探求者学校じゃなくて普通の学校だね。常識を習いに行け。ダンジョンの攻略なんか習わなくても今やってただろ?」


ダンジョン攻略を習いにダンジョン攻略してた人間が行く。

1~2日で卒業だろ。学校じゃなくて講習というべきかな?

少なくとも初心者と一緒に勉強する必要はない。


ルースは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

理解はしたが納得出来てないって感じかな。

まぁ言う事を聞くようになってくれればそれで良い。常識を教えるだけだ。


たださぁ。凄い疑問というか矛盾?

これで入学しなくなったとしよう。その場合、いわゆる学園編ってのが無くなる訳で。

常識がある普通の人間になったら、無自覚無双も出来ない訳で。

この小説、大丈夫かな?

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