ラノベの世界は大変です

@okosamalunch

001 本の神様

真っ暗な世界。

動画サイトに掲載する為に編集作業をしてたはずなのに、何で自分はこんな何も見えない所に居るのだろうか?

最初は停電かと思ったが、ポケットに入れてたスマホも反応が無いし、何より椅子に座ってたはずなのに立っている。


「磯部拓人よ」

「誰だ?!」

「私は本の神」

「本の紙?!」

「違う違う、紙じゃなくて神。“か”にアクセント付けろ」


どこからともなく声が聞こえてくる。

反響してるのに何故か耳元で聞こえているような……そんな変な聞こえ方だ。


「よく聞け。近年、ラノベという小説が流行っている。アニメ化もするほどだ」

「それは知ってますけど……」

「反論は後にしろ。そのラノベだが、クソな作品が多すぎる。しかもクソな作品ほど商業化する」


う~ん、反論しにくい。


「そのせいで異世界の神から抗議された」

「ちょ、ちょっと待ってください! さすがに反論させてくださいよ! 何で異世界の神様から抗議されるんですか?!」

「全ての世界で魂は輪廻する。その時、極稀にやたら強い意志を持った魂が現れるのだ。そういう魂に限って『異世界転生! チート!』とうるさいそうだ」

「稀なら良いじゃないですか」

「ウザいので嫌なんだそうだ。まぁそういう魂は輪廻に乗せずに処分するらしいが」


怖い!


「で、でも処分するなら問題ないのでは?」

「極稀で処分するだけだとしてもウザいそうだ。しかも私の責任とまで言い出した」

「そうなのですか?」

「違う! だが、あちらの方が上位神。言い返す事も出来ない」

「あ、力関係あるんですね……」


神様の世界も世知辛いなぁ。


「そこで磯部拓人よ、お前に白羽の矢を立てた」

「え~と、何も繋がりが無い気がしますが……」

「動画サイトにクソ小説コミカライズの紹介を掲載しているだろ? 見てるから知ってるぞ」


神様が俺のチャンネルを見てるとは……。


「そこで、クソはクソをちゃんと分析して言っている。そういうお前ならクソを正しく出来るであろう」

「まぁ、無理な設定とかにはツッコんでますけど」

「お前を本の世界に送る。そこでクソを修正してこい」

「……え~と、何を言ってるんですか? 作者の頭を正すとか、編集の人間をまともにするとか、そういう方法が確実だと思いますけど?」

「私は本の神。そういう事は無理だ」

「そういう事が出来る神に頼んでは?」

「そちらも上位神だ。無理だ。下手すれば逆ギレされ私の評価が下がる」


上司と部下の関係なのか?


「し、しかしですね! それだと生きている自分を本の世界に送り込むのも問題があるのでは?!」

「そこは大丈夫だ」

「根拠は?」

「バレなければ良い」

「それ、根拠じゃない! 犯罪者の発想!」

「本の世界に入っている間はこちらの世界の時間は経過しない。行って戻っても経過時間はゼロ。ほらバレないだろ?」


それでバレないと言い切れるのが凄い。

神様の力を知らないけど、本の世界に送り込める神様の上位の神様でしょ? 見破れるんじゃないの?


「いくらお前が反論してももう決定事項なので、あしからず」

「け、決定?! じゃあ俺は今から送られるんですか?!」

「その通り」

「そこで何をしろと言うんですか?」

「内容を全てイジるのは無理だ。世界観や設定も無理。なので、主人公を矯正してこい」

「主人公を?!」

「アホな主人公、無自覚な主人公、常識の無い主人公、これらを矯正しろ」


確かにそういう主人公が多いけどさ、それ変えたら物語を変える事にならないのかな?


「でも大体そういう主人公ってチート持ちですよ?! どうやって矯正するんですか?!」

「お前には必ず主人公以上のチートが付くようにしておく。後は“ページ飛ばし”と“アイテムボックス”と“転移”と“ペテン師”の能力を授ける」


確かに主人公より強ければ、力ずくで押さえつけて話し合いも出来るかもしれない。


「チートについては理解しました。その他の能力ってなんですか?」

「“ページ飛ばし”は本のページを飛ばす能力だ。1巻が本の中で10年とかあるだろ? 10年も居たいか? これを使えば10年後に行ける」


確かに! 何年もかけて修行されたら付き合う俺が大変!


「“転移”は名の通りで、本の世界ならどこにでも行ける。本の世界へ行き来するにも必要な能力だ」

「転移で戻れるんですね?!」

「ああ。しかし解決もしていないのに、しょっちゅう戻って来られては困る。バレやすくなるからな」

「バレるバレないが基準なんだ……」

「そこで“アイテムボックス”だ。こちらの世界の物を入れて持って行っても良い。本の世界の金なぞ無いのだから飲食の為にも必要だろ?」


確かに買い物が出来ないなら、持ち込むしかない。


「服装とかはどうなるんです?」

「それらも持っていけ」

「いや、現代の服じゃあ目立つと思うんですけど……」

「目立とうと何も困らないだろう?」


困らない……のかなぁ?


「最後に“ペテン師”の能力だ」

「それ! めっちゃ怪しい能力!」

「何の事は無い。ただ喋る内容に説得力を持たせるだけの能力だ」


なるほど。これで主人公を言いくるめろ、と。

まぁ日本にもそういう人はいるからなぁ。論点をすり替えているだけなのに論破とか言ったりさ。それってデータはあ…おっとこれ以上はいけない。


「これらの能力は今授ける。ありがたく受け取れ。勿論地球でも使えるが、派手に使って他の神に見つかっても当方は一切関知しないのでそのつもりで」

「IM?! ってか、今貰えるなら……俺じゃなくても良いんじゃないですかねぇ?」

「神に向かって“ペテン師”を使うか。無駄だ、無駄。神が与える能力が神に通用する訳無いだろう?

 ちなみに能力にレベルも複合技も無いので、強くなる事も弱くなる事もないぞ」


ちっ、対策済みか。

まぁ授ける事が出来るんだ、取り上げる事だって簡単だろう。本の世界に居る時に転移を取り上げられたら戻ってこられなくなる。

神様には逆らわない方が良いだろう。


「では10分後に最初の本に送る。主人公の横に送るから心配するな。あぁ、困らないようにアイテムボックスの中に書籍も入れておくから読むように」

「早い!! 普通は読んでからじゃないですか?!」

「私はこれから合コンなのだ。もう時間が無いのだ」


合コンよりもこっちの方が重要ですよ!!

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