第12話
奇人変人が集まるとされる塩原学園生徒会室。そこに呼び出された俺と結那は恐る恐る中へと入った。
中は客人用のものであろうソファが対面に二つ。簡素な丸テーブルとその上には学園中から寄せられた仕事の書類が積み上げられている。
少しばかり部屋を見回せば先代の写真やら理由のわからん格言が書かれた額縁とかいろいろなものが目に飛び込んでくるが、とりわけ異彩を放っていたのが彼女だった。
生徒会室の一番奥に置かれたデスク。そこに腕を組んで座っている赤髪の女。鋭い目つきと彼女が放つ威圧感からは彼女がこの学園のトップなのだと感じさせられる。
彼女は
「ようこそ我が生徒会室へ。そう固くならずにリラックスしてくれ」
凛とした声が俺達にソファに座るように促してくる。反抗する意味も無いため俺と結那は大人しく座った。
「飲み物何がいいー?お茶?ジュース?牛乳もあるでー?」
先程俺達を招き入れた男が呼びかけてくる。思ったよりフランクなんだな…なんか関西弁だし…
「えっと、じゃあお茶で…」
「私もそれで」
「はいよ〜」
しばらくして俺と結那の前にお茶の入った紙コップが置かれる。俺はなんとなく口を付けてみるが、ただのウーロン茶だ。いくら奇才集団だからって変なものを入れているとかいうことはなさそうだ。
結那は俺が飲んだのを見て自分のコップに口を付けた。とりあえず来たのはいいものの、綺羅さんの放つ雰囲気を前に俺も結那も怖気づいてしまっている。
「二人共、綺羅ちゃんと話すのは初めて?」
「はい。今回が初かと…」
「そっか〜綺羅ちゃん強面やけど結構優しいから安心してええで。今回呼び出したのもお叱りするわけじゃないしな。…あ、自己紹介まだやったね。僕は
「えっ、間宮って…生徒会副会長の!?」
間宮蓮太郎。名前だけは聞いたことがあったが、まさかこの人がそうだったとは…
噂だとかなり怖い人だって話だったけど、見た限りではそんな感じはしない。人は内面が肝心と言うが、この人も内面になにかを秘めているタイプなのだろうか。
「あははっ、信じられへんって顔やなぁ?僕、結構頭切れるタイプなんやで?侮られると困るなぁ」
「いやいや、そんな…」
「蓮太郎、話はそこまでにしろ。このままだといつまでも脱線したままだ」
「なんや綺羅ちゃん冷たいなぁ〜可愛い後輩と話したいのは先輩として当然やろ?…ま、脱線してるのは本当やし、本題に入るとしよか」
生徒会長の赤く光る瞳が俺と結那に向けられる。その鋭い視線に俺は思わず背筋を伸ばした。
「まずは率直に聞こう。今回の榊原優花退学の一件、やったのは君達だね?」
綺羅さんの言葉に俺と結那は動揺を隠せなかった。
やったのが俺達だと判別出来る証拠は何一つ残していなかったというのにどうやって特定できたのか。
誰かに見られていたのか?___いや、人目には十二分に気をつけていたはずだ。バレているはずがない。
映像から特定した?___奇才集団ならやってのけそうなものだが、そんなのは俺の個人情報を知っていないと到底できない芸当だ。
まさか、カマをかけられている?___だとしたらなぜ俺と結那をピンポイントに?俺達二人だと確信出来る情報が無い限りはそんなことはできないはずだ。
考えれば考える程に思考はこじれていく。なんにせよ今の状況で言えることはこの生徒会長様は俺達二人の状況を知っているということだけだ。
「その顔だと二人共図星ってところやな?いや〜見張ってて正解やったわ」
「…見張ってた?」
「優花ちゃんがやんちゃしてるのは僕たちも承知の上だったんや。詰めようにもあっちはいかんせん味方が多くてなぁ。その上証拠も尽く消されてたから尻尾をつかめずにいたんよ。そんな時に君が倉庫に入っていくところを見たんや」
…そういうことか。それなら納得が行く。
あの時は接触のことばかり考えていた。そのせいで他のことに思考を割くリソースがなかった。それに加えてあの倉庫は旧生徒会の倉庫としても使われていた。普段は使わないというだけでたまに使われている。
つまりは蓮太郎さんは俺が優花と接触しているところを見た、ということなのだろう。
「…少しばかり不注意でした」
「いやいや、別に怒ろうとしてるんやないって。ただ、一連の事件を解決に導いてくれた二人にお願いがあってん。ここからは綺羅ちゃん」
蓮太郎さんのアイコンタクトに綺羅さんは頷いた。
「二人共、生徒会に入る気は無いだろうか?」
その言葉は意外性も孕んだものであったことから、それを理解するのに俺は数秒の硬直を要した。
「俺達が…生徒会に…?」
「あぁ。今うちの生徒会は深刻な人手不足でな。と言っても、この学園では問題事が多い。細かいものから、君達が解決したようなものまでな。ただでさえ業務があるというのにこのままでは学園の治安維持は難しい。だから君達に協力を仰ぎたい。君達のような人材が必要なのだ」
綺羅さんの真摯な瞳を見るに、嘘偽りは無いようだった。
俺は面倒事は極力避けて通るタイプの人間だ。この提案は俺にとってただの面倒事でしか無い。生徒会に入るなんて、しかもあの奇人変人集団の中に飛び込むなど自殺行為だ。ここは丁重にお断りをして…
「やります。私達」
「…は」
「そうか、そう言ってもらえるとありがたい。では是非…」
「ちょちょっとまってください」
「どうした?なにか問題でも…」
「いや、問題大アリっす。…結那」
俺は結那を睨む。結那はあたかも当然みたいな顔で首をかしげた。この野郎…どんだけ俺を不幸にしたいんだよ。
「おやおや、もしかして結城くんは生徒会いやなんか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど…」
「う〜ん、できれば二人共入ってくれると助かるんやけどなぁ〜…」
蓮太郎さんが首をかしげながらこちらに目線を向けてくる。…これはもしかして実質的な脅しか?くっそ、この人俺の退路を断つつもりか…流石副会長。性格がお悪うございますよ…!
このままの流れだと断ることができない…いっそこのまま逃げてしまうか?一か八か俺の足ならまだ…待てよ、確か綺羅さんって体育の成績学園トップだったよな?となると望み薄いか。
…あれ?これもしかして詰んだ?
「私としても結城くんがいてくれると心強いわ」
…!この女…!
「ほらほら、結那ちゃんもこう言ってることやし…ここは男気見せるとこちゃうか?」
「…わかりましたやりますよ」
「ほな決まりやな。いやぁ、可愛い後輩が二人も入ってくれるなんて嬉しいなぁ〜」
どの口が…まぁ、責めるべきは蓮太郎さんじゃないか。
俺は隣に座っている結那をちらりと見やる。結那は勝ち誇ったような表情で俺を見ていた。
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